忍殺TRPGソロシナリオプレイログ:【レッツ・ゴー・スクイッド・ハンティング】

◇前置きな◇

 今回はラブサバイブ=サンのソロシナリオに挑戦していく。

 このシナリオにはバイオが絡んでいる……というわけで、オーキッドに挑戦してもらうことにした。危険生物ハンターではあるが、今回は生い立ちのマイナースキルは適用せずそのまま行ってみることとする。

ニンジャ名:オーキッド
【カラテ】:3
【ニューロン】:6
【ワザマエ】:6
【ジツ】:2(ヘンゲヨーカイ)
【体力】:3
【精神力】:6
【脚力】:3
持ち物など:
・オーガニックスシ
○危険生物ハンター
【万札】:16

 では、ヨロシクオネガイシマス。

◇本編な◇

ソウカイ・シンジケートのニンジャである君は、ネオサイタマ第七埠頭の廃棄された港湾施設にやってきていた。与えられた任務は、この近辺で多発している行方不明事件の原因の調査である。既に1人のニンジャが送り込まれたが、行方をくらましているらしい……。

 暗い闇の中、重金属酸性雨が虚しく黒い海へと打ちつける。ここはネオサイタマ第七埠頭。廃棄された港湾施設だけが存在する、一種の空白地帯だ。……少なくとも、まっとうな市民にとっては。

 灯りもない施設の一つ。その入り口に佇む人影あり。ブカブカのミリタリーコートを着込んだ桃色の髪の少女である。襟を立て、口元を覆い隠している。周囲に人の気配すらない、不気味ともいえるアトモスフィアに囲まれながらも、その表情には不安も恐怖も浮かんでいない。

 なぜならば、彼女はニンジャであるからだ。名をオーキッド。自らが所属する組織……ソウカイヤに与えられたミッションを達成するため、彼女はここにいる。

 任務の内容は単純だ。この近辺で多発する行方不明事件の原因把握。オーキッドは以前も似たようなミッションをこなしているため、そのときの経験が買われた格好だ。

 だが、今回のミッションにはさらに不安を煽る要素がある。既にソウカイヤはソウカイニンジャを一人調査のために派遣しており……そのニンジャが、戻らない。生きているのか、爆発四散したのか。後者であればそれを成したのは何者か。一筋縄ではいかないだろう。

 脳内でミッションの内容を確認し終えたオーキッドは、するりと施設内へと侵入した。あたりは闇。だがオーキッドの顔にも足取りにも、躊躇いの色は見られない。彼女は淡々と奥へと進んでいく……

◇◆◇◆◇

 息を潜め、周囲の気配を探る。必然的に歩みは遅くなる。しかしオーキッドはリスクヘッジに慎重だ。今、周囲は樹海や荒野と同じ狩場であり、いつどこから生物が飛び出すかわからない。……その生物が獲物か狩人かは別問題だ。

 オーキッドは目を細める。前方に影。覚束ない足取りでこちらにやってくる。闇を透かして見えるのは安っぽいヤクザスーツだ。(クローンヤクザ)断定し、眉間にしわを寄せる。なぜこんなところに。

慎重に歩を進める君のニンジャ視力は、前方に怪しげな影を発見した。フラフラと歩くそれは……クローンヤクザだ。どうしてここに?訝しむ君へ、クローンヤクザが突然チャカ・ガンを向けた!クローンごときがニンジャ野伏力を見破るとは!?迎撃せよ
【ワザマエ】判定
6D6 → 1, 3, 4, 5, 5, 5 成功!
「アバー……!」クローンヤクザは緑色の血液を噴出し、崩れ落ちた。(【万札】1獲得)

 その戸惑いを、オーキッドはすぐに断ち切らねばならなかった。「イヤーッ!」「アバー……!」彼女はザンシンする。見よ。倒れたクローンヤクザの額に突き刺さるスリケンを。銃撃すら許さぬ早業であった。だが。

 (おかしい)オーキッドは訝しみ、ゆっくりと倒れたクローンヤクザに接近する。彼女はたしかに見た。クローンヤクザがこちらにチャカ・ガンの銃口を向けた瞬間を。察知されたのだ。周囲への探知はもちろん、不必要な物音や気配を消して移動していたにも関わらず。

 死体の側に跪き、探る。懐から見つけた万札は回収だ。獲物からなにを奪おうと狩人の勝手である。クローンヤクザの心音は既に止まっている。当然だ。しかし、オーキッドは己のニンジャ第六回が騒ぎ出すのを感じた。インセクツ・オーメン!

