忍殺TRPGソロリプレイ:【フィアーレス・アクト・イン・テンプル】

◇前置き◇

 サイバネ女ニンジャを作ってみたい。ふとそう考えた私はダイスを振っていた。結果生まれたのが、こいつだ。

ニンジャ名:フィアーレス
【カラテ】:2
【ニューロン】:1
【ワザマエ】:5
【ジツ】:3(ヘンゲヨーカイ)
【体力】:2
【精神力】:1
【脚力】:3
持ち物など:
・戦闘用バイオサイバネ
○キラーマシーン教育
・チャカガン2挺

 まさかのヘンゲヨーカイ持ちバイオサイバネニンジャである。ヘンゲ使いはすでにオーキッドとコールドブラッドがおり、バイオサイバネにしてもディスグレイスとキールバックがいる。弊社のニンジャもなぜか方向性が出てきてしまった。

 とはいえバイオサイバネだし、生き残ったらディスグレイスの一味に放り込むか。そう思った私は公式ソロアドベンチャーの世界にこいつを放り込むことにしたのだった。

 というわけで、サクッとやる。ヨロシクオネガイシマス。

◇本編◇

 夜。ネオサイタマには今日も重金属酸性雨が降り注ぐ。ストリートにも、高層ビルの上に居を構えるテンプルにも平等に。そんな中、闇に紛れるように屋上庭園へ着地する影あり。ひょろりと細長いその少女は、無感情な瞳でテンプルを見遣った。この者の名はフィアーレス。ソウカイヤに所属するニンジャである。

 なぜこんなテンプルにソウカイヤの手が? そう不思議に思われる読者もいるだろう。だが、ここの住職がかの平安時代の哲人剣士……ミヤモト・マサシが記した兵法書のフラグメントを持っていると知れば、その理由も自ずと見えてくるはずだ。

 ソウカイヤ首領、ラオモト・カンはこうした歴史的アーティファクトの収集が趣味である。そしてここの住職はいくらカネを積まれてもテンプルの所蔵品を表に出そうとはしなかった。そういうことだ。

 近くの木陰に身を潜めたフィアーレスは、庭園とテンプルの廊下を一瞥。庭園に一般的警報装置の痕跡。廊下を歩くのはサイバーボンズだ。闇の中で輝く目はサイバネ置換されていることを言外に示している。その手には聖職者用拳銃。無視できぬ相手。

 フィアーレスは障害の排除方法を検討する。カシリ、カシリ。メンポが左右に開閉し、不穏に噛み鳴らされる。……否、それは増設されたバイオ顎肢だ。あのボンズの頭を噛み砕くには充分。だが、ややあってから彼女はバイオサイバネの動きを止めた。今回のミッションにおいては殺しは最低限に。そういう指令だ。

 彼女は濡れた地面に躊躇なく伏せ、そのまま音もなく匍匐を開始した。

【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 1, 2, 4, 4, 6 成功

 おお、見よ。匍匐姿勢にもかかわらずその速度はモータルの全速力疾走よりなおハヤイ。警報装置のセンサー範囲を、そしてサイバーボンズの暗視アイも容易くくぐり抜けたフィアーレスは、そのまましめやかに本堂へとエントリーした……!

◇◆◇◆◇

 本堂内に灯された何百本ものローソクが、奥に鎮座する大ブッダ像を照らし出す。感受性の高い者であれば、その眼差しはまるで邪悪な行いを咎めているように見えたかもしれぬ。フィアーレスにとってはそうではない。生まれた頃から殺人技術を叩き込まれてきた彼女にとって、これは単なる物質だ。

 フィアーレスは目を細める。ブッダ像の前に安置された大量のマキモノを、そしてその前でモクギョを叩き念仏を唱える住職の姿を見たからだ。ふと、彼女は住職の隣で祈りを捧げるミコー・プリエステスに視線を奪われる。ほんの少しだけ、知り合いの姿と重なったからだ。その錯覚はすぐにニューロンの奥へ沈んでいく。

 彼女はわざと足音を立て、住職の背後まで近づいた。そして驚きの目で振り返る二人に向け、無機質なアイサツを繰り出したのだ。

「ドーモ。フィアーレスです」
「アイエエエエ!?」
「ニンジャ!? ニンジャナンデ!?」

 突然に神話的存在たるニンジャの姿を見た二人は即座にNRSを発症! フィアーレスはその二人の肩越しにマキモノの山を見やる。この中におそらくはマサシの兵法書あり。だが、彼女にはそれを見分ける知識がない。

 ……ならば、教えてもらうのがよい。

「マサシの兵法書はどれ?」
「エッ……そっ、それは言えん! あれは我がテンプルにとっても重要な、」
「そう」

【ジツ】判定(NORMAL) 【精神力】 1 → 0
4d6 → 2, 3, 5, 5 成功

 フィアーレスは酷薄に目を細める。その身体が突如、天井近くまで伸び上がった! 「「アイエッ!?」」「SHHHH……!」フィアーレスはバイオ顎肢の隙間から吐息を漏らす。長く伸びた胴体を突き破るように出現したのは、刃物めいて鋭い節足だ! ヘンゲヨーカイ・ジツである!

