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源氏物語の女君たち

瀬戸内寂聴さんの本『源氏物語の女君たち』日本放送協会(2008)から、著者の紫式部と登場人物の女性たちについて語っている内容のポイントを拾ってみたものに、若干の多少の情報を加えています。絵、及び、系図はWebに掲載されているもので参考になるものを貼付してあります。

源氏物語に登場する舘

内裏の構造

物語りの場面や女君たちの立場、相関関係を知るうえで、女君が内裏のどこにいたかは重要な鍵を握ります。以下は、上記の本のあとがき部分に付された図です。

内裏の図(瀬戸内寂聴『源氏物語の女君たち』の後書きから)

六条院

源氏が作った六条院の見取り図です。
右下(南東)が春の町で源氏と紫の上(及び明石姫君)が東対に、女三宮が降家した際は寝殿に住まいます。
その上(北東)は夏の町で花散里(と夕霧)の居所で後に玉鬘が西対に住みます。源氏没後は花散里が二条東院に移ってからは、夕霧の妻「落ち葉宮が移り住みます。
左下(南西)は秋の町で秋好中宮(六条御息所の娘、冷泉帝の中宮)の居所、
左上(北西)は北の町で明石の御方の住まい。質素な作りです。

風物博物館から

二条東院

源氏の母、桐壺の更衣の里邸であり、紫の上を育てたところ。六条院が作られる前は、末摘花、花散里も住まったところ。

吉備路残照△古代ロマンから
https://nakuyo-neuneu.com/keizu/genjimonogatari/

紫式部


973年ころ誕生、1014年ころ没。享年42-3歳
受領、藤原為時の娘。母は、藤原為信の娘。階級的には中の上。
為時は学者肌。世渡り下手。花山天皇に使えて式部丞、大丞。紫式部が20歳ころ、花山天皇の失脚と同時に感触を追われる。結婚が遅れた理由。
為時が受領として越前の武生に赴任。
紫式部、27-8歳で父親程の年齢の男と結婚。不器量?魅力がない?でも信孝が熱烈に求愛。器量はまあまあだった?為時が貧乏、生母は早く死に別れたのも晩婚の理由?女の子を1人産んだが3年で死別。
時の最高権力者、藤原道長にスカウトされる
道長の娘、中宮彰子(しょうし)の女房として宮仕え
天性の小説家
自己告白らしく見せかけて自己韜晦(じことうかい:自分の本心や学識、地位などを隠して知られないようにすること。 節操を知り、自分をひけらかさないこと。)
歌は、それほど心打たれることはない。でも、物語の中の人物の詠んだ歌は素晴らしい。
和泉式部は、歌はまあうまいが批評などできず淫乱と。
清少納言は、偉そうに漢文など口にするが対して勉強していないので間違いだらけ、行く末はつまらない運命になるだろうと。
女人成仏の悲願。

桐壺の更衣



http://kakitutei.web.fc2.com/monogatari/01kiritubo.html

後宮の女官。皇后、中宮、女御の下位にある更衣。(皇后、中宮は女御から選ばれる。)更衣が居た淑景舎(しげいしゃ)は内裏の東北の一番端。
清涼殿に向かう廊下に糞尿を撒かれるなど陰湿な苛めにあう。
ノイローゼから体をこわすが、帝の可愛さはかえって増すばかり。
源氏が3歳の時に病死。

藤壺の女御

桐壺の更衣に瓜二つ。先帝の忘れ形見。
飛香舎(藤壺)を与えられる。
光源氏の5歳年上。若くて美してかわいらしい。→輝く日の宮
藤壺は望んでいなかったが桐壺帝に懇願されて入内。
「うら若い女宮は、まだ蕾の花を桐壺帝というときの最高権力者に摘み取られた」
源氏との不倫の子を天皇にするために様々に画策する。相当な誇りをもった人物。

葵の上


親の左大臣が東宮からの所望を断り光源氏に嫁がせる。左大臣は桐壺帝との関係を重視した。
光源氏より4歳年上。光源氏が12歳で元服して結婚。
端麗で上品。プライドが高い。可愛い女になれない。
源氏との間には男子一人、夕霧をもうける。

