干潟の匂い
昼下がり、重く湿ったシーツ
多分、ぬるいそれは、しかし肌に直接触れるとなると
少しだけ冷たい
まどろむとき、あの干潟の匂いがした
胎内に回帰するような
潟の匂い
夏の午後の、どうしようもない昼下がりの
気怠くて、遣る瀬がなくて
ただ何もなく、でも、だから、窮屈で
さえぎるもののない、うみべの景色
見えない壁の、閉塞の質感
遠いむかしの、汐のかおり
遠く、うみべの街
そこにはかつて生活があり、僕のすべてもまた
その時は、そこにあった
気怠い夏、気怠い永遠、遣る瀬のない日々
東京の六畳、干潟のかおり
山あいの街から、出てきたこのひとは
汐風の気怠さを、知るのだろうか
籠の中の、うみべの街
気怠い夏の、物憂げな午後の
どうしようもなく、どうしようもなさが永遠に
果てのない一直線は、気怠さで
ふいに、息が苦しくなって
干潟の匂いがする
海のない街から出てきたくせに
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