クローンヤクザの死体を調べようとする君のニンジャ直感力に電流が走る……!そのとき、猛烈な勢いで何かが死体から飛び出してきた!
【ニューロン】判定
6D6 → 1, 3, 3, 4, 4, 5 成功!

 「シューッ!」「イヤーッ!」クローンヤクザの口元から飛び出したロープ状のなにかを、オーキッドは咄嗟に握り止める! 彼女は顔をしかめた。手の中のそれは蠢き、おぞましいぬめりをなすりつけてくる。オーキッドはふと、過去に狩ったバイオ生物を思い出した。自販機の中に潜んでいたあの怪物を。

「成る程」

 空いた手で触手を切断し、クローンヤクザの死体から離れる。そして……おお、ナムアミダブツ! 心臓の弱い読者は目を逸らされたし。口だけではない。クローンヤクザの耳や鼻、あるいは額の傷口から大小のイカめいた触手が飛び出し、蠢いているではないか!

君は飛び出してきたそれを観察する。これは……イカの脚だ!それも、1本が人の腕ほどの太さがある!クローンヤクザの死体は……ナムアミダブツ!口や耳などから、何本ものイカ脚が飛び出し蠢いている。それらはやがて、動かなくなった。

 オーキッドはそれを無表情で観察する。触手は緩慢に蠢いていたが、やがてその動きを鈍化させ……力なく垂れ下がり、停止した。死んだらしい。

「成る程」

 オーキッドは頷き、ミリタリーコートの内側からショットガンを取り出す。危険生物ハンターとして、父親と一緒に狩りで生計を立てていたときに使っていたものだ。彼女は触手まみれのクローンヤクザ死体頭部に銃口を押し当て、引き金を引いた。BLAKKA

 バイオマツボックリめいてクローンヤクザ頭部が弾け飛び、周囲に緑の血と触手をぶちまけた。オーキッドは頷く。これで確実に死んだ。ポケットから空のタッパーを取り出し、握りしめていた触手の破片を保存。それを再びコートへしまいこんだ後、そこらの壁にぬめりをなすりつけた。

 用心深く、クローンヤクザの歩いてきた方角を見やる。そこには足跡が残されていた。屈み込み、触れる。白い粘液が糸を引いた。オーキッドは顔をしかめ、別の床にそれをなすりつける。これがなんなのかはわからない。しかし、クローンヤクザがこうなった原因を辿る手がかりにはなるだろう。

 先ほど以上の警戒態勢で、オーキッドは足跡の残された方角へと進んでいった。足跡は下り階段に続いている。地下か。

クローンヤクザの歩行してきた跡には、白い粘液がへばりついている。これを辿れば、原因を探ることができるだろう。粘液は地下へ続く階段へ続いている。君は階段を慎重に降りていった……。

◇◆◇◆◇

粘液の痕を追ううち、施設地下49メートル階層に到達した君に、何者かが躍りかかる!クローンヤクザか!?否、その頭と腕はイカ脚……イカ触手に覆われている!イカヤクザとでも呼ぶべきだろうか!「スッゾ……!」ともあれ迎撃せよ!
【カラテ】判定
3D6 → 1, 2, 3 失敗!
回避判定
6D6 → 1, 1, 6, 6, 6, 6 成功!

 階段は下へ、下へと続く。いったいどれほどの深さがあるのか。あのクローンヤクザはどれだけ深くからやってきたのか? オーキッドはそうした疑問を敢えて封じ込める。この場に答えるものなどいない。考えるだけ無駄だ。

 やがてオーキッドは階段を下り終えた。脇には「地上から49メートル下な」の標識。わかりやすい。標識から視線を外し、探索に戻ろうとしたそのときだ!

「スッゾ……!」
「ッ! イヤーッ!」

 闇の中から、くぐもったヤクザ・スラングとともに躍りかかってくる影! オーキッドは咄嗟にカラテ・パンチを放ち、これを迎撃しようとした。だが、ナムサン! 拳は襲撃者の頭部を滑り、逸れる!

「これは……」
「スッゾコラー……!」
「イヤーッ!」

 横合いから伸びてきた触手をブリッジ回避! 触手? 然り、触手だ。オーキッドはここに来て敵の全貌を把握! それは顔と腕をイカめいた触手に覆われたクローンヤクザだ。サイバーサングラスに覆われた目の部分だけが露出し、それ以外の部分は触手が包帯めいて覆い隠している。冒涜的なニンジャめいた様相!

