ファッションと書体:サンスペル(Sunspel)
ビジネスに使えるデザインの話
ビジネスにデザインの知識はけっこう使えます。苦手な人も多いから1つ知るだけでもその分アドバンテージになることもあります。
サンスペル(Sunspel)
ブランド名:サンスペル(Sunspel)
国:UK(UK, Long Eaton, Derbyshire)
創業:1860年
創業者:トーマス・ヒル(Thomas A. Hill)
サンスペルは、1860年にイギリスで創業した高級衣料品ブランドです。ボクサーパンツ、Tシャツ、ポロシャツが有名。ノッティンガム近郊のロングイートンに本拠地を置き、自社工場を持っています。
ロング・イートンの場所
サンスペルの歴史
1860年
サンスペルの起源は、19世紀半ば、当時イギリスのレースとメリノウールとシルクの中心地であったノッティンガムで、コットン、メリノウール、シルクから高品質のアンダーウェアを作り始めたことにさかのぼります。
以前は、有名な実業家であったオーナーのトーマス・ヒル(Thomas A. Hill)にちなんで、トーマス・ヒル社という社名でした。
トーマス・ヒルが目指したのは、世界最高級の素材から美しい日常着を作ること、つまり肌触りがよく、高品質で耐久性のある衣服を作ることでしたた。
ヒルは、ノッティンガムのバック・レーンにあった元の工場からノッティンガムのキャッスル・ゲートにあるはるかに大きな建物に会社を移転させました。
ヒルの革新的な指揮により、新工場は、工場の照明、衛生設備、防火システムなど、労働条件にいくつかの顕著な改善をもたらしました。ヒルは、ノッティンガムのメリヤス産業に最先端の蒸気動力機械を導入した最初の人物の一人でした。
彼の指導の下、会社は大きく成長し、卓越した品質で高い評価を得るようになりました。 19世紀末には、ブランドは世界で最も希少で最高級の超長綿であるシーアイランドコットンを使用するようになりました。
20世紀
20世紀に入ると、トーマス・A・ヒル社は最高級のカシミア、メリノウール、シルク、コットンからメリヤスや下着を製造し、世界中の顧客に贅沢な日常着を提供するようになった。
もともとは下着であり、熱帯気候の暑さの中でも涼しく快適であるようにデザインされ、高品質のシーアイランドコットン・ジャージー生地で作られていました。
1909年にヒルが亡くなると、彼は同じくトーマス・ヒルという名の息子に会社を譲り、事業は残りの世紀もヒル一族で行われました。
1914年には、伝統的なレース機で作られ、軽量の下着に使用される独自のセルラーコットン生地を発明し、現在もコレクションに使用されています。
1935年、会社は正式にサンスペルと改名。この社名は、シーアイランドコットン(ブランドの代名詞となった)の品質管理スタンプから着想を得たもので、ロゴでは雲間から太陽の光が差し込む様子が描かれていました。
1937年に製造拠点をノッティンガムからダービーシャーのロングイートンに移し、それ以来同じ工場で生産しています。第二次世界大戦(1939-1945)中、サンスペルはCC41のユーティリティマークの下、戦時中のためにアンダーウェアとロングジョン(モモヒキみたいな下着)を生産しました。
1947年、サンスペルは、創業者の曾孫であるジョン・ヒル(John Hill)が、新婚旅行で訪れたアメリカで発見したアンダーウェアのコンセプトをもとに、非常に快適な履き心地を実現するために改良を加え、ボクサーショーツを英国で発売しはじめました。
彼はデザインを改良し、バックパネルを追加し、縫い目を平らにし、最高品質のコットンを使用しました。その結果、快適で涼しく、贅沢なほどソフトな、新しいタイプの男性用アンダーウェアが誕生しました。
1965年、サンスペルの世界的名声が回復。1960年代半ばまでに、サンスペルは英国を代表する高級下着ブランドとして世界的な名声を回復し、世界の有名百貨店に出店するようになりました。
1985年、リーバイスは、モデルのニック・カメン(Nick Kamen)がジーンズを脱ぎ、サンスペルの白いボクサーパンツ一枚になる有名なテレビ広告「Launderette」を発表。この広告は大衆の想像力をかき立て、ボクサーパンツを英国におけるニッチな高級品から主流派の文化的アイコンへと変貌させました。
