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#21 ベルンシュタインから考える15『巧みさとその特徴』その2

巧みさの核心


これまで述べてきたように、巧みさの特徴は「資源を利用すること」です。この資源を利用する際には、「受動的」な側面と「能動的」な側面が存在します。

「受動的な側面」は、動作の着実性あるいは安定性と呼ぶことが出来ます。例えば、外乱の影響を受けながら、動作を遂行したり、運動課題を解決したりする際に役立ちます。

一方、「能動的な側面」は、運動の先見性として理解できます。つまり、環境による外的な変化に適応するのではなく、最適な結果への道筋を探しながら動作のプロセスを能動的に変化させることを示します。

この2つを合わせた「特性」が、巧みさにとって最も重要な特徴であり、巧みさの核心と言えるのです。



巧みさと先見性


先見性
予期(前もって調整を行うこと)は、運動の協応において非常に重要な役割を果たします。運動における資源の利用は、起こりうる外的条件の変化を予想し、それに対応した動作を計画する能力なくしては成立しないのです。

巧みさとは、いかなる外的状況においても解決となる運動を見出す能力、つまり生じた運動の問題を、以下の条件を満たして十分に解決する能力といえます。

①正しいこと(適切で正解)

②すばやいこと(意志決定においても、結果の達成においても)

③合理的であること(適宜性を備え、経済的)

④資源を利用していること(とっさの機転が利いて、先見的)



巧みさはどのように発達するか


ここまで見ると、「巧みさは生まれつき決まっている」と考える方もいるかもしれません。


しかし、その考え方は間違っているのです。


まず、念頭におくべき重要な点は、運動の巧みさは大脳皮質の機能に密接に関連していると言うことです。

巧みさは複雑な運動で、「感覚」と「運動」の運動制御機構が協同して働く必要があります。さらに、2つのタイプの巧みさ(身体と手の巧みさ)はそれぞれ異なる脳システムに基づいています。

この時、脳が未発達であれば巧みさの条件は満たさないと考えることもできますが、普通に発達した脳を持つ人間であれば、程度の差こそあれ普通の巧みさを示すだけの条件はそろっているといると言えます。




巧みさは、運動経験とともに蓄積されてゆきます。

この経験が、低次レベルの制御レパートリーと巧みさの中核をなす「資源の利用性」、「可転性」、「先見性」の蓄えを増やしていくのです。さらに、互いに補い合うような異なる運動スキルを習得することは、とりわけ有効であると考えられます。



では、実際には、どのような運動を行っていけばよいのでしょうか。




ベルンシュタインは、巧みさを向上させる動作は「何かを成し遂げる動作」としています。

対象を伴うことのない動作は持久力や筋力を高めるには良いかもしれないが、巧みさは得られないと述べています。身体の巧みさは、結果を導く外的な障害外乱を克服する動作によって向上するのです。


動作を行うときには、練習が進みスキルが向上してからも注意と意思の動作結果の質に集中させなければいけません。今、行っている動作が何のための動作であるかについて集中することにより、動作をどのように行えばよいかについて、自ずと解決が導かれるのです。


ここからは、先程あげた巧みさの条件から考えていきます。

①動作の正確性は、広い範囲の転移を示します。あるスキルの正確性が向上すると、他の様々なスキルも目に見えて向上します。このため、目の判断能力筋-関節による次元と距離の判断能力を練習により向上させる必要があります。

運動スキルにおいて、動作の正しさ(正確性)は、はじめの段階から発達させる必要があります。この時期は、スキルの運動構成を行う時期であり、最も適切な感覚調整が選ばれる時期でもあります。

②すばやさは、動作の適宜性と不可分の関係にあります。すばやさは時間をかけて練習する価値があり、それによりパフォーマンスがかなり向上するのです。経験を積めば積むほど、前もって感じる能力が高くなり、心理的な巧みさ(機転のすばやさ、決断力、反応の素早さ、など)にも繋がっていきます。


③動作の合理性は、動作自体と不可分の関係にあるため、そう簡単には転移しません。正しさと比較すると、合理性や適宜性はスキル発達の第二段階(動作の標準化と安定化の段階)で概ね完成し、磨きがかかるとされます。


④資源の利用性は、生まれつきの能力と考えられていましたが、経験を積んだ量と直接関連することから、異なる種類のスキルにおける経験、異なる外的環境における経験に影響されていると考えられます。多様で複雑な条件で意図的に動作を強いることが望ましいと考えられます。このような条件下で練習することにより、資源の利用性が向上すると考えられるのです。



今回で、ベルンシュタインのまとめは最後となります。

こんな運動をすれば、巧みさがすぐ身につくという単純なものではないですが、動作の目的を与えること、感覚調整も含めた多様で複雑な条件下で動作を行うことなど、指導のヒントは多くあったのではないでしょうか。



このシリーズでは、ベルンシュタインの伝えたかった内容と異なる点もあったかと思いますが、子供や選手の指導に役立てていて抱ければ幸いです。

運動は、学べば学ぶほど難解であり、奥が深いですね。やっぱり面白いです!!

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