忍殺TRPGソロシナリオ【クリーニング・イン・ザ・レイン】

◇前置き◇

 思い立ったが吉日……そういうコトワザがある。ドーモ。しかなです。今回もまたニンジャスレイヤーTRPG用のソロシナリオを書いてみる。ソロシナリオ……つまりダイスとメモするものさえあれば一人で遊べてしまうタイプのアレだ。

 基本的にはソウカイヤ所属者用のソロシナリオとなっており、オープニングもそんな感じで書く。しかしシナリオには多様性が求められる……必要であればあなたはオープニングをそれとなく読み替え、ネオサイタマの闇に生きるモータルなアウトローたちやドラゴン・ドージョー生用のシナリオとしてよい。自由

 そういうわけで早速やっていこう。ヨロシクオネガイシマス。



◇オープニングな◇


「そこのあなた! ちょっと私といいことしない?」

 真後ろからかけられた声に、お前は怪訝な顔で振り向く。ちょうど三歩ほどの距離を保って笑みを浮かべていたのはセーラー服姿の少女だ。スカートから覗く脚はオモチ・シリコンのカバーすらされていない剥き出しのサイバネティクス。

 そうした趣向の路上オイラン……などではない。なぜならばここはニチョームの繁華街などではなく、ソウカイヤの本拠地たるトコロザワ・ピラーだからだ。数秒間お前を見つめていた少女は笑みを深めた。

「アッハ、面白い顔するね! ドーモ! 私はシャープキラーです!」

 然り。彼女はお前と同じくソウカイヤに所属するニンジャだ。彼女は場のアトモスフィアにそぐわぬ、朗らかで快活な様子で用件を説明する。端的に言えばモータルハントの誘いだ。

最近、アタバキ・ディストリクトにヤンク・チームができてさ。結構好き勝手やってカネを溜め込んでるらしいんだよね。そのカネって社会に循環しないじゃない? そういうのダメだよね! だからささっと掃除してバイト代としてもらっちゃおうってワケ」

 頷きかけたお前の脳裏に疑問が浮かぶ。この少女が自分を誘うメリットがわからない。正直に告げると、シャープキラーはケラケラと笑った。

「私一人で行くとナメられるもの……あのディストリクトにはハイスクールがあってさ。そこのヤンク連中、たまに不用心な女子高生を前後目的で誘拐してるみたいなんだ。そんなとこに一人で行くの、コワイじゃん!」

 ……到底怖がっているようには見えない。やや釈然としないものを感じつつも、特にやることのなかったお前は仕方なく首を縦に振った。


◇本編な◇


「次の路地を右ね」

 重金属酸性雨の降り注ぐアタバキ・ディストリクト。お前の三歩後ろを歩くシャープキラーがナビゲートする。それに従いつつも、お前は落ち着かない。自分より道に詳しいだろうこのニンジャは、なぜか前に出ることを避けているように思える。

 次第に道は複雑に、煩雑に入り組み……暗く、狭くなっていく。たしかにヨタモノが巣を作りやすそうな場所だ。お前は後方のシャープキラーに気を配りつつも、着実に進んでいく。そのときだ。

「オイオイ、オイオイ」「アッヘ! 迷子が来たぜ!」

 前方の物陰から二人のヨタモノが姿を現した。ニヤついた顔、手にはチャカガン。ヨタモノの片割れが銃口をお前に向ける。

「道案内してやるからカネを出アバーッ!?」

 そのヨタモノが両断され、死亡! 「エッ」もう片方のヨタモノが呆気に取られる。お前の後方に身を潜めていたシャープキラーが、お前の頭上を飛び越すと同時にカタナで叩き割ったのだ!

