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ご存知ですか? 歯科医師の応招義務

3月8日発刊の『歯科六法コンメンタール〔第2版〕』から,歯科医師法の「応招義務」についての解説を公開いたします.このほかにも,開業歯科医師にとって“知っておきたい法知識”が満載された書籍です.ぜひ,現場でお役立ていただければ幸いです.(編集部)

歯科医師法・第19条
診療に従事する歯科医師は,診察治療の求があつた場合には,正当な事由がなければ,これを拒んではならない.

〔解説〕
1 歯科医師のいわゆる応招義務を規定したものです.法制定に当たっては,本条のような規定は法律によって強制すべきものではなく,すべからく歯科医師の自覚にまつものであるとの意見もありましたが,歯科医師の職務の公共性よりみて,その応招義務は特に強調されるべきであるとして,法律上の義務として規定されました.しかし,この違反に対する罰則はなく,この義務を果たすか否かは一応歯科医師の良心に任せられました.とはいえ,歯科医師が本条の義務違反を犯した場合は,法第7条第1項*にいう「歯科医師としての品位を損するような行為のあつたとき」に当たりますから,当該歯科医師がこの義務違反を反復するような場合には,同条の規定により歯科医師免許の取消しまたは歯科医業の停止を命ぜられることがあり得るとする,厚生省からの見解がありました(昭和30年8月12日医収第755号,厚生省医務課長回答).近時,医療提供体制や医師・歯科医師の労務に関する問題の変遷にともない,どのような場合に応招義務が生ずるかを示した通知が発出されました(令和元年12月25日医政発1225第4号).

2 「診療に従事する歯科医師」とは,自宅開業の歯科医師,病院勤務の歯科医師等公衆または特定多数人に対して診療に従事することを明示している歯科医師をいいます.

3 「正当な事由」であるか否かについて重要な考慮要素は,「患者について緊急対応が必要であるか否か(病状の深刻度)であること」とされています.緊急対応を要する場合であり,診療時間内・勤務時間内の場合には,医療機関・医師・歯科医師の専門性や診察能力等を総合的に勘案し,事実上診療不可能な場合にのみ,診療しないことが正当化されます.診療時間外・勤務時間外においては,応急的に処置を行うことが望ましいとされます.なお,診療時間・勤務時間の内外を問わず,緊急対応を要し,それが困難な場合は,救急対応可能な医療機関等へ紹介・依頼することが望まれます.
緊急対応を要しない場合,患者の迷惑行為については,診療・療養等において生じたまたは生じている迷惑行為の態様に照らし,診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(診療内容そのものと関係ないクレーム等繰り返し続ける場合等)には,新たな診療を行わないことが正当化されます.一方,以前に医療費の不払いがあったとしても,そのことのみをもって診療しないことは正当化されません.しかし,支払い能力があるにもかかわらず悪意を持ってあえて支払わない場合等には,診療しないことが正当化されます(令和元年12月25日医政発1225第4号).

参考:歯科医師法・第7条第1項
歯科医師が第4条各号のいずれかに該当し,又は歯科医師としての品位を損するような行為のあつたときは,厚生労働大臣は,次に掲げる処分をすることができる.
 一 戒告
 二 3年以内の歯科医業の停止
 三 免許の取消し


関連リンク
『歯科六法コンメンタール』〔第2版〕
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