見出し画像

コロナ禍で『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』を鑑賞した話。

“140字のつぶやき”で『三島由紀夫vs東大全共闘』を書いて投稿したところ、ご質問がありましたので、一本の記事にしました。


コロナ禍の映画鑑賞


鑑賞は、現在、ほとんど感染者が出ていない地域でしました。

鑑賞中はもちろんのこと、映画館内はマスク着用です。

至るところに消毒液が置いてあります。

チケット売り場と飲食物の売店は、スタッフさんとお客さんの間に、透明なカーテンがあります。

チケット売り場や売店に並ぶときや、待ち合い室の座席は、ソーシャルディスタンスになるようにしてありました。

グッズやパンフレットは手に取って選べないようになっていました。

チケット購入後、入場時点にチケットもぎりと同時に検温がありました。

座席は一つずつ空けて、前後左右に誰もいない状態でした。

小さいシアターだったこともあり、ほぼ満席でした。つまり、本来の席数の半分が埋まっていました。

映画館の売店で売られているもののみ、シアター内の飲食が認められていて、そのときだけマスクを外すのが許されていました。


三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実の感想。以下、ネタバレを含みます。


東大全共闘の学生からの電話で、三島由紀夫氏は単身、東大生1000人が待つ900番教室に乗り込みます。

暴力的な映像が流れ、900番教室の壇上だけでなく、映画を観ているシアター内の観客席にも緊張が走りますが、東大全共闘の司会役の男性がうっかり発したある言葉で、900番教室もシアター内も空気が和らぎます。

私はそのとき、「ああこれは、東大全共闘の中に三島氏に対する尊敬の念があるのだな。」と感じ、これから始まる討論が、罵詈雑言ではなく、理知的なものになるだろうと予感しました。

「三島氏にとって主体とは?」「他者とは?」「事物とは?」このような質問が学生から出ると、三島氏は哲学者の言葉を引用しながら、比較的分かりやすく1000人の学生たちに訴えます。それは、1000人の学生は敵ではなく、共闘できると考えた三島氏が、1000人を説得するために語りかけたためでした。

芥正彦氏の登場は意表をついていました。何と自分の赤ちゃんを抱いて、壇上に登場したのです。議会に赤ちゃんを連れていく女性議員がいまだ議論になる日本で、50年も前に、奥さんの仕事の都合で旦那さんがお守りをしながら登壇したのです。

芥氏は、三島氏に対してあえて挑発するようなことを言ったり、ユーモアを交えて1000人に訴え、学生の支持獲得に成功しているようでした。

三島氏と芥氏の舌戦は見応えがあり、知と知の闘いでした。

また、週刊誌のカメラマンに頼んで、自分がいちばん良く見えるベストアングルで撮らせる三島氏に対して、赤ちゃんを抱っこした芥氏は、演出においても、どちらも戦術に長けていました。

ところが、見に来ていた学生から、「三島氏が殴られるところを見に来たんだ」という内容のヤジが入ります。

芥氏はその学生に向かって、「遠くにいるな!壇上に上がってこい!」と怒鳴ります。900番教室は騒然となりました。

壇上に上がって来た学生に、三島氏は受けて立つよと言わんばかりに毅然と立っています。

芥氏は、「(俺と三島氏の)どっちを殴るんだ?」とその学生に聞きながら、その学生と三島氏の間に入り、それとなく三島氏の盾になったり、演劇人らしくユーモラスな行動を取ってその学生の訴えを茶化したりします。(恐らく、その学生の主義主張が、ある一定のレベルに達していないと芥氏が踏んだため。)

芥氏も三島氏も、恐らく、物理的にも討論的にも、殴られたり刺されたりする覚悟で壇上に上がっていたのでしょう。命懸けなのです。

ここでも、二人の根底には尊敬の念があると感じられました。

ふいに芥氏は、「つまらないから家に帰る」と言って本当に帰ってしまいます。

恐らく芥氏は、三島氏が1000人の学生に吠えたり、芥氏の主張を論破する勢いで来て欲しかったのではないかと思います。

でも、三島氏は最初から最後まで冷静沈着で、1000人に語りかけます。

三島氏も東大全共闘の学生も、主義や思想は違っても、『日本を良くしたい』と思う気持ちは一緒なのでしょう。

コロナ禍でこの映画を観る意義もそこにあるのではないでしょうか。50年前の三島氏と学生たちは、今の日本政府の新型コロナウイルスの対応に何を思うのでしょうか。

シアター内の観客の一人である東大全共闘と同世代と思われる70歳前後の男性が、羽織っていた半袖シャツを脱いでタンクトップ姿になり、勇ましく帰って行くのが見えました。





たくさんの記事の中からわたしの記事にご興味をもち、最後までお読みくださって、ありがとうございます。 いただいたサポートは、私が面白いと思ったことに使い、それを記事にしたいと思います。