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生協のカタログだけがおもしろい(古賀及子)

日記本が好評発売中のライター、古賀及子さんの書き下ろしエッセイ。今回は忘れかけていた、でも確かにあった、ある娯楽に興じていた一時期の記憶にまつわる話です。

2度退会した生協に3度目の加入をして、続いている。
目的は、切った肉や魚と野菜、それに調味料とレシピがセットになった「ミールキット」である。
翌週の分をネットで注文すると、毎週決まった曜日に配達してくれる。カット済みの生鮮品だけに賞味期限は短い。でも3日分だけでも頼んでおけば、週7日のうち3日は晩のメニューを考えずに済むし、買い物に行かなくていいし、肉や野菜を切らなくてもいい、調味料を合わせる手間もかからない。
面倒を引き受けてくれる分値段はさすがに割高で、それで以前は手が出せずにいた。料理に時間が割けずスーパーで総菜を買うばかりになっていた2年くらい前に思い切って試したところ、私の性格と家の生活スタイルに完璧にはまったのだった。以来ずっと頼り続けている。
注文はウェブでする。だから紙のカタログは不要なのだけど、ペーパーレスを選択することは今のところできないと配達員さんに聞いた。カタログは毎週注文したミールキットと一緒にどさっと届く。そのまま捨てるのも申し訳なくて軽くめくって古紙回収に出す。
カタログはタブロイド判でフルカラーだ。食料品のと、日用品、台所用品、衣類、化粧品などが別の綴りになっている。
今日、古紙をまとめようとして新聞紙と一緒に重ねたら、すべすべした用紙のカタログが新聞紙の束からつるっと吐き出されるようにすべって床に落ちて広がった。二つ折りにした輪が開いて、ちょうど開いたページに、髪にボリュームが出せる櫛が載っていた。
私これ、買ったな。10年とちょっと前に、買ったな。

15年前、私のお腹から子どもが生まれた。3年したらもうひとり生まれてきてくれた。子宝に恵まれるとはまったくこのことで、ありがたいことこのうえない話だ。
生まれたばかりの子どもの肌はやわらかくきめ細かくはじけるように外向きに張り、産毛が全体を守ってそよそよ光った。
まいにち泣いて泣いて泣いて、笑って、絶え間なくなんらかの体液を外に放つ。眠ることを死ととらえ、異常におそれて全力で抵抗する生きものが赤ん坊と知った。

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