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毎月短歌の本 2024年5月号 個人的5選

はじめに

『毎月短歌の本 2024年5月号』の全ての短歌に目を通しましたので、「いう人」として個人的に印象に残った現代短歌を5首紹介し、感想を付記しておきます。完全に短歌素人の意見ですので、見当違いなところもあると思いますがご了承ください。なお、順番は掲載順になっているはずです。

個人的5選

「危ない」と縫い針までもうばわれて祖母は鳴らないレコードになる(小野小乃々)

下の句の「祖母は鳴らないレコードになる」という比喩が圧巻でした。祖母とレコードという世代のマッチ感もいいですし、祖母が活力を無くしている様子がたった一言で伝わってくるのはやはり言葉選びのセンスの良さだと思います。また、全体を通して五感に訴えかけてくる歌であることも印象的でした。「危ない」というのは視覚的、「縫い針」というのは触覚的で、この前置きがあるからこそ「鳴らないレコード」という聴覚的な比喩がとても新鮮で面白く聞こえるのかな、とも感じました。

金魚という金魚が全部すくわれて一人をしてるおばあさん屋さん(もやっしー)

ユーモラスながらどこか切なさを感じさせる秀逸な歌だと思いました。上の句だけですぐに光景が目に浮かんできますし、「一人をしてるおばあさん屋さん」という下の句の言葉遣いが絶妙です。純粋に面白い歌とも読めますし、ぽつねんと座り込んでいるおばあさんのどこか寂しそうな様子が浮かんでくるようにも思えてくる味わい深い歌です。

風船をふくらますため吹き込んだ息がわたしでなくなる瞬間(船田愛子)

いい短歌には「そこに着目するのか!」とはっとさせられる歌というのがよくあるのですが、この歌もそうでした。いったいどこまでが「わたし」なのか、というテーマは繰り返し提起されてきて、切った髪は? 爪は? 切り落とされた腕は? などなど色んな状況が考えられてきましたが、「風船をふくらますため吹き込んだ息」に着目したのはこの歌が初めてではないでしょうか。それくらい新鮮で衝撃的な歌でした。

永遠に辿り着けないと悟ってあなたは方角になってゆく(錦木 圭)

下の句の例えがあまりにも秀逸でした。永遠に辿り着けないものの例えとしては空、雲の上、太陽、月、星などが思い浮かびますが、「方角」という例えは初めて聞きました。確かに「東」というのは常に「向こうの方」にあって、どれだけ東の方に向かって行っても相変わらず東は「向こうの方」にあります。確かに永遠に辿り着けない……どうやって思いついたのか作者の方に聞いてみたいくらいです。

ゴミ箱に蝉の抜け殻コレクション 三葉虫は値がつくらしい(とかげまろぅ)

状況がはっきりとは書かれていませんが、恐らく子供時代の「宝物」を大人になってから整理している場面なのでしょう。子供時代には「蝉の抜け殻コレクション」も「三葉虫」も同じ価値の宝物であったはずなのに、いざ大人になってからそれを見てみると、「蝉の抜け殻コレクション」はただのゴミにしか見えなくなってしまっている。だからゴミ箱に入っているんでしょうね。しかし三葉虫は「お金」という大人の物差しで見ると価値がある。子供と大人の物差しの違いがぞっとするほど鮮明に浮き彫りにされる、残酷でいて美しい歌だと思いました。


なお、ここに掲載しなかった5作品以外でも良い歌がたくさんあったのですが、1つ1つにコメントを付けていると大変なので誠に勝手ながら5首だけに絞らせていただきました。個人的にいいなと思った他作品についてはYouTubeのライブ配信で触れさせていただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=aWM7jXm5xrE


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