12/1 チキンライスのない人生

今日は思い出すことがいっぱいだな。1つ思い出がよみがえるとそれに釣られて他の思い出も記憶の引き出しから出やすくなるのかな。水曜日のダウンタウンを見てたんだ。モンスターラブってやってるだろ。クロちゃんとクロちゃんを好きな人たちが一緒に暮らしていく中で1人ずつ脱落していって最後に残った人がクロちゃんと結ばれるという恋愛企画。ロケ地が沖縄だってことも過去を思い出すきっかけになったんかな。夜にみんなが食事しているシーンにそれが画面に映ってたんだ。

黒いバーベキューグリル。

思い出したよ高2の春に嫌々行かされたホームステイを。通っていた高校はアメリカに2週間ホームステイしないと卒業できないところだったんだ。知っているかな。ホームステイって信じられないくらいお金がかかるんだ。俺の家は貧乏だったし高校受験は失敗して私立に行くことになったからお金なんてあるはずもなかった。そんな中追撃をかけるようにお金のかかるイベントがやってきて俺はめちゃくちゃ腹が立った。自分ではどうすることもできないこの世界の理不尽さを目の当たりにしたよ。まあなんとかお金は用意できてホームステイには行けはしたんだ。その上、親友とペアになれたりホームステイ先の人がすごくフレンドリーな人だったりして充実した生活を送れた。海外にしばらく住むことで日本の良い部分悪い部分が知ることができた。とても価値のある経験になったよ。そんでその中でも特に思い出深いのがスペアリブなんだ。食べ物かよって思うかもしれないけれど骨付き肉をグリルで焼いてあまいあまいバーベキューソースをかけて食べるとそれがもうとにかくおいしいんだよ。

そんなことを画面に一瞬だけ映った黒いバーベキューグリルを見て思い出したんだ。それからなぜかわからないけれど俺はチキンライスという歌を口ずさんでいたよ。小さい頃貧乏だった松本人志がクリスマスの外食で親に気を遣ってチキンライスを頼むという歌なんだけどさ、そんな歌を歌いながら小学生の時のことを思い出したんだ。俺の場合母親と2人暮らしで母親は毎日仕事だったから一緒にいることや食事することはほとんどなくてさ。貧乏。とにかく貧乏だったんだ。だから母親は働いて稼ぐしかなかったんだ。

今ではたまに母親が食事に誘ってくれるけれどあの時の罪滅ぼしなのかな。ありがたいけどさ、そんなのいいよ。もう取り返しつかないんだよ。あの時さ、少しでもいいから一緒にいてほしかったんだよ。一緒に食事してほしかったんだよ。俺にはさ、チキンライスすらなかったんだよ。あの時さ、すごく寂しかったんだよ。誰もいない家に帰るのが。誰もいない1人の食事が。何度兄弟がいてくれたらと思ったことか。ドラマの食事シーンみたいに父親と母親と弟や姉がいてみんなで一緒に食べたかったんだよ。すごく寂しかった。すごく辛かった。毎日孤独で泣いていたあの日々をなんだか思い出してしまったよ。あの頃いた友達も今の俺にはもういなくて、今が一番孤独で、俺は誰かに愛されたことがなくて、ただ母親の、不器用な母親からの、不器用な愛だけを受け取って、今日まで孤独に生き抜いてきたんだよ。でもまあ大丈夫。俺強いから。たまにセンチメンタルになってしまうけれどあれから俺は大人になってうまく自分を飼い慣らす方法を覚えて、それが正しいのかはわからないけれど、泣く回数は減ったから、俺はひとりで生きていけるよ。
 

きょう、ママンが死んだ。もしかすると、昨日かも知れないが、私にはわからない。

アルベール・カミュ『異邦人』 


小さい頃からお金をもらうことが好きでした