見出し画像

変化する役割

相続関係の相談が増加している中で、これまでの傾向にはない相談がいくつかあった。

相続登記の義務化は令和6年4月1日に施行されたが、この義務化はそれ以前の相続にも適用される。令和6年3月31日以前に亡くなっていて、現在も登記がされていないケースも対象となり、登記を行う必要がある。期限は3年以内であり、令和6年3月31日以前に亡くなった方の相続登記は令和9年3月31日が期限となる。

義務化されたとしても3年間の猶予があるが、令和6年3月末までに相続登記をしなければならないと誤解している相談者が2人いた。2人とも手続きを急いでいる様子が目立ち、事情を尋ねると、「相続登記が義務化されたから」と答えた。1人ならともかく、2人も同じ誤解をしていると、自分が何かを見落としているのではないかと不安に感じた。

最初はこの誤解に驚いたが、自分も仕事でなければ情報を隈なく調べるわけではないため、相談者の立場に立って考えてみると、こうした誤解が生じるのも無理はないと感じた。相続登記の義務化の認知度はまだまだ低い。相続は一生に何度も経験するものではないため、広く周知されるには時間がかかるだろう。おそらく3年後も慌てて相談に来る人がいるだろうと予想している。

相続放棄に関しても、誤解をしている相談者がいた。この相談者も非常に焦っている様子だった。親族が亡くなってからまだ数日しか経っていないが、急いで相談したいとのことだった。

家庭裁判所で行う相続放棄には期限があり、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内とされている。つまり、死亡日から3か月以内というわけではない。また、死亡日を知った後でも、存在しないと思っていた負債が後から見つかった場合には、その負債が見つかったときから3か月以内に相続放棄をすることが可能である。

一方で、3か月以内であっても相続人が遺産に「手を付けてしまう」と相続放棄ができなくなる。相続放棄をするのであれば、故人(被相続人)の遺産を消費してはならないし、遺産で故人の未払金(医療費など)を清算したり、遺産で葬儀費を支払うことも避けるべきである。

もちろん、どのような遺産があるか分からなければ相続放棄するかどうかの判断はできないため、通帳を記帳したり、故人の自宅で遺品を調べることは構わない。ただ、今回の相談者は遺品に一切触れてはいけないと思い込んでいた。故人の自宅が賃貸で早く引き払わなければならないが、相続放棄のために遺品に手を付けられず、どうすれば良いかという相談であった。

こちらも最初は相談者の誤解に驚いたが、話を聞いていくうちに理解できる部分もあった。故人は独居であり、相続人は故人の生活に関わっていなかったため、故人との関わりが薄い場合、生前の様子を知らなければ「触れてはいけないのではないか」という意識を持つこともあるだろうと考えた。

ネットには情報が溢れているが、自分にとっての正解を見つけ出すのは難しい。AIは対話型であるが、こちらが適切な情報を提供しなければ、正解は返ってこない。テクノロジーが日々進化する中、専門家の役割も変わっていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?