アイエエエエーエエエ!?」

 オオムカデめいた異形となったフィアーレスは、渦を巻くような軌道で悲鳴をあげるミコーに迫り、節足で絡め取る。刃めいた鋭い爪がミコーの首筋に、肩に、足の付け根にかけられる。

「三十秒以内に吐かなければまずこの女の左腕をケジメ。また三十秒したら左脚。その次は右脚。そして右腕。最後に首。それでも吐かなければお前も同じ目に合わせて殺す」
「アイエエエエ! た、助けてェーッ!」

 ミコーが泣き喚き、失禁! ニンジャの変貌に言葉を失っていた住職は、その言葉に嘘がないことをはっきりと悟る。彼はがちがちと歯を鳴らしながらドゲザした。

「わ、わかりました……! 兵法書はお譲りします! ですからどうか、娘だけは……!」
「兵法書はどれ」
「こ、これです」

 マキモノ山に飛びついた住職は、迷うことなくその中の一つを抜き取る。他のマキモノがバランスを失って崩れていくが、それを気にかける余裕すらないようだった。

 フィアーレスは住職に顔を近づけ、覗き込む。そこには恐れの色しかない。嘘や欺瞞がないことを理解した彼女は、マキモノを受け取ってミコーを解放した。不必要な殺人はなし。そういう指示だからだ。

 彼女はジツを解こうとし……ふと気づいた。崩れたマキモノの中に転がる、デジタル賽銭箱。己のバイオ顎肢を撫でる。これも決してタダではない。そして殺しにも抵触しない。ならば奪うのがよかろう。

 フィアーレスの視線に気づいた住職が一気に青ざめる。

「や、やめてください! それだけは! その寄付金は恵まれぬ子たちのために……!」
「……それはあなたの命より高いの?」

 住職は絶句。フィアーレスはへたり込むミコーを節足で突いた。すすり泣いていた彼女が恐怖に震える。

「ねえ、どう思う? あの中身は、あなたやあなたのお父さんの命より、高い?」
「ア、アイエエエ……」
「そんなに大事なら、別にいいよ。あなたたちをバラバラにしてから箱ごともらっていく」
「……は、払います。払いますから、どうか……」

 涙を流しながら、ミコーはデジタル賽銭箱の元へ這い進んでいく。そしてフィアーレスの掲示した口座に……キャバァーン! キャバァーン! キャバァーン! ミコーと住職のすすり泣きをかき消すほどの電子ファンファーレとともに、ウサギとカエルのアニメーションが電子万札を運び込んでいく!

【万札】 -10 → 0
【DKK】0 → 3

 やがて電子ファンファーレが止まったとき、もはやフィアーレスの姿はそこにない。後にはただ、力なく泣き伏せる親娘と、咎めるような眼差しで見下ろすブッダが残された。

◇◆◇◆◇

「ムハハハハハ! よいぞ! 見事な働きであった!」

 トコロザワピラー、最上階! つつがなくマサシの兵法書フラグメントを献上したフィアーレスは静かに平伏した。目当てのものを手中に収めたラオモトは上機嫌この上ない。そのまま与えられたボーナスを手に、フィアーレスはドゲザし、退出する。

【万札】0 → 10

 ……プシュー。エレベーターからエントランスに降り立ったフィアーレスは、ふと立ち止まる。知り合いの姿を見かけたからだ。ボディーラインを浮き立たせる密着型ラバースーツ姿の少女。

「ドーモ。キールバック=サン。なにしてるの」
「ドーモ。フィアーレス=サン。なにしてるのもなにも、迎えに来たんですよ。お姉様の頼みですから」

 不機嫌そうに答えるキールバックに、フィアーレスは納得する。お姉様……ソウカイニンジャ、ディスグレイス。自分とキールバックを拾い上げ、ソウカイヤへと導いた人。ある意味では恩人だ。

「帰ってきたんだ、ディスグレイス=サン」
「ええ。……というか、不在だったこと知ってたんですか? なんで教えてくれなかったんです」
「聞かれなかったから」

 正直に答えると、ひどく嫌な顔をされた。そのまま踵を返しエントランスへ向かっていくキールバックを、フィアーレスは淡々と追いかけた。

【終わり】



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