パワーリフティングのためのアセンディングセット入門

 以下、メモ書き

アセンディングセットとは

 同セッション内でセットを重ねるごとに重量を増やしていく方法
 5/3/1(ファイブ・スリー・ワン)などが有名

例)8RMが180kgで、6rep×3set@8.5~9.0狙いで練習する場合
① 160kg×6@6.0(かなり余裕)
② 170kg×6@7.0(3回は挙がる余裕)
③ 180kg×6@8.5(1~2回は挙がる余裕、ここが最高重量)
※上記RPEは理論的、経験則的にだいたいこの程度になる(はず)が、
  個人差が大きいので参考程度としてほしい。

 ③のセットで指定のRPEに到達したため、後は補助種目orハイレップなどを行うこととなる。

アセンディングとディセンディングの違い

 『アセンディングセットはディセンディングセットより筋力向上に効果的だ』という話もあるが…個人的にはやや疑問。同じ重量でアセンディングセットとディセンディングセットを比較してみよう。

例)8RMが210kgで、5rep×3setを組む場合
アセンディング  200kg×5→210kg×5→220kg×5
ディセンディング 220kg×5→210kg×5→200kg×5

 上記の例ではどちらが筋力向上に有効だろうか?RPEを加えてみよう。

200kg×5@7.0→210kg×5@8.5→220kg×5@9.5
220kg×5@8.5→210kg×5@8.5→200kg×5@7.5
※あくまで理論値

 一見、同じようだが…一番重いセットのRPEを見れば分かる。

アセンディング  220kg×5@9.5
ディセンディング 220kg×5@8.5

 一番の違いはRPEの違い、すなわちレップスピードだろう。同じ220kgでもアセンディングの方は最終セットなので疲労感が強い=余力がほぼ残らない。つまり、粘り挙げに近くレップスピードは非常に遅い可能性が高い。一方で、ディセンディングの場合は体力に余裕がある状態で高重量からスタートするため、セット後に1~2rep程度の余力がある状態、すなわちレップスピードがそれなりに高い状態を維持したままセットを完了しているはずである。
※レップスピードが高いことによる恩恵はここでは言及しない。

 このように、同じ重量で順番だけ変えた場合、アセンディングよりもディセンディングの方が筋力向上に有効だと推測出来る。実際、トップリフターにもトップ1セット(メインセット)+バックオフ2~5セット(メインセット-10%~20%)などを行う選手は多い。ただし、これらは『理論的には』正しいかも知れないが、人間の身体はそう上手くはいかないことが多く…

アセンディングセットの利点

 ざっと書くと以下の通り。

①精神的、肉体的、テクニック面などでの準備として期待出来る。
②その日の疲労感、筋出力、余力などをセット毎に観察することが出来る。
③確実にボリュームを蓄積させることが出来る。

 理論的にはトップセット+バックオフセットで組むとか、または、同重量ストレートセットの方が筋力向上・筋肥大的にも有効だと推測出来るが、メイン1セット目で燃え尽きる可能性がある他、メインセットで思った通りに身体が動かずに目標のレップに大きく届かず、その後もロクな回数が挙げられず練習にならないetc…個人的には怪我明け、回復力が弱っている、調子を大きく崩している、試合後、サイクルの仕切り直しなどにアセンディングセットが有効と思われるケースが多いと考えている。

 ①や②はウォーミングアップを増やせば解決する可能性はある…が、ウォーミングアップを増やすのであればそれをセットとして組み込んだ方が良い(=回数をメインセットと同じ程度にすることで、より精神的、肉体的、テクニック面でメインセットへの準備になる。)とか、その日の調子を測る上でより正確性が高いという利点がある。
 また、③に関連して、アセンディングの最初のセットが想定より重かった場合、各セットの重量アップ幅を当初10kgずつで考えていたとしたら、これを5kg程度に抑えることによって、計画していたrep×set数を完了させられる可能性がかなり高まる。つまり、より柔軟に対応が出来ると言える。もっと簡単に言うと、『1セット目から全力でやってみたけど、思ったより回数が挙がらず、2セット目以降もグダグダになった』という(割とよくある)現象を未然に防ぐことが出来るということになる。