 BLAKKA! そのままバク転で距離をとったオーキッドは、容赦なくショットガンでヘッドショット殺! イカクローンヤクザは悲鳴をあげる間も無く頭部を弾けさせ死亡! 腕に巻きついた触手がぐったりと力を失った。オーキッドはそれを見逃さぬ。

 整理する。彼女は眼前のバイオ生物に対し、これまでの遭遇経験に基づいた生態を推理する。どうやらこのイカめいたバイオ生物はヒトを含む他の生き物に寄生し、操るらしい。だが宿主が死ねば諸共に死ぬ。これだけわかれば十分だ。

 オーキッドは闇に向けてザンシンする。すでに敵意を持った気配がこちらに近づいている。リロードをする暇もない。

クローンヤクザが緑色の血液を噴出させて死ぬと、やはりイカ触手も動かなくなった。どうやら、宿主が死ぬとイカも死ぬらしい。「「「スッゾコラー……!」」」冒涜的ヤクザスラングが響く!前方には……3体のイカヤクザが出現した!
【ワザマエ】判定
6D6 → 1, 1, 2, 3, 6, 6 イカヤクザ撃破(3→2)
回避判定
6D6 → 2, 2, 3, 3, 6, 6 回避成功!
【ワザマエ】判定
6D6 → 1, 1, 2, 3, 4, 5 イカヤクザ撃破(2→1)
回避判定
6D6 → 2, 3, 4, 4, 5, 6 回避成功!
【ワザマエ】判定
6D6 → 1, 2, 3, 4, 4, 6 イカヤクザ全員撃破!

「「「スッゾコラー……!」」」

 よたよたと現れたのは、三体のイカヤクザ! 前方に突き出した腕には触手が巻きつき、チャカ・ガンを待つ手を支えている。絶対に危険だ。オーキッドは先頭イカヤクザにスリケン投擲! 「イヤーッ!」「アバーッ!」ヘッドショット殺!

「「スッゾ……!」」BLAMBLAM! クローンヤクザの銃撃をオーキッドは側転回避! 着地ざまにスリケン投擲!「イヤーッ!」「アバーッ!」ヘッドショット殺! ポイント倍点!

スッゾ……!」BLAM! クローンヤクザの銃撃をオーキッドは側転回避! 着地ざまにスリケン投擲!「イヤーッ!」「アバーッ!」ヘッドショット殺! ゴウランガ! ポイント三倍点!

 オーキッドはザンシンする。当面のイカヤクザはこれで全滅。増援が来る様子も……ない。カラテ警戒を解いた彼女はそのまま先は進もうとし、壁に突き刺さるものを見て足を止めた。それはクナイ・ダート。クロスカタナのエンブレムが刻まれた。

イカヤクザを全滅させた君は、先へ進む。その途中で、ソウカイ紋が刻まれたクナイが1本落ちているのを見つけた。行方不明になったニンジャのものだろうか?

 オーキッドは行方不明になった先任者を思い出し、さらに先ほど殺したばかりのイカヤクザたちを思い出す。果たしてあのバイオ生物はニンジャに寄生できるのか。そしてその場合のカラテは如何程か。

 最悪の想定を済ませてから、オーキッドは闇の中へと溶けていった。

◇◆◇◆◇

 クローンヤクザたちの足跡を辿り、到着したのは大きく開けた一室である。中には破棄された重機やUNIX。だが、オーキッドにとってそれらや、そこから推測されるこの部屋の役割などは重要ではない。

 オーキッドは珍しく表情を動かした……つまり、口元を思い切り歪めた。原因は室内の床だ。白濁した液体に埋まっている。確認するまでもなく、イカヤクザどもの足跡を作っていたアレと同じだろう。ここを調査するならば、どうあってもこの液体に足を浸すことになる。

 まず、目視できる範囲を確認しよう。そう決めたオーキッドが入口脇から顔を覗かせた、そのときだ。

君は大きく開けた一室へ辿り着いた。破棄された重機やUNIXが多数。恐らくは、船の積荷を管理する施設だったのだろう。足元は白濁した液体に埋まっており、ニンジャであっても非常に歩きづらい。物音を立てぬように進む君が前方のそれに気付いたとき、女の声が響いた!「ンアーッ!やめてぇ!」

「ンアーッ! やめてぇ!」

 奥から女の悲鳴が響く。オーキッドは躊躇なく室内へとエントリー。音を立てぬよう、慎重に進む。足首にまで達する白濁液は生温く、粘着質。極めて不快だった。だが今はそれどころではない。

 苦戦すること数分。ついにオーキッドは闇の中で悲鳴の主と……それを捕らえた謎めいたバイオ生物の姿を見出したのだ!

君のニンジャ視力が目にしたものは、何本もの触手に手足を縛られ拘束された女と、人間とイカが融合したかのような怪物だ!「シュシュシュ……!オレノ……コドモ……産メ……!」怪物が恐ろしい声を発する!「やだ!助けて!お母さん!ホオヅキ=サン!アレクサ=サン!誰かぁ!」女は泣き叫ぶ!

