忍殺TRPGソロリプレイ【オーキッド・イン・ガーデン・ウィズ・ライノ】

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。本日はトラッシュ=サンのソロシナリオ「ニンジャの樹液採集」を遊んだ時のソロリプレイをやる。

 なぜニンジャが樹液採集に赴くのか? そのあたりは是非シナリオを遊んで確かめてもらいたい。

 そしてこのソロシナリオに挑むのは、こいつだ。

ニンジャ名:オーキッド
【カラテ】:3
【ニューロン】:6
【ワザマエ】:6
【ジツ】:2(ヘンゲヨーカイ)
【体力】:3
【精神力】:6
【脚力】:3
【万札】:37
【名声】:1
持ち物など:
・オーガニックスシ
○危険生物ハンター
 ・スダチカワフ・ショットガン

 元危険生物ハンター、スシが大好きオーキッドだ。このシナリオ、冒頭でスシを奢ってもらえるのである。彼女が食いつかないわけがなかった。

 というわけで、やっていく。ヨロシクオネガイシマス。

◇余暇◇

 本編に入る前に、前回ソロシナリオクリアで手に入れた余暇が2日分残っている。まず、これを消費していこう。

 第一にアジトをレンタルだ。トイレなしのため【精神力】が1減少してしまうが、必要な出費と割り切ろう。

○アジトレンタル
【万札】37 → 36
【精神力】6 → 5

 1日目はブラックマーケットでショッピング。カラテがやや低いオーキッドにここで近接武器を購入させようという算段。

 カタナでもよかったのだが、ハンターっぽいという理由で追加プラグインから特殊近接武器ヒートダガーを購入。攻撃難易度が上がる代わりに熱による追加ダメージが見こめる強力な武器だ。

1日目:ブラックマーケットでショッピング
ヒートダガー購入
【万札】36 → 16

 2日目はカラテトレーニング。他の能力が成長の壁に阻まれているため、これしか鍛えることができないという面もある。

2日目:カラテトレーニング
1d6 → 5
【カラテ】3 → 4
【万札】16 → 13

 結果は成功! より安定感が増したといえよう。前回のイカヤクザのような失態を晒す確率がより下がったのではないか。

 余暇を経て、以下のように成長・散財したオーキッドがソロシナリオに挑む!

ニンジャ名:オーキッド
【カラテ】:4
【ニューロン】:6
【ワザマエ】:6
【ジツ】:2(ヘンゲヨーカイ)
【体力】:3
【精神力】:6
【脚力】:3
【万札】:13
【名声】:1
持ち物など:
・オーガニックスシ
○危険生物ハンター
 ・スダチカワフ・ショットガン
 ・ヒートダガー

◇オープニングな◇

 とあるスシ・バーの一角。二人連れの奇妙な客が訪れていた。

 まず一人は桃色の髪の少女。ぶかぶかのミリタリーコートを着込んだままの彼女は、一心不乱にスシを食べている。マグロ、タマゴ、イカ、アナゴ、トビッコ、グンカン。おおよそ好き嫌いなどないようで、淡々と、しかし恐るべき速度でスシを消費する。

 対面に座る男が、それとなく自分のスシをなくなりかけていた少女のスシに追加した。外見だけで語るならば、この男こそ輪をかけて奇妙だ……なにしろその首の上に乗っているのは立派なツノを生やしたサイの頭。高度なバイオサイバネである。

 少女は遠慮なく追加されたスシを咀嚼し、チャを啜ってからようやく動きを止めた。

「ゴチソウサマデシタ」
「ウム。喜んでくれたようでなによりだ」

 奥ゆかしく手を合わせてオジギする少女に、サイ頭の男は鷹揚に頷く。そして改まった様子で小さな目を瞬かせた。

「……それにしても女のニンジャというものがいるとは。未だに信じられん」
「割といるよ」

 特に気分を害した様子もなく、淡々と少女が答える。その拍子になにか思い出したのか、わずかに眉根を寄せた。

「……私の側にも、よく寄ってくるやつがいる。けど、あいつはダメ。右腕から邪悪なバイオの気配を感じる」
「バイオサイバネは嫌いか? オーキッド=サン」
「そうでもない。でもイカのバイオは嫌い。……まあいいや。話ってなんだっけ、セイントサイ=サン」

