忍殺TRPGソロリプレイ:【ディスグレイス・イン・タマチャン】(a.k.a【イタチを求めてジャングルへ】)

◇前置き◇

 ドーモ。しかなです。忍殺TRPG非公式ソロシナリオの数が着実に増えている。これは忍殺TRPGへの敷居が低くなったことであり、とても嬉しい。というわけで今回もソロシナリオに挑戦させていただいた。

 今回挑戦するのはこれ。どくどくウール=サン作の【イタチを求めてジャングルへ】である。

 詳細は避けるが、これはとある女ニンジャからの依頼である。そういうこともあり、今回の挑戦者は賽銭泥棒で活躍したディスグレイスだ。

ニンジャ名:ディスグレイス
【カラテ】:5
【ニューロン】:4
【ワザマエ】:2
【ジツ】:3(カナシバリ・ジツ)
【体力】:5
【精神力】:4
【脚力】:3
【万札】:15
【名声】:4
持ち物など:
オーガニック・スシ
戦闘用バイオサイバネ
○信心深い

 こいつも一応女ニンジャだが、女の子が好きという設定になっている。そういうことだ。なおシナリオ中は青少年のなんかが保証されており、安全です。

 ではヨロシクオネガイシマス。

◇余暇な◇

 ……本編に入るその前に。ディスグレイスは前回クリアしたソロシナリオのおかけで余暇がある。このため余暇シークエンスが発動できるという算段だ。

 まず、ロクメンタイチャンが斡旋してくれるパーソナルアジトを借りる。トイレなしの物件なので【精神力】が削られてしまうが致し方ない。

アジトレンタル
【万札】15→14
【精神力】4→3

 与えられた余暇は二日。ディスグレイスはこの二日をワザマエトレーニングに費やした。彼女は右腕をタコめいたバイオ触手(五本)に置換しているため、スリケン投擲を利き腕でない左腕で行わねばならず不器用なのだ。そういうことにした。

 そして、結果はこうである。

【万札】14→8
1回目:1d6 → 5 成功!
2回目:1d6 → 5 成功!
【ワザマエ】2→4

 なんと二回とも成功し急成長。ウィークポイントを克服し一気に安定感のあるニンジャとなった。

 さて、成長したところで改めてソロシナリオ本編に突入していこう。

◇オープニングな◇

 トコロザワピラー。ネオサイタマを牛耳るヤクザ組織、泣く子も黙るソウカイヤの本拠地。その廊下を歩く場違いな影が一つ。白のキモノに緋のハカマ……ミコー・プリエステスめいた出で立ちの女だ。もっともその端々は動き易いように改造が施されており、見方によってはやや露出が危険である。

 もっとも、そのような出で立ちの彼女に絡むような無軌道大学生はここにはいない。先も述べたようにここはソウカイヤの本拠地なのだ。彼女もまたソウカイヤの一人……しかもニンジャである。名をディスグレイスという。

「退屈ですわ……」

 誰にともなくつぶやいた彼女は小さく欠伸した。メインウィッシュ・テンプルの妨害活動を首尾よく終わらせた彼女は今、余暇の真っ只中である。ソウカイヤはニンジャを多数揃える組織だ。一人くらいニンジャが休んだところで、その経済活動にはなんの障りもない。それはいい。

 問題は、共に過ごすはずの少女が不在となってしまったことだ。自分に憧れたらしい彼女はどういうわけかローンを組んでバイオサイバネの置換に踏み切り、その返済のために急遽ミッションを請け負ったのである。(変なところで思い切りがいいんだから)思わずため息が出る。

 溜まっていたリビドー……もとい鬱屈した感情をトレーニングにぶつけたおかげで多少調子は仕上がってきている。が、当初の目的を果たせなかった落胆をかき消すほどではない。「ハァ」二度めのため息。ディスグレイスの右袖が虚しく揺れた。彼女は今、右腕を隠している。

「……あら?」

 何気なくスカウト部門事務所を通り過ぎようとした彼女はふと足を止める。事務所入り口脇に設置された掲示板。そこに見慣れぬショドー張り紙を見つけたからだ。

「おや。どうかなさったかな、お嬢さん」

 事務所から出てきた老ニンジャが不思議そうに首を傾げる。が、ディスグレイスの視線の先を見た彼は得心した様子で頷いた。

「ああ、それかね? キモノ姿の女ニンジャが貼りつけていったものだ。なんでも個人的な依頼らしくてね」
「女性の方ですか?」
「ウム。最近のソウカイヤには花が多くなったものだ。貴女も含めての話だがね?」
「まあ、お上手ですこと!」

