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熱海殺人事件

あの「熱海殺人事件」が、いま、つかこうへい舞台の聖地、紀伊国屋ホールで上演されている。

つかこうへい作品において、演者は、早口に大量の台詞を発するなかで、その発する台詞に含まれる感情とは相反する感情を心の奥底に持ち、微妙な感情のスイッチングを演じる、まさに演出と演者によって舞台の生き死にが大きくかわる作品だ。
光が強ければ闇が浮かび上がるように、この相反する感情をうまくスイッチングする演技こそが、観客の感情を根こそぎ振り回すジェットコースターのような舞台を作り出す。
演者、演出の匙加減により、つかこうへいの作品は生きるか死ぬか、成功するか否かが大きく別れる。
この絶妙な匙加減、相反する感情のどちらにも傾きすぎることなく、しかし打ち消しすぎない演技ができる演者たちこそ、今回の「熱海殺人事件」に揃った味方良介、文音、多和田秀弥、黒羽麻璃央の4名。そして、この4名の手綱を握り、ギリギリを攻める演出家は、つか作品ではおなじみの岡村俊一である。

つか作品はある種の博打だ。
演者、演出家の匙加減で舞台の生き死にが大きくかわるだけではなく、2時間のなかで観客に伝えきれるかわからないほどの情報量を土砂降り雨のように与えていく。観客の理解力も試されている。時間を割き、安くはないチケット代を払った観客は、試されているのだ。台詞を吐いた後、口の端だけが上がったこの一瞬の表情、間にどれだけの情報があり、それを理解できるのか。彼はなぜいきなり怒鳴ったのか。彼は、彼女は、なぜ。
生の舞台だからこそ、今日はどちらの感情がどれだけ滲み出るか予測できない。自分もどこまで感情を振り回されるかわからない。だからこそ、私は何回でもつか作品を見に行く。たとえ見たことがある戯曲だとしても、演者、演出家により、同じ台詞、同じ演目だとしても、全く違う代物になることがあり得るのが、つか作品だ。

つかこうへいが書いた物語に、私がハマったのは一昨年の冬だった。好きな俳優が出演するから観に行った。「幕末純情伝」だった。
つか作品が好きな友達からは「見たが最後、絶対戻ってこられなくなるよ」と、半ば諦めの言葉をもらった。何故なのか。当時はわからなかったが、今はわかる。助けてくれと、笑いたい。

3/6の千秋楽まであとわずか。
映像化はされないであろう、この作品。
ぜひ、生の舞台だからこその勢いを味わってほしい作品である。
見に行ってください。ルノアールで待ってます。
熱海殺人事件 NEW GENERATION

#つかこうへい #岡村俊一
#紀伊国屋ホール #熱海殺人事件 #味方良介 #多和田秀弥 #文音 #黒羽麻璃央 #観劇

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