 な、ナムアミダブツ……!それは人間とイカを無理矢理に繋ぎ合わせたかのような冒涜的異形! 顔はある。胴体もある。しかしその手脚の代わりに生えるのは何十本にも及ぶイカめいた触手! そしてその顔もまた、メンポめいて触手に覆われているのだ! そしてその全身の巨大さたるや! コワイ!

 悲鳴の主は、その怪物に捕らわれた女だろう。その手脚は触手に巻きつかれ、全身を大の字に開かされている。その衣服は溶かされたと見え、豊満なバストが露わになっていた。

 オーキッドは眉をひそめ、注意深く接近を続ける。幸い、あの怪物の注意は女に釘付けだ。理由はわからないが……

「シュシュシュ……! オレノ……コドモ……埋メ……!」
「やだ! 助けて! お母さん! ホオヅキ=サン! アレクサ=サン! 誰かぁ!」

 早速理由が判明した。(成る程)オーキッドは心中で呟く。その顔には珍しく呆れと……嫌悪の表情が浮かんでいた。女は泣き叫び、身を捩る。だが拘束がほどける様子はない。おおブッダよ、寝ているのですか!?

身を捩る女だが、拘束はほどけない。「イカの赤ちゃんなんか産めるわけないよぉ!」触手に弄ばれるそのバストは豊満であった。「シュシュシュ……ナセバナル……!」「無理ぃ!」怪物の肉体から生えた触手のうちの1本が、女の下腹部に迫る!先端からは白濁した溶解毒液が滴る!アブナイ!

「イカの赤ちゃんなんか産めるわけないよぉ!」

 よほど錯乱しているのだろう。女はわかりきったことを泣き叫んでいる。それが怪物の嗜虐心を煽っていることに、果たして彼女が気づいているのかどうか。

「シュシュシュ……ナセバナル……!」
「無理ぃ!」

 怪物の目が歪み、その肉体から一本の触手が伸びる。先端から滴らせるのは白濁した粘液……(いや、違うか)オーキッドは過去の自販機の怪物を思い起こす。おそらくあれは毒液だ。触れたものを腐蝕するタイプの。

 ともあれ、触手が向かうのは溶け落ちかけた衣装にかろうじて隠された女の下腹部。このまま放っておけば何が起こるか。オーキッドはまるで興味がなかった。充分だ。もはや射程範囲内。

アンブッシュ【ワザマエ】判定
6D6 → 2, 2, 3, 4, 4, 5 成功!

「イヤーッ!」「アバーッ!」投擲されたスリケンが女の下腹部を狙う触手を切断! 怪物が大袈裟とも言えるほどに身悶えする。女が目を見開き、こちらを見た。だがオーキッドは注意を払わない。怪物がこちらの存在を捕捉したからだ。

 そして……アイサツを繰り出したのである! ナムサン! ニンジャなのだ!

「グワーッ!?」触手を切断された巨大な怪物が悲鳴を上げる!「アイエ!?」女が目を見開く!怪物は君に顔を向けた!
「シュシュシュ……ドーモ、ブラックスクイッド……デス」アイサツ!つまりこの怪物はニンジャなのだ!恐らくはヨロシサン製薬が開発したバイオニンジャである!アイサツにはアイサツを返さねばならぬ。君もアイサツを行おう。
ニンジャ名:ブラックスクイッド
【体力】:5(アンブッシュ成功のため)
【精神力】:4
バイオイカ触手:命中した場合【体力】と【精神力】にそれぞれ1ダメージを与える。
回避不能:回避判定ができず、攻撃判定に成功したらダメージをすべて受ける。
イカ粘液:部屋中が白濁した粘液で満たされているため、回避ダイスが半減(端数切り上げ)される。
​

「シュシュシュ……ドーモ、ブラックスクイッド、デス」
「ドーモ。ブラックスクイッド=サン。オーキッドです」

 オーキッドはアイサツを返す。いかに相手が冒涜的怪物といえど、アイサツされたら返さねばならぬ。それは古事記にも記された絶対の礼儀である。彼女はカラテを構えた。

 不気味に触手を揺らし、ブラックスクイッドが目を細める。

「ソノ声。貴様モ、女カ」

 オーキッドは肩を竦める。隠す必要もなし。返事をする必要もなし。だが、ブラックスクイッドの目にはたちまち怒りと嗜虐の色が浮かぶ!

