昔女の子だった人
夕方、スーパーの帰り道信号を待っていると、目の前に立っていたおばあさんが突然へたりこんだ。
少し放置しようか迷ったが、「大丈夫ですか?」と話しかけた。彼女はぼんやり「めまいがしたの」と答えた。顔を近づけなくても酒臭かった。痩せていて、ラフな格好をしている。目にはマスカラがされていて、年恰好とどこかギャップを感じた。
「救急車呼ぶ?」と聞くと、いいという。
「タクシー呼ぶ?」と聞くと、「家まで1分だからいい」とそれも断られた。
また倒れそうなので、腕を組んで酒臭い女の人と歩くことになった。
「今日はずっと飲んでたの」という。
「そうなんだ、どこにいたの?(どこで飲んでいたか答えると思った)」と聞くと、「パチンコ」と彼女は答えた。
道中なんどか「忙しくない?」と聞かれた。「平気だよ」と答えた。
本当に1分で家に着いた。
二階建てのアパートの一階だった。
渡された鍵でドアを開けて、玄関まで入る。
生活感のある部屋で物は多いけど、掃除がされているのがわかったし、自炊もしているようだった。
「じゃあ気をつけてね、おやすみなさい」と言って部屋を出ようとすると、「ビール一本でも飲んで行ったら?」と言われた。
ビールは私の大好物だ。ビールはいつでも飲みたい。部屋の奥にちゃぶ台が見えて、ビールを飲みながらこの人の話を聞く自分を一瞬想像した。(勝手にアサヒスーパードライの350だろうなと思った)
それからまた彼女は、「忙しいの?」と聞いた。
「今日は帰るよ、アイス買っちゃってるから」と嘘をついて、「おやすみなさい」と言ってドアをしめた。
家に帰ると、玄関でドアを押さえていた腕を2箇所蚊に刺されていた。