 ディスグレイスは老ニンジャの世辞に顔を綻ばせながらも、その張り紙の内容に目を走らせていた。要約すると、こうだ。

『とある事情で失ってしまったショドー筆を新調したいので、素材となるオーガニック・イタチを捕獲してきて下さる方を募ります。もちろん、謝礼金もご用意致します。詳しいお話はトコロザワ・ピラー、ショドー作業室へ』

 内容はともかくとして、興味を惹かれるのはショドー自体の美しさだった。字から人柄が滲み出ているようにすら感じられる。清楚で、奥ゆかしい。ディスグレイスの興味はすぐにその書き手へと移った。時間もあるし、カネはいくらあっても困ることもない。すぐに心が決まった。

 ビュルッ。彼女の右袖から目にも留まらぬ速度で飛び出したなにかが、器用にショドー張り紙を巻き取り、再び右袖の中へと引き戻されていく。

「ム……?」
「ウフフ! シツレイいたします」

 怪訝な顔で見つめる老ニンジャに一礼してから、ディスグレイスは再び廊下を進む。その足取りは先ほどに比べ、驚くほどに軽かった。

◇本編な◇

 ……翌朝! タマチャン・ジャングル!

 ネオサイタマの北に位置し、重金属酸性雨耐性を得たバイオパインとバイオバンブーにより形成される魔境。ディスグレイスは恐れる様子もなくそこに足を踏み入れていた。目的は一つ。ここに生息するオーガニック・イタチの捕獲である。

(感じのいい方でしたね)

 茂みを掻き分けつつ、ディスグレイスはショドー作業室で面会した女ニンジャを思い出して顔をほころばせた。わざわざ交通費および前金まで用意してくれていた彼女。実に奥ゆかしく、清楚なアトモスフィア。年頃が年頃のため『そちらの方向』への食指は動かなかった。が、実にそそるものがあるのは変わらない……

【万札】:8 → 10

 彼女の思考がなにやらよからぬ方向に向かい始めたそのときだ!「オルルルルル! ウオー! ウオー!」横手の茂みからバイオパンダが飛び出してきた! オーガニックな同種とは違い肉食性を取り戻した猛獣が、その鋭い爪をディスグレイス向け「イヤーッ!」「アバーッ!?

【カラテ】判定(難易度NORMAL)
5d6 → 2,3,4,4,6 成功! 

 ナ、ナムアミダブツ! バイオパンダが爪を振り下ろすより早く、ディスグレイスの右袖から伸びたなにかがその首に巻きつき、捻り切っていた! バイオパンダ当然死亡!

「あら? ……ウフフ、急に出てこられたら困りますわ。わたくし、手加減が苦手ですので……」

 ディスグレイスはパンダの生首に笑いかけてから、無造作にそれを放り捨てた。ナムサン……今ならば読者諸氏にも見えるはずだ。ディスグレイスの右袖から伸びる異形の正体が。それはタコめいたバイオ触手である。彼女は右腕を複数のバイオ触手に置換。普段はそれを収縮させて袖の中に収めているのだ。

 バイオ触手を右袖の中へ収納した彼女は、タマチャン・ジャングルの探索を再開した。狙うべきはバイオパンダではない。オーガニック・イタチなのだから。

◇◆◇◆◇

 タマチャン・ジャングルの洗礼は決してバイオ生物だけではない。ディスグレイスはそれを身をもって味わうこととなった。

(……それにしても、この湿気ときたら)

 額に滲む汗を拭う。空気そのものがじっとりとへばりついてくるような錯覚すら感じさせるほどの湿気。キモノも汗で張りついてしまうほどだ。彼女のバストは豊満であった。そこかしこから聞こえて獣や怪鳥の鳴き声が、さらに神経を苛立たせる。

 その苛立ちがかえってニューロンを研ぎ澄ませていたのだろうか? ディスグレイスは不意に頭上でより不快なものが蠢いている気配を察知! 「イヤーッ!」駆け抜ける!

【ワザマエ】判定(難易度NORMAL)
4d6 → 1, 1, 1, 4 成功

 ボトッ、ボトボトボトッ! 自らのいた場所へなにかが入れ違いに落ちてくる! ディスグレイスは思わず振り向き「まあ」声を上げた。おお……ニューロンの細い読者は目を背けられたし。地面にのたうつのは吸血ヒルの群れ! 中には15センチを超える大物すらいる! おぞましい!