「ナラバ、貴様ニモ、オレノ、コドモ、産マセテヤル」

 スリケンを準備していたオーキッドは手を止めた。その一言が……珍しく彼女の怒りに火をつけた。あからさまに自分を狩人と勘違いしたバイオニンジャの戯言が、危険生物ハンターであった彼女の誇りを傷つけたのだ!

「……ジゴクで、自分のガキと、ファックしてろ! イヤーッ!」

 左手でキツネ・サイン! 右手でスリケン連続投擲! ブラックスクイッドは触手で自らの身体を守ろうとした。だがスリケンが飛んだのはそちらではない。狙いは女を縛った四本の触手!

ターン1
【精神力】を1消費し、女を拘束する触手を切断
【精神力】6→5

 「ンアーッ!?」女が落下し、白濁液の飛沫を上げた。オーキッドのスリケンは正確に触手のみを切断したのである! ゴウランガ!

 だが、それはブラックスクイッドの怒りを増大させたにすぎない。その巨体故か、数本の触手切断ではダメージに繋がらないのだ。オーキッドもそれは予測済みである。むしろ投擲後の相手の反応から、こちらの攻撃を避けるほどの身軽さがないことを読み取っていた。

「シュシューッ!」

 ブラックスクイッドが身を仰け反らせ、触手を振りかぶる。そのすべてが白濁溶解毒液を滴らせている! 回避しなければ危険だ! 粘る足元に意識を配りつつ、オーキッドは敵のカラテが迫る一瞬を待つ!

 ……そのときである。不意に、頭上で重々しい駆動音が響いた。次の瞬間!

君のスリケンが触手を切断したことで拘束を抜け出た女は、とっさに壁面のUNIXに縋り付いた。後頭部にケーブルを突き刺して直結し、何かを操作している……その数秒後!「アバーッ!?」遠隔操作された作業用クレーンの一基がブラックスクイッドに落下し、打撃を与えた!力尽きた女は失神した。(ただちにブラックスクイッドの【体力】に3のダメージを与えます。)

「アバーッ!?」ブラックスクイッドが崩れ落ちた! 突如落下してきた作業用クレーンが、今まさにカラテを解き放たんとしてきたバイオニンジャに落下したのである! オーキッドは目を丸くし、周囲を見渡す。

 そして、見た。白濁液まみれの女が、壁面に設置されたUNIXとLAN直結している。あれでクレーンを操作したのだろう。そしてそのままUNIXに縋るように気を失っている。オーキッドは口元を歪めた。彼女としては近くにいると邪魔なので解放しただけ。こんなインガオホーを狙っていたわけではなかったのだ。

ブラックスクイッド:【体力】5→2

「シュ……」

 オーキッドはイクサに意識を戻す。まだブラックスクイッドは生きている。だが焦りはない。あの巨体であれば充分想定できた事態だ。

「シュシューッ!」

 クレーンを跳ね除け、触手が迫る! オーキッドはその場を動かず、冷静に敵のカラテの到達を待った。そして! 「イヤーッ!」

回避判定
3D6 → 4, 4, 6 成功
【ワザマエ】判定
6D6 → 3, 3, 4, 4, 5, 6 成功
ブラックスクイッド:【体力】2→1

 最初に頭部を狙ってきた触手を、体捌きのみで回避。毒液で塗れていない箇所を掴み、それを頼りに飛び上がる。次の触手を身を屈めて回避。毒液で塗れていない箇所を掴み、それを頼りに三本、四本めの触手を回避。

 泥めいて鈍化する時間の中、オーキッドは「イヤーッ!」スリケンを投擲。触手の隙間を縫うように飛んだ鋼鉄の星が、ブラックスクイッドの右目に突き刺さる。「アバーッ!?

回避判定
3D6 → 5, 5, 6 成功
【ワザマエ】判定
6D6 → 1, 1, 2, 3, 5, 6 成功
ブラックスクイッド:【体力】1→0 撃破!

 ブラックスクイッドが身悶えした。残された真っ赤な目がオーキッドを睨む。触手を跳ね上げ、そこに乗っていたオーキッドを弾き飛ばす。そして宙に浮いた彼女を触手で狙い撃とうとした。

 オーキッドは泥めいた時間の流れで、迫り来る触手を見た。だが、怖れはなかった。彼女はショットガンを引っ張り出し、触手を撃つ。反動で身体が動く。弾け飛んだ触手を視界の端に捉え、オーキッドは落ちていく。そしてブラックスクイッドと視線が交錯した次の瞬間。

「イヤーッ!」
「アバーッ!?」

 ブラックスクイッドの左目にスリケンが突き刺さる。視界を失った怪物は痙攣した。白濁液を跳ね散らかして着地したオーキッドは、ショットガンを構えて駆け出し、ブラックスクイッドの巨体を登りきった。

 そして、もはや何も見ることのないブラックスクイッドの顔面に銃口を突きつける。

「ファックするのは。お前じゃなくて、私だ」

 BLAKKA! 散弾がブラックスクイッドの脳を破壊する! 最後に大きく身悶えし「サヨナラ!」恐るべきバイオニンジャは爆発四散! ゴウランガ!