21世紀
2005年、ヒルの曾孫であるピーター・ヒルは、会社を元弁理士のニコラス・ブルック(Nicholas Brooke)に売却しました。彼は、歴史的遺産の魅力を失うことなく、ブランドの近代化を図りました。
その直後、サンスペルは受賞歴のあるコスチュームデザイナー兼スタイリストのリンディ・ヘミング(Lindy Hemming)からアプローチを受けます。
彼女はサンスペルのリヴィエラポロシャツを『007 カジノ・ロワイヤル』に(2006年)出演するダニエル・クレイグ用に仕立てました。ヘミングはこのブランドについてこう語っています:
のちにロエベのクリエイティブ・ディレクターとなり、自身の名を冠したファッション・ブランドJWアンダーソン(Jonathan Anderson)を設立したジョナサン・アンダーソンは、2009年から2014年の間、サンスペルのクリエイティブ・ディレクターを務め、コレクションにループバック・スウェットを導入しました。
最近では、サンスペルはポール・ウェラー、デヴィッド・シュリグリー、チャーリー・ケイスリー・ヘイフォードといったイギリスのアーティストやデザイナーとコラボレーションしています。
現在もサンスペルは、1937年以来本拠地としているロングイートン工場で操業しています。この工場では約50人の従業員が働いており、サンスペルがクラシックTシャツを手作りしています。
2010年、サンスペルは、初の単独店舗をショーディッチのレッドチャーチ・ストリートにオープンしました。それからの10年間で、ロンドンで最も有名なショッピング街にさらなる店舗をオープンさせていきました。 ソーホーのオールド・コンプトン・ストリート、ピカデリーのジャーミン・ストリート、メリルボーンのチルターン・ストリート、ノッティングヒルのケンジントン・パーク・ロード、チェルシーのデューク・オブ・ヨーク・スクエアなど。
2018年、サンスペルはニューヨークのソーホーに米国旗艦店をオープン。
2012年、サンスペル、ウィメンズウェアを再展開。クリエイティブ・ディレクターのジョナサン・アンダーソンが、美しいファブリックを使ったシンプルで本質的な服というサンスペルの原則に基づき、サンスペルのウィメンズのアーカイブ・コレクションをリニューアル。
2017年、サンスペル、ロングイートンで80周年を迎える。
ロング・イートン工場の技術は数十年の間に変化しつづけたが、80年経った今でも歴史的な工場はビジネスの中心であり続けています。サンスペルは地元に根ざし続け、高級Tシャツを英国内の自社工場で製造しています。
サンスペルの商品
Tシャツ
サンスペルが製造した最も初期の衣服はチュニックとアンダーシャツで、産業革命の最盛期にノッティンガムの工場で製造されていました。サンスペルはロングイートン工場でTシャツを製造し、カリフォルニア産の超長綿スーピマコットンを使用しています。
ボクサーパンツ
サンスペルは1947年、創業者トーマス・ヒルのひ孫であるジョン・ヒルが新婚旅行で訪れたアメリカでこのスタイルを発見し、米国から英国にボクサーショーツを導入しました。
ポロシャツ
2006年、サンスペルはダニエル・クレイグが『007/カジノ・ロワイヤル』のジェームズ・ボンド役でデビューする際に、特注のポロシャツをデザインしました。このシャツは、1950年代のサンスペルのクラシックなポロシャツをベースに、受賞歴のあるスタイリストのリンディ・ヘミングがセレクトし、アップデートしたものでした。リビエラ・ポロシャツは、カリフォルニアの農場を原産地とする超長綿のスーピマコットンを使用しています。
太陽と雲のロゴの裏側
150年以上の歴史を誇るサンスペルのアーカイブは、アイデアの宝庫です。2,000通もの手紙や写真、オリジナルウェアをアーカイブしており、コレクションをデザインする際に参考にしているものもあります。
また、サンスペルのアーカイブには、数十年にわたって使用されたさまざまな種類のサンスペルブランドが描かれた魅力的な切手やプレートのコレクションがあります。その中に太陽と雲が描かれた切手があります。