 洞察力に優れた読者であれば、この風変わりな二人の装束にそれとなくつけられたクロスカタナのエンブレムを見て取ることができるだろう。然り。この二人はニンジャだ。しかもネオサイタマを牛耳るソウカイヤに所属するニンジャである。

 同じ組織とはいえ、この二人はもともと顔見知りだったわけではない。暇をして意味もなくトコロザワピラーに顔を出していたオーキッドにセイントサイが声をかけた格好だ。

 無論、最初はオーキッドも警戒していた。なにしろ明らかにバイオサイバネ移植者だ。先程はああ言ったものの、オーキッドはそうした連中にはある程度警戒を持って接するようにしている。彼女はもともとバイオ生物の狩を生業とする危険生物ハンターであり、ネオサイタマに来てからの経験でヨロシサンに不信感を抱いているからだ。

 それでも彼女はセイントサイの話を聞くことにした。なぜといってスシを奢ってもらえるからだ。彼女はスシが大好きであり、色気よりは食い気の性質である。

 閑話休題。

 セイントサイは腕組みをし、オーキッドを見据えた。食事が終わった今ならば相手もスムーズに話を聞くだろう……そう判断したからである。

「そうだな。……まずはじめに、俺は今オーガニック・カブトムシを飼っている」
「へえ」

 バイオではない、という点にオーキッドは興味を惹かれる。オーガニック・カブトムシは彼女も見たことがあり、狩の余裕があるときは臨時収入として捕獲していた。

 セイントサイは頷き、話を続ける。

「慎ましく、しかし勇ましい……できるやつだ。だが奴とて所詮は非ニンジャのカブトムシ。いずれは死ぬだろう」

 その声にやや沈痛な色が混じる。当然のことを言うんだな、とオーキッドは思った。生物であればいつか死ぬ。特に身体の小さい昆虫の寿命は短い。セイントサイのカブトムシとやらも、この夏を乗り切れるかどうか。

 ブルル、とセイントサイが鼻を鳴らす。

「俺とて覚悟はできている。だが、せめて奴がくたばる前になにかしてやれないかと思ってな……いろいろ調べた結果、耳寄りな情報を手に入れた」
「というと?」
カブト・ストリートにあるカチグミ向け自然公園に、電子戦争以前から聳え立つというオーガニック・オニクルミがあるらしくてな……」
「ああ、樹液を採りに行きたいと」
「う、ウム。その通りだ」

 セイントサイが目を丸くする。オーキッドが説明する前に目的を把握したことに対しての驚きか。もっとも、オーキッドとしては当然の帰結だ。オーガニック・オニクルミの樹液は滋養強壮に優れている。当然、それを好む昆虫も多い。カブトムシだってそうだ。

 実はハンター時代にこっそり舐めてみたことがある。想像より美味しくなかった。まあ、どうでもいい。

「……その自然公園の管理団体はソウカイヤとは非協力関係で、厳重な警備を売りにしている」
「そういうのは別に」
「最後まで聞け。俺たちが侵入することで、連中の信用を地に落とすことができる。シンジケートの利権拡大も見込めるかもしれん」
「そういうのは」
「聞け。……だが、万が一失敗すればケジメではすまされんだろう。よく考えて」
「決行はいつ」

 淡々とした質問に、セイントサイは沈黙しまじまじと眼前の少女を……否、ニンジャを見た。オーキッドは無表情に彼を見返す。その目には躊躇いの色も恐れの色もない。

「スシを奢ってくれたお礼くらいはする。いつやるの」
「……今夜だ!」

 セイントサイが猛然と立ち上がる。自分よりはるかに巨大なニンジャを、オーキッドはぼんやりと見上げた。セイントサイは感極まった様子でオーキッドの元に歩み寄り、握手を求めた。

「感謝するぞ、オーキッド=サン! 決行は今夜、ウシミツ・アワー! 現地集合だ!」
「わかった」

 オーキッドはその手を握る。次の瞬間、勢いよく上下に振られた彼女は危うく浮きそうになった。なんたるニンジャ筋力か!

