ひとりそたぶ191 深海

191回目は「深海」です。深い海を想像するとゾ~っとするのは私だけでしょうか。

ではご覧下さい。

孤独なスメル
コント/パンドラの

お前マジふざけんなよな。すいませんじゃねえんだよ。謝れば済むって問題じゃねんだからな。

何でさ、浦島太郎へお土産として渡す玉手箱開けちゃったワケ?

お陰で竜宮城中に煙が漂って悲惨な状態になってるじゃねえか。どうすんだよコレ。常識で考えて人に渡す奴を開けるバカ居ねえだろ。玉手箱じゃなくても大問題だからな。

「自分亀だから急いでたら転んだ」じゃねえのよ。急がなくて良いんだよ。慌てるとロクなことにならねえっていつも教えてるだろうが。

見ろよ、乙姫様も魚共も俺もみんな年寄りになっちまってるだろ。

乙姫様も哀れだよなあ。年齢より遥かに若く見えるのがウリだったのに、年相応のババアになっちゃって……。

そんで魚共も横たわってゆっくりと地上に向かって打ち上げられてるぞ。良く見たら気圧の関係で浮袋が段々口から出始めてるな。

は?「急に視界がぼやけて見えません」だ?お前が老眼になったとか知らねえからな。それはお前だけの問題じゃねえんだぞ。

万年も生きる生物が一人前に年寄りみてえな事言うんじゃねえよ。だから地上のガキにリンチされるんだぞこのノロマ。

地上に帰った浦島太郎が一人だけジジイにさせるつもりだったのに、何故かアイツだけ若いまんまなんだよな。

最悪アイツもジジイになってれば良かったけど、目的果たせねえから完全に討ち死にだよ。

何?「討ち死にって言うより老衰で衰弱死」だあ?お前の所為でこうなってんだぞ。何開き直ってやがんだ。ひっくり返してやる。一生そのままで居やがれ。

ったくバカ亀一匹の所為で竜宮城は閉鎖。これからどうすりゃ良いんだよ。不景気だから年寄りだとどこも仕事雇ってくれねえんだぞ。

深海だと尚更だぞ。そもそも働く場所すら無いんだぞ。地上行っても戸籍自体無いから余計だな。

俺もツラいけど、乙姫様も大変だよなあ。竜宮城の女主人以外ロクな職歴も無いしババアだし。年金もロクに払ってなかったから生活も苦しいだろうし。

浦島に寄り添って暮らすつもりだったんだろうけどババアになった瞬間猛ダッシュで地上まで浮上したからなあ。逃げられて羨ましい。

正直乙姫様の若い姿は良かったけど今の姿じゃ何とも思わねえな。面倒見ようって気にもなれねえし。

とりあえず食糧はそこら辺にうようよ漂ってるから何とかなるけど、正直こいつら全然食欲が湧くフォルムをしてねえよな。

深海魚って大抵細い身体で肉が少ないもんな。今の俺と同じ。でも素早い動きは敵わねえ。

こうなったのも全部あの亀の野郎の所為だな。イライラしてきた。

俺と乙姫様は全力で亀を蹴った。ひたすら蹴った。年老いた身体だったがそれでも死力を尽くして蹴った。何だか生きる力を得ている気がする。

すると、「そこのお爺さんとお婆さん!!いい年して年老いた亀をいじめるのはやめなさい!!」と声が聞こえた。

声を発した青年は俺等に幾許の小銭を渡し、亀に連れられて何処かへ連れられて行った。此処よりも深い深海へ潜った。

そこのにはもう一つの竜宮城があった。亀の野郎自分だけ再就職しやがって。許せねえ。

俺達はもう一つの竜宮城に開けた玉手箱をぶん投げた。誰かを傷つける事でしか生きられぬ哀れな老人なのだから。

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