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100年続く、祖父母の散髪屋の話。

私の祖父母は、福井県にある、街の小さな散髪屋を営んで、もうすぐ70年になります。明治時代にはじまった、祖父の父の代から数えると、100年以上。戦争、福井震災を生き抜き、お店が全壊しても何度も建て替えながら、長い年月、たくさんのお客さんとともに継続し、今では街一番の老舗です。

そもそも散髪屋とは理容室のことで、美容室と理容室は違います。みなさんが行く、ヘアサロンは美容室です。簡単に言うと、美容は見た目の美しさ重視、理容は技術重視。大きく違うのは、顔そりを提供し、カミソリの刃物を扱えるのは理容だけ。最近では、レディースシェービングといって、女性向けの顔そりも出てきています。お化粧ののりがまるで違うのでオススメです。

「お客さんを大事にすること。お客さんの注文をよく聞き、できるだけのことをして、それでお客さんが来なけりゃ、しょうがない。」

技術を駆使し、頭の形に合ったスタイルを考えた上で、暑くなるから短めにしてほしいと要望があれば、それに合わせてアレンジします。まさに、プロの技。私自身、幼少期に祖父母の家で過ごした時間が長く、今となっては私の実家はこの散髪屋で、昔からよく髪を切ってもらったものです。

(ひ孫の髪を切る、祖父母)

お客さんの中には、話をしたい人もいれば、話したくない人もいる。天気やニュースなど世間話から、百姓なら農作業、パチンコ好きならパチンコの話、色んな話をします。その会話術は、私もすごく勉強になります。昨日のお客さんはGWで遠方からお孫さんが遊びに来る話を嬉しそうにされて、「あー、気持ちよかった!」と、おつりは要らないと、満足そうに帰って行きました。

最盛期は1人あたり1時間として、1日10人以上のお客さんが来てフル稼働、食べる間も惜しんで働いたそう。祖母は、今でも、部活の合宿が始まるかと思うくらい大きな鍋で、一度にたくさんの煮物やごはんを作ります。私の母が小さい頃は、自分や兄の分のお弁当を自分で作って、家事を手伝っていたようです。

そんな忙しい中でも、趣味の山登りで、友達と出かける時間を大切にしていました。理容組合の会合で知り合った、同じ散髪屋仲間と仲良しの6人グループがあり、お休みの度にしょっちゅう山登りに出かけたものです。富士山、立山、新穂高、白山、上高地、県内の山はほとんど制覇。メンバーが80代になってからは、山登りから、全国の休暇村巡りになり、食事して温泉に入るのが楽しみに。仕事だけでなく、外のコミュニティに所属してリーダーシップをとったり、友達と外に出かける、また夫婦で週末に買い物や遊びに出かける、自慢のアクティブシニアです。

そんな祖父も83歳。「お客さんがいる限り、元気な間は働き続ける。」と、客数が減った今でも、細々と仕事を続けています。「手が震えて、ハサミを持てなくなった時が、引退の時。」その時が来るまで、今日も元気に走り続けます。

吉崎詩歩

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