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個性豊かな面々の不在と私たちのコピー機(古賀及子のエッセイ)

夏、あまりの暑さに家を飛び出した。

クーラーはある。熱中症にはぜったいになるまいと温度計と湿度計を設置して適温適湿を保つようにはした。けれど今年の夏は温度や湿度だけではない、圧のようなものがあった。

部屋にいると、じりじり壁を焼いて入り込んだ熱気が四方から迫る。押し込まれて波状になって、クーラーの冷気の隙間を縫うように人の服と肌のあいだに滑り込む。暑い。

パソコンに向かって作業をしていると、汗をかかないのにじりじり頭が熱っぽくなっていく。はっと驚き体温を計っても平熱で、体調も悪くはない。なんだこれは。よくわからないまま頭は冴えきらず、気が散って、やるべき作業の捗がいかない。

頭が冴えずに気が散るのは日頃からだから、7月のうちはなんだか調子が出ないなあくらいに考えていた。8月に入り、いや、これ、暑いんだ、家が暑くて仕事になってなってないんだとやっと気づいたのだった。

日常生活にはこれまでどおりクーラーさえ効かせれば支障はない。集中して仕事をするのが、これではどうも難しい。

それで私は家を飛び出した。どこかコワーキングスペースのようなところはないかとあちこち探し、数カ所見て回った結果、今の仕事場に落ち着いた。

あまり大きくはないシェアオフィスだ。自宅の最寄駅の近くの、大通りに面したビルの3階にある。

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