「こうしてはおられん! 俺は今すぐ準備を整えてくる! この場は持つから安心しろ! ではな! ウオーッ!」

 一方的にまくし立てたセイントサイは、そのまま会計へと突撃!「アイエエエグワーッ!?」不幸にも会計に向かうところだった他のニンジャ(ここはトコロザワピラー近隣のスシ・バーであり、当然ソウカイニンジャの利用者も多い)を弾き飛ばし、消えていった。

 呆然とその背を見送ったオーキッドは、気を取り直すようにチャを啜り、携帯IRC端末で件の自然公園のアドレスを調べ始める。仕事はきちんとする。当然のことだ。

◇本編な◇

 ウシミツ・アワー。カブト・ストリート自然公園。とうに開放時間は過ぎており、その門扉には当然のごとく入念な電子ロックが施されている。

 その前にうずくまる、ぶかぶかの迷彩ミリタリーコートをまとった影。オーキッドはソウカイヤ支給のハンドベルトUNIXを接続し、淡々とハッキングを試みていた。こうしたことをするようになったのはソウカイヤになってから。だが、そう恐れることはない。とある偶然からハッカーニンジャの教えを受けたオーキッドはそう結論している。電子上の巣に潜り込み、獲物を狩るイメージだ。延長線上。なにも変わらない。

【ニューロン】判定(難易度NORMAL)
6d6 → 1, 2, 4, 4, 5, 6 成功

 しめやかなタイピング音。そして、パワリオワー。ささやかな電子ファンファーレ。今回の狩りはさほど難しくなかった。静かに上昇していく隔壁を一瞥してから、オーキッドは淡々と接続を解除して立ち上がる。

「開いた」
「ウオーッ! やるな!」

 後方に佇んでいたセイントサイが雄叫びをあげる。その筋肉は凄まじく、オーキッドと比べてもふた回り以上のボリューム差があった。そしてツノには一匹のオーガニック・カブトムシが止まっている。が、オーキッドはただ眉をひそめて唇に人差し指を当てるジェスチャーを返すだけだ。単純に、やかましい。

 慌てて口をつぐんだセイントサイは、それでも嬉しげな様子で話し続ける。

「スマン。だが、実際助かったぞオーキッド=サン。俺はこういう精密さを求められる場面が苦手なのだ」
「……だろうね」

 オーキッドは淡々とそれが事実だと受け入れる。人を見た目で判断するのはシツレイ、というコトワザがあるものの、セイントサイに限ってはその見た目が適性を如実に語っていると言ってよかろう。おそらくは潜入よりカラテを得意とするニンジャのはずだ。

「ま、いいや。さっさと行こう」
「ウオーッ! 頼もしい限りだな!」
「うるさい」
「……スマン」

 申し訳なさげに口を閉じるセイントサイを連れ、オーキッドは自然公園内へと潜入する。

◇◆◇◆◇

 ニンジャの視力は闇をも見通す。それはオーキッドもそうだし、セイントサイもそうだ。彼らの目は遊歩道側に設置されたカチグミ向けアロママシンをはじめとした多くの機器の影を捉えている。もっとも、いずれも電源オフだ。この時間に客があろうはずもなし。当然ではある。

 カチグミ向けアロママシンにプリントされた「ウェルカムこちら」の文字を眺めていたオーキッドは、こちらに接近する気配に気づいて顔を上げた。ブルル。セイントサイが荒く鼻を鳴らす。

「非ニンジャのクズ警備員だな。こちらに来るようだが……どうする。やるか」

 その言葉尻にわずかな殺意の色。セイントサイの息が荒くなっていく。ニンジャアドレナリンによる興奮状態に入りつつあるのだ。絶対に危険!