 反動で吹き飛ばされたオーキッドは、頭から白濁粘液の中に突っ込む。慌てて飛び起き、ぶるぶると身を振って粘液を払った彼女はザンシンした。バイオの怪物はもはやなく、周囲に広がるのは暗闇と沈黙のみ。

「……キル完了」

 無感情な呟きが、一瞬だけ静寂を破った。その言葉は誰にも届くことなく宙に溶けた。

「サヨナラ!」ゴウランガ!恐るべきバイオニンジャは爆発四散を遂げた!

◇◆◇◆◇

 ミッション完了報告前に、まずやらねばならぬことがある。オーキッドは用心深くUNIXとLAN直結した女へ接近。依然として気絶したままの彼女の頭部にショットガンを押し当て、耳を澄ませる。心臓の鼓動以外に音はなし。知らぬうちにバイオ生物に寄生されていることはなさそうだ。

「う、ウーン……アイエッ!?」

 やがて意識を取り戻した女は、慌てたように飛び退ろうとし……自らがLAN直結したままであることに気づき、即座にホールドアップした。

「ど、ドーモ。わたしはソウカイニンジャのライトニングウォーカーです」
「ドーモ。オーキッドです。ソウカイヤ」

「ドーモ、わたしはソウカイ・ニンジャのライトニングウォーカーです。助けてくれてありがとうございます」女性ニンジャは君に深々とオジギをした。彼女はブラックスクイッドの溶解液にニンジャ装束を溶かされ、豊満なバストなどが顕になりかけている。

 アイサツを交わした後、オーキッドはショットガンを引っ込める。どうやらこの女が行方不明となっていたソウカイニンジャであるらしい。ならば、始末する必要もないだろう。

 LAN直結を解除したライトニングウォーカーは、ゆっくりと立ち上がった。その装束はブラックスクイッドの手によって溶かされ尽くしており、ほとんど半裸。そのバストは豊満であり、白濁粘液に濡れていた。

「あの、助けてくれてありがとうございます」
「……ついでだった。無事でよかったね」
「ええ、本当に……なんでこんな目に、ウウッ」

 先ほどの苦難を思い出したのだろう。オーキッドは考える。前回の自販機の怪物とは違い、例のバイオニンジャは破片すら残さず爆発四散してしまった。クローンヤクザに寄生していたやつの子ども(なのだろう。あまり想像したくない)の触手は確保しているとはいえ、証人はいた方がいい。

 とはいえ、このままの格好で連れ帰るのも憚られる。こちらも粘液まみれだし、ちょうどいい。オーキッドはミリタリーコートを脱ぎ、ライトニングウォーカーに突きつけた。

「これからトコロザワピラーに行く。これ、着て。ついてきて」
「グスッ……あ、アリガト……エッ」

 ライトニングウォーカーが頓狂な声を上げる。オーキッドは気にせず背を向けた。そして眼前に広がっている白濁粘液にうんざりとする。ここを突っ切っていかなければ出られないのだ。なんとも忌々しい。

 仕方なく白濁粘液溜まりに足を突っ込むオーキッドの背に、慌てたようなライトニングウォーカーの声が追ってくる。

「アッ、あのっ、オーキッド=サン!」
「何」
「そ、その格好は……?」

 おそるおそる投げかけられた質問に、オーキッドは自分の身体を見下ろす。チューブトップめいた上着にスパッツのみの軽装。そのバストは平坦であった。特に変わったところはない。

「……いつも、こう。ジツを使うのに邪魔だから」
「じ、ジツですか?」

 然り。オーキッドはヘンゲヨーカイ・ジツの使い手であり、その姿をハナカマキリめいた異形へと変じることができる。その際の変形によって服が破れてしまうのが億劫だったため、彼女は基本的に薄着だ。

 そこまで説明するのが面倒だったので、頷いてみせてから帰路を急ぐ。ライトニングウォーカーが慌てて追いすがってきた。

「い、いいです! オーキッド=サンこそこれが必要です!」
「私は隠せてるけど、あなたは隠せてない。だから着て」
「そ、そうですけど……いえ、やっぱり申し訳ないです! そんな格好でトコロザワピラーまでなんて」
「今のあなたよりはマシ。着て」
「でもですね、」
「着て」

