#16 ベルンシュタインから考える⑩『動作構築のレベル』その4
レベルD:行為のレベル
早速、質問です!
人間よりも速く走れる動物は?
人間よりも高くジャンプ出来る動物は?
人間よりも上手に泳げる動物は?
どの質問にも、いくつもの答えが浮かぶのではないでしょうか。しかし、今回テーマの『レベルD』の観点からすると、状況は一変します。
レベルDは『人間のレベル』と呼ばれます。人間に近い類人猿でさえも、レベルDの動作は多くなるものの、行為の動作はごく僅かなのです。
では、行為とは何を指すのか見ていきましょう!
行為とは?
行為という言葉の意味を見ていきましょう。
行為とは、ある運動課題を協同して解決する動作系列全体をいう。その特徴は、①連鎖構造があること、②適応的な変動が見られること、が挙げられる。
難しい表現ですが、レベルCで触れた課題解決に伴う一連の動作全体を指します。
実行していく課題が複雑化していく中で、適応的にいくつもの動作を繋ぎ合わせることにより、様々な動作が可能になるのです。
さらなる特徴には、③対象を伴って行われる点がある(対象的行為)。
これは単に、物を移動させたり、物に適当な力を加えたりする事だけではありません。
行為について、『将棋』を例に考えてみましょう。
将棋では、駒を動かします。これはレベルCの動作です。しかし、定められた盤上でルールにのっとり、適切な戦略のもと、動かされた駒には隠された意味があります。その背景にあるものが動作(ここでは「駒を動かす」)を意味のある連鎖にしているのです。
別の例えです。『格子ごしのエサをどうやって食べるか』。
ニワトリはエサに目が止まると、格子があろうとエサにまっしぐらです!イヌは最初はニワトリと同じかもしれませんが、エサにたどり着けないと判断すると格子から距離を取り、檻の入り口を探し始めます(空間のレベルから行為のレベルへの移行)。さらに、サルでは棒などの道具を用いてエサを近くに引き寄せます。
このように例で挙げた様々な動作は、連鎖をなす行為の一成分です。ですが、これらの動作が連なり合うことで行為が成り立ち、我々を人間たらしめているのです。
この『人間のレベル』と言われるレベルDは、あらゆる特徴から大脳皮質なしに存在しえないとされます。
これには、人間の手との密接な関係があるとされます。
あらゆる筋-骨格系の運動器官は左右対称です。これに関係して、レベルAからCでみてきた動作も左右対称であり、左右の役割が等しいということが言えます。
しかし、行為のレベルになると左右の役割が異なってきます。
多くの人が右利きです。そして、右半身を制御するのは左半球です(左利きの人は逆)。この左半球には、言語などの中枢があり優位半球と呼ばれることもあります。
ここで重要なのが、人間の手が驚くほど動きが豊かで、正確さを要求される様々な動作に見事に適応している点です。
このため、何かを行う時に他の身体部位を選ぶのではなく手を選ぶのです。このようにして、手は前足から大きく進歩していったのです。
話が脱線しますが、ヨーロッパ言語では『巧みさ』という単語は「右」を語源としているものが多いようです。
フランス語
「右 droit」「巧みさ adroit」
イタリア語
「右 destro」「巧みさ destrezza」
スペイン語
「右 diestro」「巧みさ desteridad」
身体と言葉の起源が繋がっているとは、面白いですね!
話を戻します。
さらに重要な点として、人間が成長するにつれ、レベルDの行為が徐々に現れ、増えてくるという点が挙げられます。5〜7歳ぐらいの子どもは、歩いたり、走ったり、ジャンプしたり移動運動を楽しみます。これらの動作の中で、今後発達していく行為のための背景調整を蓄積させていくのです。
調整と自動化
レベルCでは、感覚刺激が脳で認知される時には勝手に調整されるという話をしました。これは過去に蓄えられた体験の記憶による痕跡を多く含むためとされます。
そして、レベルDでは、直接的な感覚印象をほとんど用いず、観念や概念に基づいて先導的に調整を行うことになるのです。この観念や概念とは、課題解決や要素間の順序や関係を指します(先ほどの将棋でいうなら、勝利への道筋でしょうか)。
このため、意味のある行為連鎖は、みな行為リンクという要素から成り立ちます。それぞれ独立した運動行為でありながら、低次レベルや高次の空間レベルなどと連携し構築されていくのです!
ここで、低次の独立した動作との違う特徴を2つ挙げてみます。
①絶大なる命令、そして、それを見守る監督
選手に大きな裁量権を与えるが、最終的な結果には自ら審判を下す。
これはマッチでタバコに火をつける例が分かりやすいですね。どんな経路でも良いですが、最終的に火をつけることが大事になりますね。
②動作リンクの特殊な起源
低次のレベルの成長は、高次の行為レベルの要求によって達成される。
レベルAやB、Cの動作は、目的とする行為の意味を把握できていません。レベルDからの指示のもと、必要な背景レベルの調整を行うのです。要するにボトムアップではなく、上からの指示のもと考えて調整していくというトップダウンの考え方に近いですね。ちなみに、行為のレベルの制御を担うのは、大脳皮質の一部である前頭前野とされます。
少し長くなりましたが、これで動作構築のレベル説明は終わりになります。
今回は、
①行為のレベルは、人間でも徐々に出現し発達していく
②行為の動作は、低次のレベルから段階的に組み立てられるのではなく、高次のレベルからの要求により調整される
という2点が非常に印象的でした!
これらの点は、子どもの育成に役に立ちそうですね!
次回からも、まだベルンシュタイン続きます!!笑
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?