 オーキッドはサイ頭のニンジャを見上げ、コンマ数秒思考する。そして(イヤーッ!)(グワーッ!?)その膝裏を蹴って転倒させると(イヤーッ!)(グワーッ!)巨体を担いで近くの茂みに放り投げ(イヤーッ!)(グワーッ!)その背の上に乗り、頭を地面に押し付けた。オーガニック・カブトムシはいつの間にかオーキッドの頭に移動済みである。

 ……数秒後。フラッシュライトで遊歩道を照らしながら現れた警備員は、何も知ることなく彼女らの前を通過していく。オーキッドはそのライトに付属したスタンガンを見やる。獲物にするのは簡単だが、この闇の中で電光は明らかに目立つ。無駄に増援を招くようなことをするつもりはなかった。

【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
6d6 → 2, 2, 3, 4, 5, 6 成功

「……行った。問題ない」
「ムム……なかなかやるな」

 セイントサイが立ち上がる。その背にオーキッドを乗せたまま。彼の筋肉は決して伊達ではない。この少女一人を背負って立ち上がることなど造作もないのだ。気づく様子もなく遠ざかっていく警備員の背を見つめ、彼はブルルと鼻を鳴らした。

「しかし見ろ、オーキッド=サン。あの警備員、扇風機など背負っているぞ」
「……あ、本当だ」

 セイントサイの肩までよじ登ったオーキッドも、それを認める。夏も終わりに近づいているとはいえ、まだ蒸し暑い。涼を取るための装備ということだろうか。

 オーキッドはぼんやりと遠ざかっていく警備員を眺め、呟いた。

【ニューロン】判定(難易度U-HARD)
6d6 → 1, 2, 3, 3, 4, 5 失敗

「ああいうのが『ふくりこうせい』ってやつなのかなあ」
「ウム、福利厚生だ。非ニンジャのクズ風情が! 気に食わん! ウオグワーッ!?」

 興奮し始めたセイントサイが雄叫びを上げかけたところを、オーキッドは危うく頭部を蹴って阻止。その反動で飛び離れた彼女は、淡々とセイントサイの前を行く。

「早くいこ」
「う、ウム」

 頭をかいたセイントサイがその後に続く。……ナムサン。もしこの場にオーキッドの父がいたのならば、彼女の見落としに落胆の溜息と叱責の言葉を飛ばしていたことだろう。警備員の背負っていた扇風機に、アロママシンと同様のロゴが入っていたこと。そしてその装備から予測できる危険バイオ生物の存在。危険ハンター時代であれば、命に関わる見落としであった。

◆◇◆◇◆

 自然公園の木立を二人のニンジャと一匹のオーガニック・カブトムシが突き進む。事前に確認した地図によればオーガニック・オニクルミの大樹は目前。

(楽な仕事だったかな……)

 オーキッドはぼんやりと考える。そして眼前を飛ぶオーガニック・カブトムシを眺めた。すでに樹液の匂いを察知しているのか、すっかりニンジャの先導を務めている。だが奥ゆかしくも二人を置いて飛び去ることもない。意外な知性である。

 ……だが、オーキッドはすぐに自分の認識が甘かったことを知る。ZZZZZTTTTT……あきらかにカブトムシのそれではない羽音。それが複数、接近してくるのだ! そして彼女のニューロンは羽音から該当するバイオ昆虫を即座に推測!

「セイントサイ=サン! 気をつけて!」
「なに!? どうした!」
「バイオスズメバチ!」

 ZZZZZTTTTT! オーキッドの警告とほぼ同時、頭上から襲いかかってきたのはバイオスズメバチの群れ! 数センチにも達するその身体には黄と黒の文様が禍々しい! ZZZZZZZTTTTTT! ガチガチと顎を噛み鳴らす音とともに、一斉に襲いかかる!

