自分史的なクリッピング史料

昔、いわゆる新規事業の開発に苦労した。それには大きなハードルが2点あった。一つはチームの意思統一が(それぞれの思考が違うために)難しかったこと、もう一つはオーバーマネジメント、オーバーコントロール、そしてオーバー・コンプライアンスといった管理部門の壁。個性や多様性を勝手に息巻く経営陣は自由な発想でといいながら、子飼いの人たちをNOを言うために審査部門にばらまき配置し、それが故にまったく進まないということがままあった。特に管理部門が ” 実績 " と言い出す始末には少々閉口した。新規で実績など示せる訳もないしまた確証などあり得ない。そうした中で、面白そうなアイディアとか技術を持つ企業などの記事を読むのが好きだった。
そうした中でいくつかの企業の今後を覗いてみたいとピックアップしてクリッピングして、再読した時に「そういえばあの企業の今はどうなっているんだろう?」などと振り返りをする。

2010年8月31日 日経 ニッチトップ 強さの秘密
「味覚計測器」のアタゴ

同社はWebsiteを見る限り今尚ご活躍されている様子。この記事(当時)を振り返ると特定分野で高い世界シェアを誇るニッチトップ企業が存在感を増しているというリードで始まる。

アタゴは屈折計という計測器で世界シェア3割を誇る最大手(当時)。液体に何かを混ぜた時の変化を数値で示し、世界中の食品会社やレストランに「味の指標」を提供しているとのこと。例えばラーメン店の厨房でスープ鍋に屈折計を取り付け、装置の数値を見ながら水を足すなどして、煮詰まっても味が変わることがないようにできる優れものと。

当時は食品の世界なども含め数値化すること、科学的なアプローチを行うことなどで、事業領域がもっと広く開けていくんではないか?と思っていた。同社は、どちらかと言えば裏方的な領域ながら、実は信頼を担保した事業ベースの構築を手掛けていて、そういうことで事業のドライブがかかるのではとも思っていた。

果物の甘みも調べることもできて収穫時を判断できるという。装置の構造は簡単で、液体に光を当てて混ざっている物質の違いで微妙に変わる屈折の様子を計測するだけとのこと。どの液体に何をどれだけ混ぜれば良いか、これまで同社が蓄積して来たデータが強みとなっている。そうデータドリブンというのは、当時Key Wordでもあった。

同社社長のお祖父様が1940年に事業性を確信して創業し、機能を大幅に絞った手のひらサイズの装置を果樹農家に売り込んだことが始まり。またレトルト食品の台頭とともに、メーカーにこの装置を使えば、再現性が高くなり同じ味を担保できると訴えたともある。" 再現性 "という言葉はコンサルが後に大好きなものであったと記憶している。

そして早くも50年代には海外に進出。欧州でワインに使うなどぶどうの糖度を測る装置を販売した。更には米国メーカーの要請で薬物使用の疑いのある尿を判別する装置も作ったとあるから、基本原理はそのままにバリエーションの素晴らしさと多様性といった展開が面白いなぁと、何も複雑な基礎構築ではなく・・・と。

アタゴ製品はサッカーW杯のドーピング検査でも使われたとあるから、本当に面白い装置。模倣品は後をたたなかったとのことだけど、それでも同社は新しい用途を開拓してトップの地位を守って来た。もちろん国ごとの個別な対応も怠りなく実施。販路はアジアからアフリカまで150カ国以上にわたっているという(当時)。

また盤石な財務体質も強みで、2008年にはスタンダード・アンド・プアーズの格付け「aaa」を取得したとある。自己資本比率は98.2%(2024年現在でも93.1%とある)。もしパートナーとしての関係だったら管理部門からはよだれも出そうな良きパートナーである。でもこういう立派な企業は当然パートナーなど欲してはいない(と思う)。自助努力で。

同社社長は手付かずの市場はまだあるとコメントされていてきっとその通りに実践され続けたのだろうか。研究開発費の比率も7%から10%に引き上げると締めくくられている。海外展開も盛んな様子。

冒頭でも記したように、単純に自分が注目した企業の今を振り返ることも自分の糧になる。若い人にも技術などの切り口・視点で注目したいと思える企業を見つけて参考にして欲しいとも思う。たとえ派手さはなくとも展開の可能性の広い企業はどんな企業なのか? そうしたそもそもを考えるいいきっかけになると思う。そう " 問いの力" だ!

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