 ……結局、ミリタリーコートの押しつけ合いは施設入り口まで続いた。根負けしたのがどちらか、それはここで語るべき内容ではないだろう。

◇◆◇◆◇

地下施設脱出後、トコロザワ・ピラーにバイオニンジャ討伐報告を行った君は報酬を与えられた。
(【万札:10】、【余暇:2日】、【名声(ソウカイヤ):1】を取得しました)

 ……トコロザワピラー。ヤクザオフィス。

「バイオニンジャ」
「ハイ」

 ソウカイヤのスカウト部門統括にして恐るべきシックスゲイツの一人、ソニックブームはオーキッドを見下ろす。小柄な少女ではあるものの、物怖じなどいっさいしていない。むしろその中で着慣れていないであろうヤクザスーツを着込んだライトニングウォーカーのほうがおどおどしていた。

 報告内容を噛みしめる。一連の行方不明事件はバイオニンジャの仕業。わかる。囚われていたライトニングウォーカーと協力し、バイオニンジャを撃破した。わかる。そして報告をしにここへ。わかる。

 だが、報告に来たオーキッドが異様にチューブトップにスパッツという軽装のまま。これがわからない。

「……で、その格好はなんだオーキッド=サン。俺はデリバリーオイランの真似事をしろと言った覚えはねェぞ」
「ミリタリーコートが使い物にならなくなったので。しかし報告が最優先と思い、シツレイを押してここへ」
「もういい」

 片手を上げてオーキッドを黙らせたソニックブームは、ライトニングウォーカーを睨む。スーツの上からでもわかるほどにそのバストは豊満だ。が、今のソニックブームにとってはどうでもいい。

「……テメェの着替える時間があったんなら、こいつに服を着せるくらいできたんじゃねェのか、エエッ?」
「アイエッ、スミマセン! けど着替えに手間取っている間に、オーキッド=サンはもう飛び出そうとしていて」
「アア、そう」

 ソニックブームはライトニングウォーカーの訴えを退けた。一度失敗したブザマを叱責すべきとも思っていたが、もはやどうでもいい。こいつらの相手は妙に疲れる。

「ところでソニックブーム=サン。質問が」
「……なんだ? 報酬ならこの後だ。スシにでもなんでも好きに使え」
「スシ……いえ、そうではなく。バイオニンジャというのはヨロシサンの所属なのですか?」
「…………まあ、そうだ。おおよそはな」

 言葉を濁しつつ、オーキッドの質問に首肯する。一から生み出されるという純正のバイオニンジャに、バイオサイバネを装着するニンジャ。バイオニンジャといってもこのように大別できるわけだが、その根底がヨロシサンにあるのは間違いないだろう。

 オーキッドは数度頷き、言った。

「だとすれば、ヨロシサンへの破壊ミッションを発動させるべきでは」
「却下だ、イディオットめ」

 一蹴する。普段であれば文字通り蹴りを叩き込んでいたかもしれない程度の暴言だ。ヨロシサンは暗黒メガコーポであり、ソウカイヤとも結びつきが深い。首領たるラオモト・カンが重用するリー先生もヨロシサンの研究員だ。まあ、この少女はあのマッドサイエンティストの存在など知るまいが。

 あとで細かいことは教えておけ、とライトニングウォーカーに視線を送りつつ、溜息をひとつつき、ソニックブームはオーキッドと目線を合わせた。彼女は小柄なのだ。

「いいか、よく聞けオーキッド=サン。なにもヨロシサンはバイオニンジャばっかり作ってるわけじゃねえんだ。ドリンクやら、バイオサイバネやら、そういうので貢献してる。わかるか? ソウカイヤにだってバイオサイバネのお世話になってるやつはごまんといるぜ」
「なら、バイオニンジャを開発しているところだけ破壊しましょう」
「あのな、ヨロシサンのバイオニンジャだってたまにはこっちのミッションに貢献してんだ。お前ごときガキのワガママで、それを全部潰す? 割に合わねえだろうが」
「じゃあ、イカのバイオニンジャの研究をしている」
「ハイハイ。これは今回の報酬だ。あとお前、少し休め。わかったな?」