紫の上


源氏が18歳の時に見つけた10歳の少女。幼女とよぶのがふさわしいような幼さ。あどけない少女。雀の子がにげちゃった!
藤壺の兄、兵部卿の宮の娘。藤壺の女御に似た顔つき。
源氏が二条院に連れ去る。若紫は兄気味と慕う。
葵上の死の直後、源氏が契りを結ぶ。→ショック!
三日夜の餅は食べたが所顕(お披露目)はせず。→のちに肩身の狭い思い。
女三の宮の降嫁は青天の霹靂だが、表面上はけろりと受け流す。「わたしなどがどうして姫宮をいやがったりできるものですか。あちらから私を見ざわりでないとお思いでしたら、安心してここにおいていただけるのですけど」と謙遜して返すが、心の中には嵐が吹き荒れている。
そんな紫の上に源氏はいっそう愛おしさを感じる。

六条御息所


葛飾北斎
上村松薗
https://blog.goo.ne.jp/kakitutei/e/f2f716b44cdaed6ea9e6dbd90326e751

源氏17歳。すでにプレーボーイのときに出会う。源氏より7歳年上。
前の東宮妃。一女あり。六条の里邸で優雅な暮らし。誇り高き寡婦。高貴で美しい(夕顔と寝た源氏の夢に現れた女性は、ぞっとするほど美しい)。若い貴公子たちが集まるサロン。
なぜ、源氏と?源氏が抜群の魅力を持っていたから。
源氏の激しい情熱に負けて深い悩みと苦しみを味わう。
物事を徹底的に一途に思い詰める気性。いい加減な妥協ができない。喜びよりも苦悩の多い恋。
理智的な反面、しつこい感じを負わせる。捨てられることに対する耐え難い屈辱感。
源氏との関係は5年間続く。娘が斎宮に。一緒に伊勢に下る。源氏は桐壺帝にも叱責を受ける。
賀茂の斎王の交代。葵上との車争い。強い屈辱。生霊として葵上を襲う。気づいて愕然とおののく。
激しい情念の輝きと、その美しさにこめられた嘆きの深さに私たちは打たれるのです
御息所の情念も懊悩(おうのう)も作者紫式部のものだったと思う。野々宮の潔斉所に斎宮と共にこもった御息所に源氏が逢いに行った一夜。最後の世を共にする。源氏の愛を受け入れずにはいられなかった御息所に悲しさ、切なさ。野々宮の別れは、五十四貼の名場面の中でもひとしお美しい絵のような場面。
御息所の情念は、死後も怨霊となって源氏の愛人たちに憑りつく。御息所の物の怪が紫式部に憑りつき筆を走らせているような錯覚を覚える。

夕顔


https://mimosa2nd.exblog.jp/dialog/images/viewer/?i=200912%2F13%2F23%2Fb0102723_15372579.jpg

男に一番人気の夕顔
頭の中将の愛人。娘一人(玉鬘)。正妻の脅迫が怖く身を隠す。
頭の中将は、素直だがあまりにも頼りない女の例としている。
素性を明かさない源氏にたいして抵抗も見せずに身を許すと、ひたすら源氏に全身を任せきりになり、頼り切って従う。
言いようもなく素直で、物柔らかにおっとりしていている。
稚じみた初々しさと無邪気さのうちに、性愛についても全く無垢ではない。
覆面を外した源氏の顔を見て「近くで見ると大したことないわ」とつぶやく。ただ無邪気でかわいらしいだけの女でなく、源氏が惹かれる。
円地文子は娼婦性があるという。
「女はただやはらかに」
男のするままに心も体も柔らかい飴のように自由になる女。男の心と体を限りなくリラックスさせてくれる女。男をひたぶるに信じ切り疑わない女。自己主張のない可愛い女。いつの時代にも男の夢に描く永遠の女性か。
源氏19歳の時。夕顔は2歳年上。年上の女の圧迫を感じさせない。
源氏曰く(右近への述懐)「女は頼りなさそうに見えるのがかわいい。しっかり者で気が強く、人の言うことを聞かない女は、どうも私は好きになれない。自分自身がはきはきせず頼りない性質だから、女はただやさしく素直で、うっかりすると男に騙されそうに見えるのが、さすがに慎み深く、夫の心に頼り切って従うというような女がかわいくて、そういう女を自分の思うように躾け直して暮らしたら、むつまじく過ごせると思う」→源氏は理智的な女より、ぼんやりしたようなふんわり可愛い女を最上の好みとした。
夕顔の死は性愛に惑溺した過労が招いた急性の心臓麻痺かも→命をしぼりつくして男の需(もと)める愛に惜しみなく答え尽くした夕顔は、世の男たちにとって、永遠の女性として愛されるのは当然かも。