このロゴは1930年代に制作されたもので、社名を視覚的に解釈したものでした。(「Sunny」と「Spell」)
太陽とのつながりは、20世紀初頭までにアンダーシャツや下着にシーアイランド糸(Sea Island yarns)を使用していたことが、当社の評判になったことに由来しています。
ゴシピウム・バルバデンセ(Gossypium Barbadense)という植物としても知られるコットンは南米原産で、その栽培は数千年前にさかのぼります。西インド諸島でも15世紀から栽培されていましたが、現在コットンの最も一般的な名称となっている「シーアイランド」で栽培が始まったのは1786年のことでした。
サンスペルという名前は、シー・アイランドにおける太陽、湿度、雨のほとんど魔法のようなバランスのおかげで、この希少な高品質の糸が育つことを保証したことに由来しています。
長年にわたり、このロゴはレターヘッドや印刷広告、衣類のラベルなどに使用され、シーアイランド、ウール、コットンなど、さまざまな生地に関連するさまざまな色で描かれてきました。
ブランディングをモダンにするため、このロゴは60年代と70年代には廃止されました。
映画とサンスペル
クリストファー・ノーラン監督の『The Dark Knight Rises』(2012)でクリスチャン・ベールがサンスペルのTシャツを着ていました。
前述の通り、 Martin Campbell監督の『007 カジノ・ロワイヤル』(2006)でジェームズ・ボンド約のダニエル・クレイグがサンスペルのポロシャツを着ています。
サンスペルのロゴと書体
簡略化された紋章(Crest)のサポーターはユニコーン。ちなみに英国(UK)の国章のサポーターのひとつもユニコーンです。
サンスペルと書体
サンスペルがウェブサイトで使用している書体
セリフ体:Sunspel Standard
サンセリフ体:Monotype Grotesque
Monotype Grotesque
書体名:Monotype Grotesque(モノタイプ グロテスク)
カテゴリ:サンセリフ体
分類:グロテスクサンセリフ
デザイナー:Frank Hinman Pierpont
ファウンダリー:Monotype Corporation
リリース:1926年
Monotype GrotesqueはMonotype Corporationが同社の金属活字組版システム用にリリースしたサンセリフ書体のファミリー。初期のサンセリフデザインのグロテスクまたはインダストリアルなジャンルに属しています。初期のサンセリフ書体の多くがそうであったように、この書体も様々な時期にデザインされた広大なファミリーを形成しています。
まとめ
ヒル一族からニコラス・ブルック(Nicholas Brooke)に企業が渡ってい以降、サンスペルはブランディングに力を入れ、良質な下着からファッションのハイブランドに入り込んでいきました。
その始まりは、ブルックが経営した翌年のリンディ・ヘミングによる映画『007 カジノ・ロワイヤル』におけるプロダクトプレイスメントです。プロダクトプレイスメントは、広告手法の一つで映画やテレビドラマの劇中において、役者の小道具として、実在する企業名・商品名(商標)を見せる手法です。
ジェームズ・ボンド扮するダニエル・クレイグがスマートに、そしてセクシーにサンスペルのポロシャツを美しく着こなしました。これがサンスペルのブランドとしての大きな飛躍になりました。
以降もクリストファー・ノーランの映画『バットマン ダークナイト ライジング(原題は上述の通り“The Dark Knight Rises”)』においてもクリスチャン・ベールがサンスペルのTシャツをセクシーに着ています。
書体もオリジナルを制作し、使用しています。
残念ながらユニコーンをサポーターに使用した紋章がいつからなぜ使われ始めたかはわかりませんでしたが(ご存じの方、コメントなどでおしえてください!)。
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