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8人、いまこの瞬間、息をしていますように(古賀及子)

小学1年生のころ、血液の病気で4か月ほど入院した。1年生の国語の教科書にはもうずっと「大きなかぶ」が載っていると思うのだけど、私は教室で「大きなかぶ」を勉強した覚えがない。そのあたりの単元を学ぶころをまるまる、大きな病院の病棟で過ごした。

特発性血小板減少性紫斑病という血液のなかの血小板が少なくなる病気に、なんだかよくわからないのだけどかかってしまったのだ。

血小板というのは出血を防いで止血する役目の血液成分で、血中に足りないと血が出たときに止まらなくなる。内出血もしやすく、なにかに強く体をおしつけるとそこが青くあざになった。

幼少のころのことだから、どういう経緯で入院に至ったかは早い段階で記憶が消えて振りかえれなくなった。「思い出そうとするのだけどうまく思い出せない」ことの方をよくおぼえているほどだ。

鼻血が出て母のひざの上にいるのだけれどなかなか止まらない記憶と、友達とバドミントンをしていたところかかとを切って、ばんそうこうを貼ったのに血があふれ出てしまう、ふたつの記憶がある。

おそらくどちらかが発病を知るきっかけになったはずで、でもどうして2種類のエピソードがあるのかがもうよくわからない。

1学期のはじめのうちにもう入院になって、夏休みは病院ですごしたはずだ。それなりの大病ということか、最初のうちは個室に入った。

勉強が遅れることを心配した母がノートに足し算の問題を書いてくれて、それを解くのが楽しみだった。だけどある日、新品のゴロピカドンという雷様のキャラクターのノートを母が勝手に使ったことを怒って私は泣いて、なぐさめるに反発していよいよ泣きわめき、それで看護師さんやお医者さんが容体が急変したときみたいに病室に集まった。

手足をベッドにぶつけるとあざになるから、ベッドは全部タオルでやわらかく覆ってあった。せっかくまわりのものをみんなふわふわにさせているのに強く泣いたから顔やうでに内出血のあとができた。

しばらくして病状が少しましになったのと、ベッドが空いたのもあって大部屋に移った。8台のベッドが右と左に並んだ、女の子どもが集まった部屋だった。小学生と、あと中学生もいただろうか。

あざのできやすい症状は改善して、ベッドは他の部屋の子たちと同じ、タオルの巻かれない普通のベッドになった。

同室の子どものことは名前はもちろん一人の面影も覚えていない。だけどうっすら、ちょっとしたエピソードの記憶がとぎれとぎれにある。

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