空蝉


継娘軒歯端の荻と碁を打つ空蝉


http://isshikijuku.sakura.ne.jp/wp/takamura-blog/2015/genji-utsusemi-3/

源氏の家来筋の伊予の介の後妻。中流の上か中。
菜よ竹がしなやいでいながらなかなか折れないように、手折るのが難しかった女。源氏に魅せられて、身体は自由にされても心まで決してなびいたふうは見せまいと、かたくなに冷淡を装おう。
きゃしゃで頭も小さく、髪もあまり豊かでなく、瞼がはれぼったく、鼻筋もすっきりとおっていなくて、老けて見えて、艶やかさもない。どちらかと言えば不美人。しかし、その欠点を上手につくろうすべを知っていて、心惹かれる。雰囲気美人。男心をそそる情緒を具えている。

末摘花


http://genji.choice8989.info/main/suetsumuhana.html

故常陸宮の姫宮。上流の上。親が琴の名手で末摘花も名手らしい。
木偶のように素っ気なく、反応も鈍く、手ごたえがない。
髪が豊かで長く感触は上々。
むやみに顔が長く馬面で、鼻が異様に長く先が象の鼻のように垂れ下がり、先が紅をつけたように真っ赤。想像を絶した醜女。
自分の容貌に卑下せず自分をよく見せようともしない。素直なのが痛ましいかぎり。
天性の姫宮としての鷹揚さを具えている。犯しがたい誇り高さ。
誠実で融通がきかず、ひとりよがりで、自分の受けた教養の範囲で物事を判断し、それを正しいと信じ込む頑固さ。
愚直なまでの純粋さ。真の高貴の人のみがもつもの。
便りさえない源氏の真心を信じ切って、将来、きっと自分のことを思い出して訪ねてくるに違いないと待っている。
紫式部の中では、末摘花がただの道化の役だけでない、何か思い比重を持っていたのではないか。

朧月夜


岡田嘉夫作


http://genji.choice8989.info/main/hananoen.html

恋に充実な女・朧月夜。右大臣の娘、弘徽殿の女御の末の妹。東宮妃として入内予定だった。
源氏20歳の時に出会う。17-8歳くらいか。
源氏との密通がばれて東宮妃にはなれなくなるが、朱雀帝はそれでも典侍として宮中におき寵愛する。
弘徽殿の大后は自分の局を朧月夜に使わせる。大后の後ろ盾と本人の人柄から後宮で人気。帝の寵愛が益々つのる。
内心はずっと源氏を愛し続けて文通を続け危うい密会を重ねる。→右大臣に見つかり源氏は須磨行に。
最近は、女性でも朧月夜のファンが増えている。以前は、源氏物語の女たちの中で、大変官能的でふしだらな感じを与えてきていたが、最近、女性の地位が高くなり、自主的に自分から恋を追い求め、自分の性の欲求に正直に、恋愛に生きることを恥としなくなった傾向があるからか。私(寂聴)も朧月夜が大好き。
艶麗(えんれい)で華やかさの中にしっとりした魅力がある。
夕顔とは異なり、積極的に自分から行動し、故意に忠実になり情熱的に燃えようとする。夕顔よりみだらな感じがしないのは、受け身だけでないのとその愛に打算が伴わないからではないか。
屈託のない明るさは、生まれと育ちの良さを反映しているが、やはり天性のもの。自分から官能の喜びをもとめることに卑下しない鷹揚さは、むしろ現代の若い女性に通じるものを持っている。