 シャープキラーが視線をよこす。『残りを始末しろ』とその目が語る。お前は呆然と立ち尽くすヨタモノに対し、カラテ(【カラテ】値と同数のダイスを振って判定)スリケン投擲(【ワザマエ】値と同数のダイスを振って判定)のどちらかを行う必要がある。目標出目はどちらも2以上(難易度KID)……相手はNRS寸前であり、ほとんど棒立ちとなっているからだ。


●成功した場合

イヤーッ!」「アバーッ!?」

 お前はなんの問題もなくヨタモノを即死させた。流血はすぐに重金属酸性雨に流されていく。納刀したシャープキラーがおどけたように拍手した。

「オミゴト! 思わぬところで臨時収入だね。これから先でもっとボーナス重点!」

 快活な様子のシャープキラー。お前はもしかするとややうすら寒いものを覚えたかもしれない。すぐ後ろにいたというのに、この少女はヨタモノに対する殺気を少しも漏らしていなかった……用心する必要があるかもしれない。お前はヨタモノの懐から【万札】1を抜き取り、ヤンクの巣を目指す。


●失敗した場合

ア、アイエエエエエエエ!?」

 お前のカラテ……あるいはスリケン……が空を切ったのが発端となったか。NRSを発症したヨタモノがゼンマイを巻きすぎたオモチャめいて逃げ去ろうと「イヤーッ!」「アバーッ!?」

 ……した直前、シャープキラーのサイバネ脚がその股間を蹴り砕いた。ヨタモノが白眼を剥いて崩れ落ち、泡と血を吐いて死ぬ。路上に流れた血は重金属酸性雨に洗われ、痕跡すら残さない。

「あれ? 死んじゃった。……ゴメンゴメン、動きを止めて仕留めやすくしようと思ったんだけど」

 頭を掻きつつ、シャープキラーがヨタモノの懐から万札を抜き取る。そして何事もなかったかのように先へ進み始めた。お前はもしかすると、眼前のニンジャの残虐性にややうすら寒いものを覚えたかもしれない。シャープキラーへの警戒を高めつつ、後に続け。


◇◆◇◆◇


「ハイ、到着!」

 シャープキラーが朗らかな声を上げる。お前の眼前にそびえ立つのは、もはや使われなくなってから久しいと思われる廃倉庫だ。入り口には十人近くのヤンクがたむろし、イカを焼いたり、下世話なスラングを飛ばして笑いあったりしている。

 ヤンクたちはまだこちらの様子に気づいていない。彼らの様子を観察していたらしいシャープキラーは、不意に悪戯っぽい笑みを向けてきた。

「ちょっとおどかしてやろうか。あなた、なんかジツ使える? 使えないなら私がやるけど」


●ジツを使える場合

 お前は【精神力】1を消費し、【ニューロン】+【ジツ】で判定を行うことができる目標出目は4以上。成功した場合……

アババババーッ!」「アイエッ!?」「ニンジャ!?」「ニンジャナンデ!?」

 突然シンピテキな力を発揮した来訪者に、ヤンクたちは総崩れとなる! シャープキラーが笑みを浮かべ、イアイを構え跳躍。殺戮の始まりだ。ボーナスとして【万札】2を獲得してから、お前も参加せよ。


●ジツを使えない、あるいはジツ使用に失敗した場合

「ン、オッケー。じゃ、やっちゃうね」

 気楽な調子で頷いてみせたシャープキラーがカラテを構え「イヤーッ!」その場でセイケンヅキを繰り出す! それに呼応して彼女の背から飛んだのは二つの光球! カラテミサイルだ!

「「アバーッ!?」」「「「アイエエエエ!?」」」

 武装していたヤンク二人が脳天に穴を穿たれ死亡! 仲間の死にパニックとなる生き残りヤンク! この混乱に乗じ、『掃除』を行いたまえ。


◆◇◆◇◆


 ヤンクたちはすでに潰走状態にあり、反撃してくることはないだろう。「イヤッハー!」「アバーッ!?」シャープキラーのイアイがまた一人、不幸なヤンクの首を撥ねた。もし静観していれば、お前の懐に入るカネはなくなっているにちがいない……今回の目的はモータルハントだ。狩らなければカネは入ってこない

 【カラテ】【ワザマエ】のどちらか高い方を選択し、そのダイスを好きな数だけ分割してハント人数を決めよ。例えばお前の【カラテ】が4だった場合、一回だけ判定(ダイスを4つ振る)や二回判定(ダイス1とダイス3)などができる。四回判定(ダイス1個を4回振る)も可能だ。

 ハント人数を決めたら、順次ダイスを振っていくこと。出目4以上であればハント成功となり、【万札】1を獲得できる。出目6のダイスが一つでも含まれていればボーナスとして【万札】2だ。