「ウオーッ!?」

 まとわりつこうとするバイオスズメバチを、セイントサイはうろたえつつもカラテ迎撃! だが群れはあまりにも多く、そして小さい。カラテをくぐり抜けた数匹がその皮膚に針をつきたてようとし……失敗する。筋肉とバイオ皮膚に阻まれているのだ。慌てたように飛び戻ったオーガニック・カブトムシも必死の抵抗!

 そして、オーキッドの方にもスズメバチの群れは殺到している!

連続【回避】判定(難易度NORMAL)
2d6 → 1, 6 成功
2d6 → 4, 6 成功
3d6 → 1, 6 成功

 ……だが、彼女は慌てなかった。旋回する群れをぼんやりと眺め、攻撃に飛び出してきた個体を指でつまみ、時間差をつけて攻撃してきた別の個体に針をつき刺せて相殺。開いた手で、死角を狙ってきた別個体をノールックでつまみ取り、潰す。危険ハンター時代であればともかく、今の自分はニンジャである。冷静に対処すれば問題はない。

「……アロマ。ああ、そっか。あれハチ避けか。忘れてたな……」

 漏れる声に苦いものが混じる。しばらくソウカイヤとして動いていたせいで、ハンター時代の基礎知識が抜けていたか。戻ったら勉強し直さなければならないかもしれない。オーキッドは目ざとく樹上のバイオスズメバチの発見し、これをスリケンで打ち落す。ZZZZZTTTTT! 怒り狂ったバイオスズメバチがさらに殺到!

 オーキッドはただ溜息をつくだけだ。巣ごと女王バチを潰しておけば、差し当たってこの群れが生き延びることはあるまい。だが怒り狂ったこの虫ケラのなんと煩わしいことか。

 とても付き合ってはいられない。オーキッドはその場にうずくまる。迎撃を諦めたか? 否!

【ジツ】判定(難易度NORMAL)
【精神力】5 → 4
8d6 → 3, 3, 4, 5, 5, 5, 6 成功
【カラテ】4 → 7
【脚力】3 → 5

 「メンドクサイ……SHHHHHHH……!」ミシリ、と身体が軋みを上げる。筋肉の凝縮によるものだ。瞬時にその肌をキチン質の甲殻が多い、ミリタリーコートを払いのけ巨大な刃が姿を表す!「SHHHHH!」これぞオーキッドのヘンゲヨーカイ・ジツ! 人とハナカマキリの忌まわしき混合体めいた姿となった彼女は、興奮しきってカラテを振るうセイントサイへその鎌を伸ばす!

「ウオーッ!? なんだ!? オーキッド=サンか!」
「SHHH……逃げる。今日の仕事はこいつらの駆除じゃない……!」

【脚力】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 2, 2, 2, 4, 4 成功

 返答を待たず、オーキッドは跳躍した。その鎌にセイントサイを引っかけたままで。開いた鎌で追いすがるバイオスズメバチをなぎ払いつつ、背から透明な翅を展開し、滑空。そのまま怒り狂った虫たちを置き去りに、二人のニンジャは闇の中へと飛び込んだ。

◇◆◇◆◇

 ……そして、数分後! オーキッドらは無事にオーガニック・オニクルミの大樹へ辿り着いたというわけなのだ! オーガニック・カブトムシはすでに樹の切り口へと飛びつき、奥ゆかしく滴る樹液を奥ゆかしく舐めとっている。

 満足げに小さく震えるカブトムシを見たセイントサイもまた、満足げに息巻いた。

「ウオーッ! わかるぞ! 喜んでいるな! ここまで来た甲斐があったというものだ! ウオーッ!」

 ……その数歩後方で、オーキッドは無表情に珍妙な光景を眺めている。彼女はミリタリーコート(手に持ってきたのだ。あんなところでなくすつもりはない)に隠したヒートナイフに触れる。バイオサイバネの影響か、セイントサイは無視できぬ凶暴性を見せていた。あれがまた、別のところで不幸を呼ぶかもしれぬ。だとすれば……

