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不器用な人のほうが仕事の喜びがある

富山県高岡市にあるシマタニ昇龍工房は、職人が手作業で鏧子(けいす)を製造する、全国でも数えるほどしかない工房です。

鏧子(別名:おりん)とは、縁を棒で打ち音を出す寺院用の仏具のこと。

4代目の島谷好徳(しまたによしのり)さんは、鏧子を製造する技術を応用し、折り紙のように折ったり曲げたりできる錫の器『すずがみ』を開発しました。

金属でありながらぐにゃぐにゃと形を変えられる不思議な『すずがみ』は大きな話題を呼び、多数のメディアに取り上げられました。

代々続く鏧子職人の家に長男として生まれた好徳さん。

周囲からの「家業を継げ」という圧力に反発して上京しましたが、ある日道端で世間話をしたおばさんから「伝統の家に生まれ落ちるなんて、とても特別ですばらしいことじゃない」と言われ、はっとしたといいます。

鏧子職人の希少性や高齢化が進む現状に気づき、23歳で地元に戻って修行をはじめ、鍛錬を重ねて4代目「昇龍」を継承しました。

ただ、鏧子は50年から200年もつ製品です。高度経済成長期に全国の寺社へ行き渡ったため、注文は最盛期の3分の1に減少していました。

この状況を打開するため、島谷さんは先代と衝突しながらも新たな製品開発に挑戦。その成果として生まれたのが『すずがみ』です。現在では、鏧子よりも『すずがみ』の売上のほうが多くなったそう。

『すずがみ』に注目が集まったおかげで、一般の人に鏧子の音を聴いてもらう機会も増えました。好徳さんは、「これで鏧子をつくり続けることができそうです」とうれしそうに笑います。

高岡市関本町にある曹洞宗の古刹・瑞龍寺には好徳さんが製造した鏧子が納められています。

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好徳さんが鏧子づくりの仕事を覚える上で一番難しかったのは、調音だったといいます。調音とは鏧子の音程や波長を整える作業です。それらを測る機械はなく、頼れるのは自分の耳だけ。数年間、祖父の傍でただ音を聴き、心に刻みました。

カンカンカン、とリズミカルに叩く好徳さんの姿を見ていると簡単そうに錯覚しますが、これが中々思うように打てません。

「不器用な人にはできない仕事ですね」と聞くと、「実は僕も不器用なんですよ」と好徳さん。

「不器用な人のほうが、一つひとつできるようになる喜びがあるじゃないですか。どんな仕事もプロになるには辛抱強くやるしかありません。その先に見えてくるものがありますから」

島谷好徳さんの"仕事場"をのぞいてみたい。そんなあなたに、この旅を。







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