 ディスグレイスはしげしげと地面でもがく吸血ヒルを眺めていた。それからふと、ネオサイタマでミッションに励んでいるはずの少女に思いを馳せる。あの細くしなやかな肉体の上にこのヒルが……思わず微笑を浮かべ、すぐに首を振った。

「実際に使うには、衛生面がねぇ……」

 謎めいた呟きを残し、ディスグレイスはタマチャン・ジャングルの奥へと……進もうとしたところで足を止めた。なにか、ジャングルには異質な匂い。小さく舌を出し、集中する。これはむしろ、ショドー作業室で馴染みのある……

 ディスグレイスの足は、その匂いの元へと向かっていた。

◆◇◆◇◆

「あら、まあ」

 たどり着いた先にあったものに、ディスグレイスは目を丸くした。小屋である。人が住んでいるのだ! そしてここまで来ればなんの匂いかも判別できる。これは墨。つまり、墨職人がこの中にいるのだろうか?

 ディスグレイスは依頼人の顔を思い出す。ショドー家たる彼女にとって墨は必需品だろう。どうにかしてここで墨を得られれば……(ポイント倍点。狙えますかね)やや邪な思いを抱きつつ、彼女は小屋に近づくと「オジャマシマス」その扉を無造作に開け放った。

「な、なんじゃお前は!?」

 驚いたのは中で仕事に励んでいた老職人だ。滅多に訪れぬ来訪者が現れたかと思えば、その出で立ちはこの秘境に似合わぬミコー・プリエステスの出で立ち。しかもこちらを見る目はまるで爬虫類のごとし。迷信深い老職人はこの者を即座にヨーカイと決めつけた。

 問題はこのヨーカイが悪戯目的の比較的マシな存在か、それともこちらの命を狙うような悪霊めいた存在かということだ。……ナムサン。この老職人は知らぬ。この女がそれよりもなお悪いソウカイニンジャだということを!

 彼にとって幸運だったのは、ディスグレイスが気まぐれで方針を変えたことだ。彼女は当初、モンドムヨーでカラテを仕掛けて老職人を殺し、墨を奪い取る算段だった。だが(墨は所詮消耗品。長くあの方と付き合うためにも、供給源を抑えるほうが得なのでは?)その気づきが結果的に老職人の命を救ったのだ!

【ニューロン】判定(難易度HARD)
4d6 → 4, 5, 6, 6

 ディスグレイスは微笑した。

「驚かせてしまい、申し訳ございません。ついこの墨の匂いに惹きつけられてしまいまして」
「す、墨?」

 老職人はごくりと唾を飲む。ヨーカイの言い草だ。

「ハイ。実はわたくし、さる方のためにオーガニック・イタチを求めている最中。そこでこの小屋を見かけまして」
「さる方……」

 老職人の頬を汗が伝い落ちた。思えばこのヨーカイの装束はミコーのそれ。それが恭しく使える相手となれば……ナムサン、このタマチャン・ジャングルの神ということではないか?

 彼は覚悟を決め、重々しく頷いた。

「……わかりました。ぜひ上がっていってください。少しではありますが、墨をお分けいたしましょう」
「まあ! ご親切にありがとうございます!」

 老職人の心境など知る由もなく。ディスグレイスはいそいそと家に上がり込んだ。

………………十数分後!

「アッハッハッハ! なんだい、ネオサイタマからオーガニック・イタチを? あんたみたいな美人さんがねぇ!」
「ウフフ……ええ、そうですよ。わたくし、ニンジャなので」
「ニンジャ! ニンジャときたか! あんた冗談が上手いなあ」
「ウフフ! ええ、わたくし冗談が大好きなのです」

 先ほどの緊張感はどこへやら。ディスグレイスの話術ですっかり心を開いた老職人は、気前よくチャを出してくれた。ディスグレイスはこう見えてかつて小テンプルでミコーとして働いていた身であり、老人の相手には慣れているのだ。

 ディスグレイスがチャを啜り終えた頃合いを見計らい、老職人が不思議そうに尋ねる。

「しかし、オーガニック・イタチなんぞ捕まえてどうするんだい」
「ええと……筆を作るために毛皮を使いたいのだそうで」
「ああ、あんたの依頼人さんが……ショドー家なんだろう? いったいどんなワザマエだね、その人は」
「はあ。わたくしショドーにはそこまで造詣が深くなく……よければ実物をお待ちしていますので、ご覧になりますか?」