 懐から取り出した茶封筒でオーキッドの顔面をはたき、黙らせる。ソニックブームは立ち上がり、ライトニングウォーカーを見下ろした。

「報告書はテメェがまとめろ。元はテメェのミッションだ。そっちのガキの調査結果もちゃんと反映させろ。いいな!?」
「アッハイ! し、シツレイシマス!」

 ライトニングウォーカーは90度オジギ。なおも言い募ろうとしていたオーキッドにも頭を下げさせる。そして物言いたげな少女の手を引き、そそくさと退室した。

 ソニックブームは大仰な溜息をつき、上等なヤクザチェアーにどっかと座って背もたれにもたれかかる。ふと、彼は机の上に置かれたタッパーへ視線を送った。中に入っているのはバイオ生物のものと思しき触手の破片。否が応でもヨロシサンの関与、ないし落ち度を示す証拠だった。

 (……ま、ケジメの一つは必要かもしれねェな)彼は目を細める。いくら社会に貢献していようと、その一方で面倒をこちらに押しつけるのは論外だ。いずれにせよ、ライトニングウォーカーの報告書の出来次第といったところだろう。

 ◇◆◇◆◇

「まったくもう! オーキッド=サン、もう少し考えて意見を言うようにしてください!」
「……でも」
「デモもイッキもありません。ヨロシサンとソウカイヤというのは、深いコネクションがあってですね」
「そのヨロシサンのせいで、ライトニングウォーカー=サンはアブナイだった」
「……それとこれとは、話が別です。ええ、別なんですよ」

 重金属酸性雨が降り注ぐネオサイタマ。そこを往くヤクザスーツ姿の女と少女。PVC傘を持った女は、少女が濡れることがないよう手の位置を調節する。

「その……あれは結局、私がウカツだったのが悪いんであって」
「あのバイオ生物に寄生されたクローンヤクザは、外に出ようとしていた」

 淡々とオーキッドが呟く。慣れないスーツに顔をしかめながら。

「ああいうアブナイのが増えるのは、どう考えたってオカシイ」
「……わかりますよ。その考え方は大切です。けど、ええ。正しいだけではなにも変えられない」

 どちらともなく黙り込む。「肩こってしまう」「良く犬」「おなしやす」などのネオン看板の光が、沈んだ二人の顔を照らし出した。

 不意に、オーキッドが足を止める。

「アイエッ、どうしました?」
「……お腹空いた。アレ、食べよう」

 オーキッドの指差す先を見たライトニングウォーカーは、やや顔を引きつらせた。そこには香ばしいイカの匂いを漂わせるイカケバブの屋台。 よりによって、あのバイオニンジャのあとで!

「そ、そうですか……エート、じゃあ私、ここで待ってますから……」
「ライトニングウォーカー=サン、お腹空いてないの?」
「エッ、いや、それは……ちょっとだけ……」
「一緒に食べよ」

 言うやいなや、オーキッドはライトニングウォーカーを引きずり始める。ライトニングウォーカーは嘆息し……苦笑した。仕方がない。あの嫌な思い出ごと飲み込んでしまうとしよう。

あの恐るべきバイオニンジャを作り上げ、夜に放ったヨロシサン製薬は、今もまた新たなバイオニンジャを開発しているのかもしれない……。香ばしいイカの匂いがするイカケバブ屋台を眺めながら、君は帰路についた。

◇◆◇◆◇

 翌朝。カンオケ・ホテルの一室に、電子的ファンファーレが鳴り響いた。

「……これでいい? ライトニングウォーカー=サン」
「え、あっ、ハイ! 上出来です! ……こんな一瞬でマスターしちゃうなんて……」

 ハッキングされたどこかの誰かの銀行口座を前に、ライトニングウォーカーは静かに感嘆した。助けてもらった礼として、彼女は過去ハッキング・カルトで学んだニューロン特訓をオーキッドに施すことにした。

 だが、どうやらそれも必要なかったらしい。現在のハッキング技術を測るために実践してもらった口座ハックを、オーキッドはあっさりと成し遂げてしまったのだ。ハッキングのやり方を知らないだけで、そのニューロンは特訓がいらないほどに研ぎ澄まされていたというわけだ。

「ええと……それはあなたが成し遂げたことなので、あなたのモノにしてください。アッ、痕跡もちゃんと消してくださいね! やり方は教えますから!」
「わかった。どうやるの?」

 オーキッドが見上げてくる。無表情に見えたその瞳は、好奇心でキラキラと輝いていた。

1D6 → 3 
ハッキング・カルト秘伝のニューロン特訓を行う。【ニューロン値+1、既に6の場合は万札+10】

【終わり】

◇リザルトな◇

 無事シナリオクリア。イカヤクザへのカラテへ失敗したときは一抹の不安がよぎったものの、よかった。

 クリア結果として、万札と名声が以下のように変動しました。

【万札】:16 → 37
【名声】:0 → 1

 そして余暇スロットも手に入ったため、近日中に余暇テキストカラテもやりたい。以上、お付き合いいただきありがとうございました。





















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