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落語『井戸の茶碗』について

三遊亭わん丈さんのネットラジオ『サンドラ煩悩』にリスナーから面白いレターが届いていた。

『井戸の茶碗』について。

(要約)
一般的にはハートフルな落語とされていますが、ですが僕は正直嫌いです。

フリーターである侍1(千代田)のがまじめで素晴らしい人物として書かれているけど、融通が利かなすぎ、初対面のリサイクル業(屑屋清兵衛)に無理難題押し付け、侍2(高木)が下手に出ているのにいうこと聞かない。そのくせ侍の誇りとやりを振り回す、意味わかりません。

ドキュン老害です、この人が評価されているのが納得いきません。

https://stand.fm/episodes/64faa6e1d8c0aadef9200bde

わん丈さんは「実はいい人じゃない、だから受けてる。そこが落語」とうまく答えていたので、もうそのままでもいいんだけど。
前からこの『井戸の茶碗』について思うところがあったので、ちょっとグダグダ書いてみる。

講談との違い

『井戸の茶碗』好きな人多いよね。
こんな噺。

簡単に言うと、いきなりお金が出てきちゃって、武士二人がどっちもいらない・受け取れないと言うので、間に入った屑屋が大変な目に遭う、という噺。

ご存じの方も多いと思いますが、これ、講釈種 いわゆる釈ネタというやつ。講談を落語に直したもの。

で、こちらに講談のあらすじが。

落語とちょっと違うところがあるのにお気づきになるだろうか。

宇兵衛はこの金を仏像の売り主に返したいという。
太兵衛の道案内で宇兵衛は惣左衛門の家を訪ねる。
宇兵衛は事情を話し、自分は仏像の中身の金まで買ったわけではないと、この50両の返却を申し出る。
一方、惣左衛門は一旦自分の手を離れた物は受け取れないとこれを断る。
受け取れ受け取れないの争いになり両名が刀を引き抜こうという所で、大家の吉兵衛が間に入る。

http://koudanfan.web.fc2.com/arasuji/06-05_hosokawatyawan.htm

落語と講談で登場人物の名前が違うのは、まあ置いといて、
武士二人が直接会ってる。そんで、喧嘩になる。

でも、ご存じの通り落語では、屑屋に「行かせる」。
金を受け取る受け取らないと揉めているのは武士同士なのに、直接交渉しないのです。
で、屑屋が二人の武士の間で行ったり来たりで困り果てると。

武士がその名に懸けて「金は受け取れない」というのは、別に構わない。
プライドに生きる「名を惜しむ」商売なんだから。

でもそれはあくまで武家社会の話であり、屑屋とは関係ない。
だから講談では直接会って話をする。浪曲でも同じ。

ところが落語『井戸の茶碗』では、屑屋に交渉を代理させて、武士同士の無益な意地の張り合いに巻き込んでしまっている。それも、屑屋を恐喝までして。

千代田も高木も「ダメな侍」なのだ

要するにですね。落語に出てくる千代田と高木は「ダメな侍」なんですよ。

講談(と浪曲)は、基本「ヒーローのストーリー」なので、武士はちゃんとしている。

落語は基本「人間のダメなところを楽しむ」芸なので、他の落語に出てくる武士同様に、この二人は「ダメな侍」。『粗忽の使者』に出てくる地武太治部右衛門と変わらない。

いかがでしょうか、こう考えると、けっこう納得いきませんか。

ノスタルジアと、その「裏」としての「人間のダメなところ」

じゃあなんで、多くの人が『井戸の茶碗』を「いい話」として愛好しているのか。
それは、多くの人が、落語をノスタルジアの対象としてみているからです。
『井戸の茶碗』は善人ばかりでいい話だねえ、昔はいまと違っていいねえ。と思いたい。

そういう楽しみ方を否定はしません。できません。
でも、繰り返しますが、落語はもともと「人間のダメなところを愛でる」芸であります。
言い換えると「落語は失敗のカタログ」。滑稽噺は特にそう。

「いい話」に見える落語には、実は「その裏」としてむ「人間のダメなところ」が、仕込まれていたりするのかも、よ。

ま、わかんないですけどね。「落語は失敗のカタログ」といいつつ、「落語は"例外"でできている」というのも、また事実なわけでして。

柳家喬太郎師匠の『井戸の茶碗』では、最後のほうで屑屋が千代田に「百五十両で娘を売るんですね!」と言っちゃう。絶叫で否定する千代田がやたらおかしい。
これを「現代的な演出」と捉える人がいるみたいですが、僕はむしろ「本質的」なんじゃないかなと感じている。

さらに快楽亭ブラック師匠の……。あ、これはもう、とても書けません。サゲを聴いた客が全員悪人の顔になって笑っていた、と記すにとどめる。

ちなみに僕は『井戸茶』なら、「ダメな侍に振り回される」部分を強調する立川寸志さんの型が好きです。
三遊亭わん丈さんの『井戸茶』は高木が爽やかでいい。うちの会でもやってもらいました。

というわけで最後にうちの落語会『シェアする落語』の宣伝入れておきますね。

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