 ディスグレイスは懐から例のショドー依頼書を取り出す。所在地を示す箇所のみ破りとって、だ。ここで身分を明らかにしても仕方があるまい。

 笑顔で受け取った老職人はそのショドーを一瞥し……すぐさま真剣な表情となった。

「ほう……こいつぁ……」
「どうされました?」
「…………オミソレ・シマシタ! 少しとは言わねえ。このショドー家のセンセイのために持てるだけ持っていってくれ。俺の墨がこの美の助けになるんなら、それでも足りねえくらいだ!」

 ……なんだか妙な話になってしまった。ディスグレイスはキツネ・トリックにかけられたような心地で小屋を後にした。イタチ・ハントに邪魔にならぬ程度の墨を持ちながら。

【精神力】:3→4

◇◆◇◆◇

「あまり長話にならなくてよかったですかね」

 誰にともなく呟きながら、ディスグレイスはタマチャン・ジャングルを進む。はじめの方こそ依頼人への情熱で心うきうきとしていた彼女だが、だんだんとその熱も冷めてきた。早くイタチを見つけて帰ろう……そう考えた矢先。「あら?」ふと、インセクツ・オーメン。

【ニューロン】判定(難易度HARD)
4d6 → 1, 4, 5, 6 成功!

 彼女が身構えた直後! ビュン! ビュンッ! 視界外の二方向から時間差をつけ矢が飛来!

【回避】判定(二連続、難易度EASY)
1回目:3d6 → 1, 2, 3 成功
2回目:2d6 → 1, 4 成功

イヤッ! イヤーッ!」事前の察知が功を奏したか。ディスグレイスはバイオ触手を振り回して矢を叩き落とす! 「罠?」彼女はザンシン、警戒して周囲を見渡す。……よくよく見透かしてみれば、そこかしこに同種の罠が仕掛けられていることがわかる。

「……もう! ブッダは相変わらずお眠りになっているのですね!?」

 彼女は子どもめいて不満を叫ぶ。かの老職人を害してこの仕打ちであればまだ受け止められる。しかし、今回の自分は実に穏便な手段を取っていたではないか? 

 無論のこと、ディスグレイスは知らぬ。これはなにもブッダの仕掛けた試練ではない。現地住民が儀式を実行するためにやってくるアンタイブディズム・ブラックメタリストを撃退するために設置したものだ。だが仮にそう説明されたからと言って、彼女は納得できないだろう。

「イヤーッ! イヤッ! イヤーッ!」

 腹立ち紛れに周囲のトラップを次々に破壊しつつ、ディスグレイスは先へと進む。眠っているブッダをいつか起こすという思いをさらに強めながら。

◆◇◆◇◆

 ……数分後。彼女がたどり着いたのは廃墟となったコケシマートであった。(こんなところにもあるのですね)物珍しげに見渡していた彼女は、ふと話し声を聞き取り身を隠す。

「またアイツが出たんだってな」
「ああ……ウチのモウジロウもやられた」
「あれで本当にイタチなのかねえ」

 そこは『元』回転スシバー。そのタタミ席で、五人の農民たちが昼食を取っている。イタチ、というワードを聞き取ったディスグレイスは安堵した。どうやらこの近くで見つけられるらしい。農民たちの少し不穏なアトモスフィアは気になるが。

 さしあたっての問題は、この場でどう振る舞うかだ。例えばすぐ近くにあるバッファローモッツァレラチーズ・スシを拝借するか。それとも身なりからしてそれなりにカネを持っていそうな農民たちから金目のものを奪うか。……殺すか。

 思考の逡巡をディスグレイスはすぐに取りやめた。先ほどの罠の一件を思い出したのだ。善行を積んだあのような理不尽な目に遭うということは、つまりブッダが己の善行を疎んでいるということだ。だからこそ、ここではあえて善行を選ぼう。

 ディスグレイスは音もなく回転スシバー跡を立ち去る。農民たちはついに、己の命を脅かすかもしれぬ存在に気づくことはなかった。

◇◆◇◆◇

 果たして、ディスグレイスの思惑にブッダが乗ったのか。彼女はついにオーガニック・イタチの群れを発見した。(やっと見つけた……)茂みに潜んだ彼女は、プレゼントに相応しいイタチを探し求め……中央に佇むそれを見て息を呑んだ。

 (中央のはリーダー……ンン? 2メートル……いえ、3メートルはある? エッ、あれもオーガニック!?)然り。群れの中心で悠然と立つ柱めいたそのイタチは、たしかにディスグレイスの見立てほどの巨大さだった。よほど長く生きていなければあのサイズには達するまい。ヌシなのだ!