明石の君



https://www.pinterest.jp/pin/549650329530035703/

故桐壺の更衣と父方の従兄妹関係の明石の入道の娘。娘を都の高貴な人に嫁がせたいとの思いで娘には教養を与える。
筆跡も歌も、都の姫君たちに遜色がない。誇り高く強情でやすやすとは靡かない。
源氏と別れる晩に弾いた琴が想像以上に上手で源氏の心に深くしみる。
源氏との間にできた娘は紫の上の養女とする。
紫の上がもっとも嫉妬したのが明石の君。嫉妬させるだけの源氏の愛を得る魅力と聡明さを具えていたからだろう。

玉鬘


夕顔と頭の中将の娘。夕顔の死後、乳母が引き取り育てる。夫が太宰の小弐となり一家で筑紫に移住。20歳まで過ごす。乳母の夫はそこで没し、息子や娘たちもその地で所帯を持つ。
成長するにつれて母譲りの美しさが匂うようになり求婚者が後を絶たなくなり、都に逃げ帰ることに。長谷寺で右近(もとは夕顔の付き人)に出会う。
六条院で花散里に預ける。
髭黒の右大将に不意にとられてしまう。正式に結婚、二男を設ける。後に髭黒の右大将は太政大臣にまで上り詰め、その北の方となる(シンデレラ物語)
玉鬘の巻は十帖に及ぶ長編。後宮の女房達に大うけしたのではないか。

花散里

『三分で読む源氏物語』から

故桐壺院の女御の一人麗景殿の女御の妹。源氏は、宮中でほんの時たま短い逢瀬。
無個性で魅力が乏しく印象が薄い。美人ではない。
しかし、紫の上に次ぐ大切な人と扱わっる。
性質が穏やかで優しい。裁縫などがうまい。ドメスティックなタイプ。
合うと心が安らぐが性的にはほとんど交渉はない。
源氏は、花散里を信頼し夕霧の母替わりとする。
玉鬘を迎える。

女三の宮



http://himahima1.cocolog-nifty.com/in/2012/01/post-328f.html

朱雀院が鍾愛、偏愛していた御子。生母は藤壺の尼宮の異母妹の更衣。源氏40歳の時に13-4歳。
源氏の北の方となる。六条院にては、春の町の寝殿に住まう。
源氏は女三の宮と結婚後は、義理程度にしか通わなくなる。
髪は絹糸をよりかけたように艶々と美しく長い。体の方はきゃしゃで小さい。髪の頬にかかっている横顔が、いいようもないほどみやびで愛らしい。
鷹揚でこの上なく可愛い。
柏木が密通し子を宿す。源氏にいびられやつれた柏木が病床から詠んだ歌に対して、「あなたの亡骸を焼く煙と一緒に私も消えてしまいたい。悲しいことを重い実らえれる煙りは二人のどっちの煙りが激しいか比べるために」と言う意味の歌を詠み「後れを取るものですか」と添えている。柏木に犯されてから一年の苦悩の月日が、女三の宮を突如として激しい女に成長させ変貌させた。

雲居の雁


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夕霧とともに葵上の母である大宮の下で育てられる。夕霧より2歳年上。結局は、夕霧と結ばれる。夕霧の愛人は、惟光の娘一人。雲居の雁と愛人との間に六男六女をもうけた。
おおらかで明るい女。家庭的。
育児に明け暮れて身づくろいやお化粧もないがしろにしがち。

落葉の宮


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柏木の未亡人。個性のないおとなしい人。自分の薄い結婚清潔に悩むところもない。夕霧は柏木から落葉の宮の面倒を見ることを遺言される。夕霧は落葉の宮に一目ぼれしてしまう。

宇治の大君


https://www.kyoto-up.org/archives/3470

薫22歳の時に24歳。自らよりは妹、中君のことを思ってやまない。

宇治の中君


中君と匂宮

薫22歳の時に22歳。
匂宮に嫁ぐ。薫は匂宮の留守に御簾の中に入り込むが腹帯に気が付き情欲を抑える。

浮舟


浮舟と匂宮

大君、中君とは異母姉妹。母は、浮舟をつれことして受領常陸介の妻になっている。薫とはちぎっている。
匂宮は、美しい女であることに驚く。闇夜に忍び込んで契ってしまう。
頭は薫に、身体は匂宮に惹かれてしまう。肉体と精神の乖離、相克。
だんだんと身も心も匂宮に移っていく。素直で優しい心が、薫への義理も心の底から捨てがたく思う。
入水自殺未遂の後に出家。

(以上)

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