タクシードライバーは変わった人を乗せることが多い
昔はありきたりなことを言うようなやつではなかったんですけどねえ。
「自分で考えて答えが出てくるまで行き先は教えません」
理不尽な客だった、と彼は言いました。
話を聞かなくても勝手に話し出す。気が滅入っている人の特徴です。
よくいるのが喧嘩腰の乗客だそうで
「この仕事に誇りを持たないでください」
「華がないですよね」
「ナビを使わずに行けるところもナビを入れる癖がついてない?」
「あなたとは別のところでもお会いしたくない」
酔っぱらって気が大きくなってるだけだと自分に言い聞かした夜が何度もあると愚痴を吐いていました。
返事に困ることを言う乗客も多いそうで
「そのメーターうちのライバル会社が作ったんですよ」
「この車は空気が悪い、あなたはもう少し日に当たると良い」
「孫が生まれたんだよ、孫がね、生まれたんだよ」
「あの、平成でお会いしましたよね?」
愛想笑いのうまいドライバーはよく稼ぐ。苦い顔で彼は言いました。
行き先でボケる乗客も後を絶たないのだとか。
「運転手さんの家までお願いします」
「この街で最も暗いところまで…」
「この巨大都市の片隅でまだ現代に馴染めきれてない少年少女のもとまで」
ただの中二病じゃん。
聞いてもいないのに語る人も一定数いるようです。
「人を運ぶ仕事、僕も昔やってましたよ。死人でしたけど」
「かのニュートンは木からりんごが落ちる様子を見て万有引力を発見しました。ではタクシーが崖から落ちる様子を見て人々は何を発見すると思いますか?恐怖です」
「放任主義の家庭で育った私は常に自分で進むべき道を考えてきました。でもそれも今日でおしまい。ドライバーさん、私とこの先の道を一緒に走ってくれませんか?」
最後の至ってはプロポーズじゃん。
小さい頃からお金をもらうことが好きでした