 一瞬圧倒されかけたディスグレイスは……すぐに依頼主の顔を思い起こす。彼女を喜ばせるためには、この群れの中でも最上級の毛皮の持ち主を選ばねばならない。ならばそれは自明ではないか? ディスグレイスは覚悟を決めた!

巨大オーガニック・イタチを捕まえる

イヤーッ!」

 裂帛のカラテ・シャウトとともにディスグレイスは跳躍! 群れの只中、ヌシ・イタチの眼前へエントリーした。ヌシ・イタチが敵意の篭った目で睨みつけてくる。然り、ここが正念場!

イヤーッ!」

 ディスグレイスの瞳が怪しげに輝き、閃光を放つ!

【ジツ】判定(難易度HARD)
7d6 → 1, 2, 2, 4, 4, 5, 6 成功!

 「キューッ!?」眼光をもろに浴びたヌシ・イタチはびくりと痙攣、直立し……そのまま丸太めいて横にどうと倒れた。一瞬の出来事である。これぞディスグレイスの隠し持つ強力無比なカナシバリ・ジツ!

「ハーッ……所詮は獣……汝らにブッダの眼差しなし……」

 ジツ使用の高揚感か。うわごとめいた呟きを漏らしたディスグレイスは、バイオ触手でヌシ・イタチを拘束。呆然と立ち尽くすオーガニック・イタチたちの前を通り過ぎ、そのまま去っていった。

 こうしてディスグレイスのタマチャン・ジャングル探索は終わったのだ。

◇リザルトな◇

 トコロザワピラー。ショドー作業室。

「ドーモ。ディスグレイスです」
「ドーモ。ディスグレイス=サン。ハーフペーパーです」

 二人の女ニンジャがアイサツを交わす。顔を上げたディスグレイスは改めて依頼人の顔を、そしてその手に掲げられた『ハーフペーパー』のショドーを見た。思わずため息が漏れる。なんたる凛とした筆致であることか!

「お帰りをお待ちしていました。お疲れでしょう。ドーゾ、まずはスシとチャで一服なさってください」
「ドーモ。アリガトゴザイマス」

 ハーフペーパーが奥ゆかしく用意していたスシとチャを、ディスグレイスは素直に受け取った。一服が終わる頃合いを見計らい、ハーフペーパーが口を開く。

「それで、依頼の件なのですけれど」
「ああ、ハイ。もちろんお待ちしています。ドーゾこちらへ」
「え?」

 自然な様子で手を取られ、ハーフペーパーが困惑を見せる。ディスグレイスははにかむように笑った。

「その……ここに入りきらなかったものですから」

 怪訝な顔のハーフペーパーを連れ、ショドー作業室外へ。おお、見よ。そこに転がされていたのは3メートルにも達する巨体のオーガニック・イタチ! ……ディスグレイスはふと、その尻尾のほうを見やる。しゃがみこみ、しげしげと観察していたらしいぶかぶかの迷彩ミリタリーコート装束の少女が、視線に気づくやいなやそそくさと立ち去っていった。

「す…….すごい。こんなに大きな……」

 ハーフペーパーの驚きに我に帰った彼女は、すぐさま悪戯っぽい笑顔を向けた。

「そうでしょう? わたくしも初めて見たときは目を疑いました。立派ですよね。きっといい毛皮が取れますよ」
「ええ……きっと、見たこともない素晴らしい筆ができあがると思います。本当にありがとうございます! これはお礼で」
「ああ、シバラク。わたくしからもまだミヤゲがあるのです」

 謝礼を取り出そうとしたハーフペーパーを制したディスグレイスは、逆に懐から取り出したものを差し出してみせた。ハーフペーパーが目を丸くする。彼女がそのような顔をするということは、きっと最高級品なのだろう。このオーガニック・墨は。

「タマチャン・ジャングル探索の折に墨職人の方と知り合いまして。ふとした拍子で譲っていただいたのです。わたくしよりも貴女のほうが相応しい」
「……あ、ありがとうございます! イタチばかりか、こんないい墨まで! 今すぐは難しいですけど、このお礼は必ず!」