 レップスピードについても言及するが、当然、アセンディングセットの最初は重量が軽いため、レップスピードはかなり速くなると期待出来る。このレップスピードへの体感は、後半のセットで活かせる(ただし、これもウォーミングアップが良ければ解決するところだが…)ので、この体感を次セットに引き継ぐことで、調子が悪い日であっても、それなりにレップスピードを維持した状態でセットを完遂し、次セッションで調子が大きく回復するという効果も期待出来る(伝統的なサイクルトレーニングの初週も、同じような効果を期待しているのかも…?)。

 以上の通り、『軽い重量でわざわざ疲れるだけのセットを最初に組む理由は?』という問いに対して、わたしは『あらゆる面での準備のため、後半のセットの組み方を柔軟に対応するため、最低限のボリュームを確保するため、レップスピードの体感を獲得しておくため。』などと答えるだろう。
 しかし、前述のような理由がなければ毎回アセンディングセットを組む必要性はそこまで高くないと思われる。『自分には必要ない』と思えるなら、やる必要はないだろう。

アセンディングセットの組み方(凡例)

 簡単な目安みたいなものは、以下の通り。

①5rep×5setなら、8RMの重量が4set目になるように組む⇒難易度『高』
②4rep×4setなら、6RMの重量が3set目になるように組む⇒難易度『中』
③6rep×3setなら、8RMの重量が3set目になるように組む⇒難易度『低』
④3rep×3setなら、5RMの重量が3set目になるように組む⇒難易度『低』

 ①と②について簡単に説明する(③と④はそのままなので省略)。4~5set程度で組む場合、最終セットに目標重量を持ってくると、道中が長すぎて疲労が蓄積し過ぎて最終セットが満足に回数をこなせない可能性が高い。だいたいアセンディングセットは最初の2~3set程度がウォーミングアップの延長だと考えておくと良い。それ以上は多すぎる。5/3/1で言うと、①や②の最終セットはJoker Set的なものだと考えると分かりやすいかも知れない。

 以下、具体的な数字で書いてみよう。

例)8RMが200kgで、①の5×5を組む場合
1set目 177.5kg×5@6.0
2set目 185kg×5@7.0
3set目 192.5kg×5@7.5
4set目 200kg×5@8.5…ここが目標重量
5set目 207.5kg×5@9.5…Joker Set的な位置付け

【補足】
・重量のアップ幅は10kgでも5kgでも構わない。
・アップ幅を10kgにする場合、『8RMが200kgの人が210kg×5を5セット目に
 完遂出来るか』という視点で考えると良い。割と厳しいだろう。
・3セット目の時点で、後半のセット完遂が難しいと判断出来た場合、重量
 のアップ幅を5kgの落とすことで、完遂出来る可能性を高められる。
・重量のアップ幅を下げる場合、『甘え』なのか『冷静な判断』なのか、自
 分に問いかけるように心がけたい。
・人によってはかなり厳しい設定に見えるかも知れないので、自身の経験や
 得手不得手でアレンジする必要がある。
この5×5はボリュームがあるので、週2程度にとどめておく方が良い。

例)6RMが180kgで、②の4×4を組む場合
1set目 170kg×4@7.0
2set目 175kg×4@7.5
3set目 180kg×4@8.5…ここが目標重量
4set目 185kg×4@9.5…Joker Set的な位置付け

【補足】
・アップ幅が5kgだと後半は重く感じることが多い。
・低レップが得意なタイプはもっとRPEをもっと楽に感じるだろう。
この4×4はボリュームが少ないので、週3程度やれる可能性が高い。

最後に

 このやり方には向き不向きがある。アセンディングセットに対して『前半のセットは体力がもったいない』という感想は正しい。不要と感じたらやる必要はない。前述の条件に当てはまるか、新たな刺激として取り入れるという場合にやる程度にした方が良いだろう。
 なお、ここに表記したRPEや重量設定については、個人的な経験とRPEスケールなどで計算した理論上の数値なので、当然ながら試行するのであれば細かい手直しが必要な点には注意。

 あらためて書くが、『トップセット+バックオフセット』や『同重量ストレートセット』の方が、アセンディングセットよりも筋力向上や筋肥大に効果的だと思った方が良い(⇒近代パワーリフティングの潮流…に近いだろう)アセンディングセットは強度がそれらと比べて相対的にやや下がるので、それをメリットと考えるかデメリットと考えるか、ケースバイケースで考えるべき。

 以上

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