 ただし、判定に失敗した時点でお前はハントを切り上げ、ヤンクどものヤバレカバレな反撃から【回避】判定をしなければならない。このときの目標出目は3。だが回避に失敗した場合、1+ハントできなかったヤンクの数のダメージを受けてしまう。回避後、生き残ったヤンクたちはどこかへ逃げてしまうぞ。

 複雑なので例を出そう。ソウカイニンジャであるサンプラーは、【カラテ】5を誇るそれなりに強力なニンジャだ。彼は欲張り、ヤンクを5人ハントすることにした。この場合、彼はダイス1つを5回振ることになる。1回目は成功し【万札】1、2回目は出目6が出て【万札】2。しかし3回目で判定に失敗してしまった。彼はヤンクハントを切り上げ、ヤンク反撃を回避しなければならない。もし失敗したら、1+(判定ができなかったヤンク人数)2の合計3ダメージを受けてしまう……!

 ……廃倉庫の前にはブラッドバスが広がっていた。カタナにこびりついた血を無造作に払い落としたシャープキラーは、凄惨な有様にそぐわぬ朗らかな笑みを向けてくる。

「よし、掃除終わり。こいつらのアジトにもなにかあるかもしれないし、探してみよっか」

 断る理由も特にない。お前はシャープキラーとともに、廃倉庫へと足を踏み入れた……


◇◆◇◆◇


 廃倉庫の中はひどく静かだった。「バカ」「アブナイ」「スラムダンク」といったショドーが壁に直接描かれており、饐えた匂いが鼻をつく。

「ヤンクはあれで全員だったのかな? 前に調べにきたときはもう少しいた気がするんだけど」

 廃倉庫の中を見回しつつ、シャープキラーが呟く。生き残りがいたところでニンジャ二人にとってみれば取るに足らない相手ではある……が、用心に越したことはないだろう。

 周囲を物色しつつ、奥へと進んでいると「アイエエエ……助けて……」か細い少女の声が耳に届く。見ると、柱に鎖で繋がれた女子高生の姿がそこにあった。どうやらここのヤンクどもに誘拐されてきたらしい。

お前は……

1. 鎖を断ち切り、逃がしてやる
2. カネを要求したうえで助ける
3. 一通り楽しんでから始末する


●1を選択した場合

 「イヤーッ!」お前はつかつかと歩み寄り、女子高生を縛っていた鎖を断ち切った。今ならヤンクがいないと告げ、廃倉庫の入り口を指し示してやる。

「ア……アリガトゴザイマス!」

 目に涙を浮かべた少女は、何度もお前にオジギしてから駆けていく。気づけばシャープキラーは先に進んでいた。後を追え。


●2を選択した場合

 助けるのは簡単だ。しかしただで助けるのもバカらしい……お前は女子高生の顔を覗き込み、カネさえ払えば助けてやると宣言する。

「エッ……い、家に帰ったら必ず振り込みます! だから……!」

 言質を取ったお前は容赦なくカネを要求する。最大【万札】5まで請求可能だが、同じ数だけ【DKK】を取得する。例えば【万札】3を請求した場合は【DKK】3を同時獲得だ

 あるいは保護という名目でこの女子高生を連れ帰ってもいい(【万札】10と引き換え、あるいは全ステータス1のモータルとして確保可能)。その場合、【DKK】を7獲得する。

「アッハ、カワイソ! まあ、死んだら終わりだしね」

 這々の体で逃げていく女子高生の背を見送り、シャープキラーが笑う。彼女とともに廃倉庫の探索へ戻れ。


●3を選択した場合

 この場にいるということは、すでにヤンクたちから玩ばれたあとだろう。ならば自分が楽しんだとしてもなんの問題もない。お前は脅える少女へ静かに歩み寄った。

 ……ダイスを1回振り、判定を行え目標出目は6


●成功した場合

 女子高生に手をかけようとしたその寸前、お前はニンジャ第六感のわずかなざわめきに従い振り向いた。シャープキラーがこちらを見ている……笑顔で。だがその目が少しも笑っていないことに気づき、お前は慌てて女子高生から離れた

「あれ、いいの? ならいいや。そこのキミ、あとで助けるから待ってて」

 シャープキラーは笑顔で言うと、廃倉庫の奥へと進んでいく。冷や汗がにじむのも感じながら、お前もその後を追った。必要であれば【ニューロン】を1増加させてよい。これで成長の壁を越えることはできない。


