税関(仮)

初期バージョンです。改良版(インスペクション)を読んでない方はそちらを読むことをおすすめします。

ザワザワと人が行き交う。
朝特有の肌寒さが手の甲を刺す。
駅前は人が群れを成して流れていく。その流れに任せていると分かりにくいが、立ち止まっているとよく分かる。人の群れを眺めながらそんなことを思った。
ジャケットのポケットからおととい送られてきた上質紙が使われた手紙を取り出した。僕の公務員としての配置先、勤務場所、その他持ち物…などが書かれたものだった。予定の時刻と現在の時刻を確認する。5分程ずれていた。時間にルーズな公務員なんて珍しいな…と思ったが逆に自分が合流場所を間違えたのではないかと少し不安になっていると目の前にジープが止まり、ドアが開いた。
「君が新しい事務官?」
ハンドルを握っているのは若い女だった。黒い作業着のような服を着ていて、髪はショートカットだった。
「あ、あの、税関の方…?」
僕は言葉に詰まりながら持っていた国から送られてきた手紙を見せるとそれをパッと女に取られた。
「間違ってないようだ。君がハルくんか、大きな荷物は後ろへ、乗りたまえ」
荷物を載せ、乗るとすぐに車は発進した。
「都会は慣れてなくてね、遅れてしまった。すまない」
「い、いえ、お構いなく」
彼女は落ち着いた様子で、淡々とした喋り口だった。独特だな、と思った。
「それで?経歴は?」
「だ、大学を出たあとすぐに公務員養成学校に行きました」
突然の質問にすこし戸惑った。
「大学では何を?」
「法学を専門にやってました」
赤信号で車が止まり、エンジンの細かな振動だけが伝わる。少し気まずい間だ。
この質疑応答はなんなのだろうか、就活で面接を受けてるようだ。就活したことないけど。
「ふーん、頭良さそう」
彼女はボソリと呟いた。
「え?」
「いや、なんでもない。忘れてくれ」
青信号になり、また車は進み始めた。
「あー、こちらから質問攻めするのもあれだな、其方から仕事について質問があれば答える」
外を眺めると駅からどんどん離れていくのが分かった。
「あ、あなたの名前をまずは聞いても?」
「あぁ、カメイだ。よろしく
「具体的には事務官は何をすれば?」
「私は事務官ではないから詳しくは知らないが、輸入業者と輸入品の品目を書類にまとめるのが主な仕事だと思う。詳しくは前任者が引き継ぎ資料を残しているだろうから、それをみることだな。後ろの座席にたしか置いてある」
後ろの座席の方を向くとファイルがあったので、手を伸ばして手に取った。
「そう、それだ。これから長いし、暇つぶしがてら読んでいてくれ」
1ページ目をめくり始める。代々継ぎ足しているのか、新しいページと古いページが混じっている。養成学校で習った通りに引き継ぎ資料が作られているようで少し安堵した。
「そういえばさっきカメイさんは事務官ではないと言ってましたけどカメイさんは何をしてるんですか?」
「私?警備隊に所属してる」
少し納得した。今カメイさんが着ているのは戦闘服だ。チラリとベルトに目をやるとホルスターとマガジンポーチが付けられていた。
「事務官と一緒に検査に臨んだりする役職だ。無理やり税関を突破しようとする奴を捕まえたりとか、そんな感じ」
「カメイさんはもしかして強いんですか?」
「…どうだろうね、強さの定義って人によって違うと思うから」
手元の資料から目を離してカメイさんの方を伺うと少し遠くを見ている目をしていた。

つづく