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「他国の憲法は何度も改正されている」のか?

よく憲法をいじりたい人が言いませんか?

「他国の憲法は何度も修正されている、日本だけが修正されていないのはおかしい」とか。

これ本当ですかね? ちょっと考えてみましょう。

まず前提として、そもそも論なんですけど、頻繁に何度も直さなきゃいけないものと、直さなくても長く使えるものだったらどっちが良いものだと思いますか? 

車で例えるなら、買った直後からオイル漏れしたりエンジンが調子悪かったりして何度も修理しなければいけないし道路状況が変わったらその都度タイヤを変えなければいけない車と、調子がいつも良くって高速道路も細い道もオフロードも走れる車。そりゃ後者ですよね? 

何度も修正が必要な憲法と修正がなくてもまったく問題ない憲法。

あれ? なんで改憲が必要なんでしたっけ? 

ま、今回これで終わってもいいんですが、続けましょう。

前提としてお詫びしますが、私は全世界各国の憲法を網羅しているわけではないので、例えばですけどアメリカの合衆国憲法と比較だけになることをお許しください。合衆国憲法についても専門家ではないので、もし私の間違いがあればどうぞご指摘ください。他の国の憲法との比較が出来る方がいらしたらぜひお伺いしたいのでよろしくお願いします。

さて、アメリカの合衆国憲法は、前文と、7条(日本でいうと”章”になります)の本文からなりたっています。そして加えて27の憲法修正条項があります。

これを聞いて「ほら!合衆国憲法は27回も修正してるじゃないか!」というのは早とちりです。もう少し聞いてくださいね。

まず、もともとの合衆国憲法の条文は一言一句、変えられていません。この点で、日本の憲法をいじりたいと思っている人たちのいじり方とはまったく違います。あくまで元の憲法は一言一句変えないもの、ということです。

しかし、もともとの憲法ではどうしてもまかないきれない部分も時代と共に出てきます。

例えば、ですが、合衆国憲法はこういう言葉から始まっています。

「We the People of the United States,」 (われら合衆国人民は、)

この憲法が発行された1788年当時、おそらく「合衆国人民」といえば、白人の、ある程度以上の資産を持った男性、が想定されていたはずです。ですから当時は奴隷制は憲法違反ではありませんでしたし、女性に参政権がないことも憲法違反ではありませんでした。

※奴隷制を認めるとか女性差別を認めると憲法に書いてあるわけではありません。

その後、黒人公民権運動や女性の参政権運動などが起こり、白人以外の人種の人権を尊重する必要や女性の権利を認める必要も出てきました。そのために様々な法律を整備していきます。しかし「いや、法律でなんと書かれていようが最高法規である合衆国憲法に書かれていないから俺は認めないよ」という屁理屈を言う人が出てくると困ってしまいます。

ですから、憲法に付け加えて奴隷制の廃止(修正第13条)や黒人参政権(修正第15条)、女性参政権(修正第19条)が制定された、ということです。

つまり、合衆国修正条項は日本語で「修正」と便宜上訳されていますが、これらはむしろ「追加・補足・補強」と考えたほうが適切なのです。

英語でいうと「合衆国憲法修正第13条」は「Thirteenth Amendment to the United States Constitution」となります。つまり合衆国憲法の13番目の「Amendment」ということですね。Amendmentは英和辞典を引けば確かに「修正」なのですが、語源は「修繕する」の「mend」です。meding tapeは修繕テープです。穴が空いてしまっているところとかを埋めるために貼るイメージ。つまり、元の合衆国憲法ではまかないきれない穴をAmendmentで補っていくということがイメージですね。

よって、合衆国憲法は「補足や補強はされてきたけど、元の憲法は一切変えられていない」といえます。

そして、27条ある合衆国憲法修正条項は、基本的にその多くが「基本的人権を拡大し、保障する方向」にあるものです。

例えば、代表的な「基本的人権を拡大し、保障するための条項」を上げてみます。

修正第1条:信教・言論・出版・集会の自由、請願権

これは信教・言論・出版・集会の自由を禁ずる法律を国は制定してはならない、ということです。また、それらの自由が侵された、という苦情を政府に対して請願する権利を侵害する法律を制定してもなりません。このあたりが「憲法は国家を縛るもの」と改めて感じさせますね。

修正第2条:人民の武装権

これはちょっと悩みのタネなんですが。つまり「国家は、国民が武装、銃を持つ権利を犯してはならない」ということです。これも「武装する権利を保障する」ということで権利を保障する条項だ、とは言えます。が、困ったものですよね。この条項によりアメリカでは銃規制が進まないので。

その他、下記の通りに国民に対する不合理であったり異常、残虐な刑罰や処罰を禁じる条項が続きます。

修正第4条:不合理な捜索、逮捕、押収の禁止
修正第5条:大陪審の保障、二重の処罰の禁止、適正手続、財産権の保障
修正第6条:陪審、迅速な公開の裁判その他刑事上の人権保障
修正第7条:民事事件における陪審審理の保障
修正第8条:残虐で異常な刑罰の禁止等

10条以降で代表的なものは、

修正第13条:奴隷制廃止(1865年)
修正第15条:黒人参政権(1870年)
修正第19条:女性参政権(1920年)

などと、奴隷制を廃止し、白人以外の人種の人や女性の権利を保障する条項などが続きます。

修正条項で「してはならない」と国民に何かを禁じる条項は13条の奴隷制の廃止と18条の禁酒法の2つのみです。もちろん後者は修正21条で廃止されています。

以上、とりあえずまとめておきますね。

・何度も変えなければいけないものより、変えずに長く使えるもののほうがいいですよね。
・合衆国憲法の原文は一言一句変えられていません。ですから「他国の憲法は頻繁に帰られている」という例示は少なくともアメリカの合衆国憲法に対しては当てはまりません。
・合衆国憲法は27の修正条項がありますが、それは「修正」というより「補足・補強」というべきものです。
・また修正条項は基本的に、人権を保証し拡大する方向のものです。

もし合衆国憲法の修正条項を見習って日本の憲法にも修正条項を制定したいなら、日本国憲法に反しない方向で、人権を拡大し保障する条項にすればいいと思いますよ。

例えば、同性婚です。

同性婚が憲法で認められているかどうかについては


憲法24条1項「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」

を見て「両性とは別々の性のことだから男女のみが認められている、同性婚は認められていない」と主張される方がいらっしゃいます。

同性婚を憲法で認めるとすれば、この条項を「両者」に変えるのではなく、修正条項を立てて、「憲法24条1項の両性は別の性を意味しない」と補足するとかがいいでしょう。そういう憲法改正(というか修正)なら私は賛成です。

とはいっても今の憲法と同性婚は矛盾していないので、国がしっかり憲法を遵守してくれればいいだけなんですけどね。

あれ? なんで改憲が必要なんでしたっけ?


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