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『HYORONブックレット 乳歯の歯内療法―健全な後継永久歯との交換につなげるには?』より―「はじめに」

『HYORONブックレット 乳歯の歯内療法―健全な後継永久歯との交換につなげるには?』を7月9日に発刊しました! まだご覧になっていない方々のために「はじめに」をウェブ版として公開します(編集部)

「乳歯の歯内療法は難しい,うまくいかない」という声を耳にすることがある.また,乳歯にはふさわしくない治療方法で施術された症例を見かけることも少なくない.なぜであろうか.
確かに乳歯は永久歯とは形態学的な特徴が異なる部分が多いが,歯髄充血に始まり,歯髄炎を経て根尖性歯周炎に至る過程は永久歯の場合と大差ない.このようなことが耳目に触れるのは乳歯の歯内療法の目的を十分にご理解いただけていないことが原因ではなかろうか.

永久歯の歯内療法においては,治療の目的は歯が機能する状態で保存し,延命することである.そのため,歯科医師は歯質,歯髄および歯周組織にできるだけ侵襲を加えない方法での治療を試みる.
しかし,乳歯は永久歯との交換期に達すれば脱落する,それ以上は延命のしようがない歯である.したがって,乳歯の歯内療法は永久歯の保隙のため,あるいは咀嚼などの機能を維持するために交換期まで保存できるように治療することが目的となる.
そのため,歯に対する侵襲がたとえ多少大きくなったとしても交換期まで確実に歯が保存できる方法を選択する.乳歯の露髄に対して侵襲の少ない直接覆髄よりも成功率の高い生活歯髄切断を選択するのはそのよい例である.
一方で,交換期に至れば速やかに脱落できるように治療することも忘れてはならない目的である.

また,乳歯といえど歯を抜去することにためらいを感じる先生もおられることであろう.
欧米の小児歯科の教科書を紐解いてみると,「乳歯の感染根管治療」にあたる項目が存在しない.なぜならば,失活乳歯は抜去して保隙をするという治療方針であるためだ.
一方で,乳歯の感染根管治療を行う日本においても,乳歯が保隙や咀嚼といった本来の機能を果たすことができなくなった場合には抜去し,保隙装置に移行する決断を行うべきである.場合によっては,乳歯の根尖性歯周炎が,後継永久歯の歯胚に障害をもたらすことがあることを忘れてはならない.



本書には上記のような目的を果たすために歯内療法を行う上で必要となる,乳歯の特徴,抜歯の選択基準,歯内療法の勘所,術後管理および抜歯後の保隙に関して記載させていただいた.
日々の臨床における乳歯の歯内療法の診断や処置の参考となり,一助となれば幸いである.


2021年6月
編著者 新谷誠康


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