 そのときだ。セイントサイが不意にオーキッドを振り向く。静かな笑みをたたえたまま。

「感謝するぞ、オーキッド=サン。お主の協力なくば、ここまでたどり着くことはできなかったろう……」
「……どうかな」

 適当に言葉を濁したオーキッドは逡巡し……結局、ナイフから手を離した。一面だけを見て判断しても仕方がない。頭に血が上っていなければこの通り奥ゆかしいのだし、なによりスシをおごってくれたではないか。

「……あんまり樹液を舐めさせすぎるのもよくない。そろそろ行こう」
「そうだな!」

 セイントサイが頷く。会話を聞き取ったかのようなタイミングで、オーガニック・カブトムシがそのツノに飛来し、止まった。

 かくして、二人のニンジャはこれといった被害を残すことなく……しかし、管理団体の警備を嘲笑うかのような見事な侵入を行ったという事実だけを刻み込み、自然公園を後にしたのだった。

◇エンディングな◇

 ……ドンブリ・ポン! カブト・ストリート支店!

「オカワリ」
「まだ食うのか! いいぞ! オイ! オカワリを!」
「アッハイ」

 何度目ともしれぬドンブリのオカワリに、店員は恐々としつつ準備を始める。注文は常に同じテーブル……もっぱら食べる方に専念している桃色の髪の少女。そしてその対面に座るのは筋骨隆々としたサイ頭の男だ。いや、着ぐるみだ。そうにちがいない。瞬きをしているように見えるのもきっと気のせいだ。

 ……そのようなNRSが店員のみならず他の客をも襲っているのだが、セイントサイはもちろんオーキッドも気にしない。ウチアゲの最中なのだ。運び込まれた新たなドンブリにショーユとワサビを投入し始めるオーキッドを見つめながら、セイントサイは呟いた。

「実際、助かったよオーキッド=サン。お前に頼んで正解だった」
「ウン。イタダキマス」
「最初、俺はお前を女だからと侮っていた。非礼を詫びさせてくれ」
「モグモグ………ウン」
「世界は広いな」
「モグモグ」

 セイントサイは苦笑する。オーキッドはすっかりドンブリに夢中だ。あのスシといい今回のジャンクフードといい、あの小さな身体のどこにあれだけの量が消えるのか。

 あっという間に平らげたオーキッドは、ようやく満足したのだろう。コブチャを飲んでチルアウトする。その隙を見計らい、セイントサイは茶封筒を手渡した。

「これは今回の謝礼だ。受け取ってくれ」
「ウン。アリガト」
「そして今回の潜入については俺から上に報告しておく。お前の活躍もな」
「それはどうでもいい」

 コブチャを飲み終えたオーキッドは、席を立つ。そしてセイントサイにオジギした。

「ドンブリ、アリガト。今日はもう遅いから帰って寝る」
「そうか。気をつけろよ」
「ウン。ドンブリの礼はいつか返す」

 一方的に言い残したオーキッドは、そのままドンブリ・ポンを後にした。あとにはただ、目を丸くするセイントサイとNRSで泡を吹き始めた店員と客が残された。セイントサイは苦笑する。

「俺が助けられたというのにな。妙なやつだ。なあ?」

 そのツノの上に止まったカブトムシが、首肯するようにツノを動かしていた。

【終わり】

◇リザルトな◇

 というわけで無事にミッション達成。アロママシンに気づくことはできなかったが、概ねセイントサイを(困惑させつつも)助けることができたのではないだろうか。

 以下、今回の報酬。

【万札】13 → 23
【名声】1 → 2
【余暇】2

 またバイオのなんかが関わるソロシナリオがあれば、ぜひオーキッドを出向させたいものである。あるいはなにかバイオ生物ハント的なソロシナリオに登場させてもいい。

 いずれにせよ、シナリオを作ってくださったトラッシュ=サン。ここまで読んでくださった皆様、アリガトゴザイマス! 気が向いたらまたやるよ!

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