2/12 鈴カステラがないこの街に暮らして

マクドナルド西武新宿駅前店が人混みで溢れ返っており、その様子を見て外で呆然と立ち尽くしていた。予定まであと1時間。どこの店も閉まり始め、深い夜の訪れだけを有象無象が待ちわびている。隣にいた彼はなにげなく鈴カステラを俺にくれた。100均に売られている135gの中々ボリュームのあるそのお菓子は、小さな森の奥にある丸太小屋のような色をしており、牛乳がほしくなるようなほんのりとした甘さがあった。そのような鈴カステラをもらえたことが俺にはとても嬉しくて、再び食べたくなったのだが、後日、近所のスーパーを回ってもどこにも売っておらず、なんだか拍子抜けしてしまった。逆に鈴カステラの希少性が増して、昨日のことが余計にありがたく感じる。全く興味のないホームパイを惰性で買い、スーパーを出ようした瞬間、180cmくらいのモデルのような見た目の女性とすれ違う。あの人の人生にも鈴カステラはあったのだろうか。鈴カステラのないこの街に失望し、俺は自転車で風を切った。ホームパイの味はしなかった。鈴カステラの甘さしかわからない舌に既に変わってしまったのかもしれない。それは思い出に執着しすぎると日常がおかしくなるというわかりきった事実だった。

小さい頃からお金をもらうことが好きでした