てんとう虫と冷蔵庫

この話を聞いたらすぐに誰か他の二人にこの話を同じように伝えてほしい
お願いだから この話を聞いてくれ
この話を聞いてくれるかい

湯飲みの中の白湯が少し揺れて
冷蔵庫が静かに音を立てて泣いた
もうすっかりとこの辺りも
変わり果ててしまったからね

渦巻きの中で一点を見つめるてんとう虫は
サンバを刻みながら羽を震わせていた
この話を聞いてしまった人間は
確実に何かひとつのものを失ってしまう

少なくとも 少なくともひとつ
少なくとも 少なくともひとつ

慌ただしく感じる街の様子を眺めながら
自分の掌をそれと交互に眺める
見つめているはずのものは
いつか眺めるだけになっていた

静かに冷蔵庫は音を立てて
そういえば街の様子は今までずっと
慌ただしくなかったことなんかなかった
それは例えば僕が
それは例えば僕が

街の中でまるで渦巻きの中のあの
あのてんとう虫のように
羽を震わせながら
ただじっとしていたあのてんとう虫のように

遠くに感じていたものは
自分の中にあった
自分の中にあったものは
いつかなくなっていた

この話を聞いたら 他の誰かに
他の誰か二人に 同じ話を伝えてくれ

それじゃあこの話を始めるよ
じゃあまずその前にこの渦巻きを
止めてくれないか
そしたら僕は もうこの話のことなんか
忘れることができるんだ