 その喜びの表情に世辞や欺瞞の色がないのを見てとり、ディスグレイスはさらに笑みを深くした。これでまずは精神的な距離を一歩詰めた。上出来だ。

「いえいえ。ほんの気持ちです……あの、よければアドレスの交換など」
「はい! 是非!」

 縁を作るには充分すぎる。ディスグレイスがうきうきと携帯IRC端末を取り出したそのときだ。ピロリロリロ。メッセージの着信。彼女は思わず顔をしかめる。

「……シツレイ」

 一言詫びを入れてから、彼女はメッセージを開封した。その差出人の名はKB。心当たりがある。ローン返済のためにミッションに挑んでいた、あの子。

KB:ローン返済無事完了。今すぐ会いたいです。どちらにおられますかお姉様

「……妹さんがいらっしゃるのですか」
「ああ、いえ。妹分です」

 覗き込んでいたらしいハーフペーパーの問いかけに、ディスグレイスは何気なく答え……ふと違和感を覚えた。妹と口にした彼女の声音から、なにかざわめきめいた感情を覚えたのだ。

 画面を凝視していたハーフペーパーが、ふと気づいたように顔を上げ、笑みを浮かべる。

「その……まず、その子に会いに行ってあげてください。きっと寂しがってます。私はいつも、ここにおりますので」

 その言葉は、ディスグレイスの口を止めるのに充分だった。もはや手の届かぬノスタルジー、あるいは寂寥感、あるいは羨ましさ……そうしたものが混ざり合った複雑な感情。

「……スミマセン。これでシツレイします」

 ディスグレイスは頭を下げ、ショドー作業室を後にする。入口脇に転がったヌシ・イタチの頭を撫でてから、彼女は妹分……キールバックへ返信する。綺麗な身体になっておめでとう。トコロザワピラーにいます、と。

 結局、欲しいものは全て手に入ったということか。しかし何故かキツネ・トリックにかかったような心地のままだ。

 これもブッダの思し召し。その言葉にディスグレイスがたどり着くことはついぞなかった。

◇おまけな◇

墨プレゼントボーナス判定
1d6 → 3 ハーフペーパーからの手取り足取りショドー・レクチャー。【ニューロン】4→5

「その……こうでしょうか」
「いいえ。もっと力を抜いて……優しく……」
「こ、こう……?」
「まだぎこちないですよ。ほら、私に身体を預けて……」
「ンッ……」

 耳元で囁かれる声に、ディスグレイスは思わず声を漏らす。それからふと、なぜ自分がこんなことをしているのだろうと考えた。

 日を改めてハーフペーパーに会いに行ったディスグレイスは、今度こそIRCアドレスの交換に成功。そして誘われるがままにハーフペーパーの自宅へと向かった。……少し邪な想像が働いたのは伏せておく。

 そして今、ディスグレイスはハーフペーパーにピタリと背中に抱きつかれ……手取り足取りのショドー・レクチャーを受けているのだ。

「利き腕を事故で無くしてしまったと伺いまして。ショドーはきっといい左手のトレーニングになりますよ」
「は、はあ……痛み入ります……」
「……うーん。どうしても線が震えますね。そんなに緊張しなくても平気ですよ?」

 緊張ではなく別の気持ちを堪えている、とは流石に言い出せない。何事にも段階は必要であり、ここで距離の詰め方を間違えればすべてが水の泡なのだ!

 ともかく、ディスグレイスは自分の心を無にすることに努めた。心なし、ゼンの境地が見えたような気さえする。最後に気力を尽くして書き上げた『ゴウランガ』のショドーを、ハーフペーパーはいたく気に入ってくれたのだった。

【終わり】

◇終わりに◇

 ディスグレイス、無事生還! どころか余暇を含めていろいろ成長し、以下のようになった。

ニンジャ名:ディスグレイス
【カラテ】:5
【ニューロン】:5
【ワザマエ】:4
【ジツ】:3(カナシバリ・ジツ)
【体力】:5
【精神力】:4
【脚力】:3
【万札】:25
【名声】:5
持ち物など:
オーガニック・スシ
戦闘用バイオサイバネ
○信心深い

 晴れて名のあるサンシタである。やったね!

 最後に。楽しいシナリオを作成してくださったどくどくウール=サン、それにここまで読んでくださった皆様に改めて御礼申し上げます。ありがとうございました! 気が向いたらまたやるよ!




 



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