●失敗した場合

 胸に軽い衝撃。お前は怪訝に自分の身体を見下ろす。心臓を貫くように、カタナの切っ先が飛び出していた。「そういうデリカシーのない人、嫌いだな。私」シャープキラーの囁きが耳に届く。

 気配はおろか殺気すらなく人を殺せるこのニンジャの存在を忘れていたお前のウカツだ。次の瞬間、カタナは引き抜かれ、鋭いイアイでお前の首は宙を舞う。お前は爆発四散した(キャラロスト)


◆◇◆◇◆


 シャープキラーとともに廃倉庫を進む。めぼしいものも人影もない。ハズレか。お前が探索の切り上げを宣言しようとした、そのときだ。

「イヤーッ!」「アバーッ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!?」「イヤーッ!」「アバーッ!?」

 悲鳴。隣接する倉庫から。お前はシャープキラーと視線を交わし、頷きあう。跳躍。窓を蹴破り、さらに隣接倉庫の窓を蹴破りエントリー!

 ……そこにいたのはヤンクと思しき三つの死体。あられもない姿で震える女子高生。そしてその女子高生を守るように立つ……セーラー服姿の……ニンジャの少女

 超自然の光を湛えたその瞳が、お前たちを捉えた。恐るべき威圧感。間違いなくアーチ級ソウルの憑依者。しかも成り立てで、暴走している。シャープキラーがこちらを見た。『ヤバイ。逃げるよ』とその瞳は語っている。

イヤーッ!」

 ニンジャの少女がこちらを指差すと同時、おびただしい数の桜色の光球……否、桜色の光を帯びたオリガミ?……が殺到! ダイスを三分割し、【回避】判定せよ。目標出目は5以上失敗した場合、1回につき【体力】1を失う【精神力】とダイスを1つずつ消費し、1回のみ自動成功も可能だ【体力】が0以下となった場合、爆発四散(キャラロスト)だ

 生き延びた場合「イヤーッ!」シャープキラーがお前の首根を掴み跳躍! ドウ! そのサイバネ脚からブースターが展開し再跳躍! 謎めいたニンジャ少女のジツを振り切り、倉庫からの脱出を成功させた。ワザマエ!

「アッハッハ! いや、あんなのと出会うとは思わなかった! まだ死にたくないからね、さっさと逃げよう」

 お前を解放してから、シャープキラーはネオン看板を飛び伝ってトコロザワ・ピラーへと帰還していく。お前もまた、一度トコロザワ・ピラーへ戻る必要があるだろう。【エンディングへ】



◇エンディングな◇


「アッハッハ! いやあ、ひどい目にあったね」

 朗らかな笑みとともに、戻ってきたシャープキラーが言った。先ほど遭遇を果たしたアーチ級ソウルの憑依者について、スカウト部門への報告を終わらせたところなのだ。

「でもまあ、その分臨時収入が増えたってことで。ハイ!」

 お前に手渡されたのは茶封筒。中には【万札】10が収められていた。発見報酬と言ったところか。またシャープキラーが抜け目なく申請を済ませていたため、【余暇】2も同時に獲得する。

「……けどあのニンジャ。セーラー服ってことはアタバキ・ブシド・ハイスクールの生徒かもね。まあだからなんだって話なんだけどさ」

 またなにかあったらよろしくね、とシャープキラーは去っていく。お前は窓を見やり、ネオン輝くネオサイタマの街並みとそこに降り注ぐ重金属酸性雨を眺めやった。あのニンジャとまた相見えることがあるのか。そんなことを考えながら。【終】



◇あとがきな◇

 ……いかがだっただろうか。読んでみてお判りのとおり、例のアーチ級ニンジャはヤモト・コキを想定している。もしあなたが望むのであれば、そこで遭遇するアーチ級ニンジャを別人にすり替えても構わない。

 このソロシナリオをきっかけにアーチ級ニンジャのソウルを宿した少女をめぐるキャンペイグンを始めたりするのも十分ありだ。なにかしら、皆様のイマジネーションを刺戟するものになっていればと思う。

 ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございます。プレイしてくださった方は感想やアドバイスなどいただけるとありがたい。気が向いたらまたやるよ!

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