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#18 ベルンシュタインから考える12『練習と運動スキル』その1

今回からは、練習による可能性と運動スキルについて見ていきたいと思います!


練習可能性について


哺乳類のような生物では、ある活動の経験を長く積めば、その分だけ実施した動作や活動が上達します。このような特徴を練習可能性と呼びます。

つまり、動作や行為の繰り返しは、何度も(より良く)運動課題を解決し、解決に至る最良の方法を発見するために必要とされるのです。


生物(主に哺乳類)は生きていくなかで、突然の予期せぬ複雑な事態を解決する能力を必要とするようになりました。

さらに、その不測の事態は外的条件が毎回異なるため、様々な変化に適応した経験を通し、動作の感覚調整を行う基盤を獲得していったのです。



鳥類でも、単調なスキルを獲得することは可能です。しかし、この練習可能性をきちんと獲得できるようになったのは大脳皮質を持つ哺乳類だとされます。

こう考えると、練習可能性は大脳皮質と同年齢ということが言えますね。


さらに、ベルンシュタインは『巧みさは練習可能性よりも後に生まれてきた』と述べています。つまり、練習可能性という土台の上に『巧みさ』があるのです(「巧みさは練習可能性の妹」と表現される)。



運動スキルとは何か


さて、続いての疑問ですが、運動スキルとは一体何なのでしょうか。


運動スキルは、単なる「運動の公式」のようなものではありません。感覚情報に基づいて動作を管理し、その場に応じた調整をしながら動作を操る能力を指します。

つまり、端的に現すと以下のようなります。

運動スキルとは、何らかのタイプの運動課題を解決する能力である。


運動スキルの構築


それでは、運動スキルはどの様に構築されているのでしょうか。

スキルの構築は、意味のある連鎖反応とされ、質的に大きく異なる別々の段階から構成されます。このため異なる連鎖の各段階を省略したり、入れ替えたりすることは出来ないのです。





私たちが新たな課題と出会ったとき、以下の段階を追うことになります。

第1段階:先導レベルを選択する段階
健康な成人であれば、人生で経験したことがない運動課題は存在しないと考えられるため、この段階は重要視されることはありません。

ちなみに、ベルンシュタインは空間スキル(水泳のようなスキル)は子供のころに学習しておくべきだと述べています。


第2段階:運動構造を構成する段階 
運動スキルに含まれる動作を外側からどの様に行うかを決定する段階とされます。

第3段階:調整の生成を行う段階
実行しようとする動作と感覚調整を実際に内側に感じる方法を学習する段階です。


この2つの段階を分かりやすい例えで言うと以下のようになります。

まだ自転車に乗ったことがない子どもに、自転車を漕がせようと悪戦苦闘する親子の姿を想像してください。小さなお子さんを持つ方であれば、多くの方が経験する『アレ』ですね!笑

この例のように、新しい動作を傍目から見ることと、実際にその動作をやってみることは全く違いますよね。これが第2段階と第3段階になります。

第4段階:実際に背景レベルに委託する段階
この段階では、背景調整を適切なレベルまで下げ、『運動の自動化』という現象で認められます。そもそも人間は先導レベルが制御する対象に関係のある情報しか自覚できないという特徴を持ちます。逆に言うと、背景レベルの制御へと移行した調整は、意識の外へ出てしまうのです!

この段階では2つの普遍的な法則が当てはまります。まず、一瞬にして動作が習得される点です。そして、学習したスキルは決して忘れることがない点です。

この特徴的な内容からは、突然の飛躍の瞬間に、適切な背景レベルで発達してきた背景調整が活動し始めたことを意味します。これまでチグハグだった歯車がカチッとリンクする感じですね!

さらに、この段階では、以下のような事が起こります。

Xというスキルのために獲得された自動性が、別のYという新たなスキルで利用されることが生じます。これを、スキルの転移、または、トレーニングの転移と呼びます。

トレーニングの転移は、過去に精緻化された自動性を利用することによって生じます。ただし、似たような動作へ転移するとは限らず、動作および動作の構成要素を制御を調整すると理解されています!

なお、スキルの転移は決して良いことばかりではありません。

皆さんも経験があるかもしれませんが、あると思っていた今はなき照明のスイッチへ自動的に手を伸ばす動作やスキー動作を邪魔するスケートで身につけた自動性などがそれに当たります。

このようにトレーニングによって良い面だけでなく、デメリットも生じるということを理解しておく必要がありますね!


今回から、『巧みさ』に迫る内容となってきました。

何度も感覚調整の言葉が出てきているように、単なる筋力トレーニングや無目的な反復運動では巧みさが身に付かないと理解できるのではないでしょうか!

次回は、動作の自動化や安定化に迫りたいと思います!

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