楓さん作Life is Beautiful(a) 12月の街(追筆)
はじめに
楓さんが、膝とは離れて作成された"Life is Beautiful"。初老が近寄る二人の大人の恋愛物語を、美しい異国の地の中で描かれています。読まれる方、それぞれに、旅先で目にされた情景を思い起こされるようなお話でしょうし、また、甘酸っぱい経験がよみがえる方もいらっしゃるかもしれません。
楓さんがこの作品をお作りになられたのは8月。まだ、暑い夏の風が感じられる事項でしたので、12月の街をイメージして少し追筆させていただきました。おもにゃんのご希望を入れて、少しだけ恋愛を熱めのタッチにさせていただいています。また、楓さんにも見ていただき、修正を加えさせていただきました。ありがとうございました。楓さんの原作も是非ご一読ください。
2023年12月14日に、おもにゃんと読ませていただきました。この12月の街バージョンをお読みになりたい方は、ご一報いただければ幸いです。
原作:楓さん作「Life is Beautiful (a)」
楓さん作Life is Beautiful(a) 12月の街版(追筆:関成孝)
(年齢設定ありversion)
太字は、12月の街を思い浮かべて追筆を行った部分です。
(女性)
50歳を過ぎたら、後の人生を楽しもうと決めていた。今まで1人でがんばってきたから。
仕事と家(うち)の往復…。
若い時は友達と旅行に行ったりしていた。
付き合ってくれる友達もいた。
でも、みんな家庭が忙しくなり旅行に誘っても、「そんな時間も余裕もない」「独身はうらやましいわ」「子供のことで忙しくて、どこにも行けないから」と断られる事ばかり…
気がつくと、いつも1人が多くなってきた。
今の世の中、昔とは違って、お一人様が流行っているから、1人旅は行きやすい。
街を見てると、割と1人で食事をしている人や旅行をしている人が多い。
今までは国内旅行に行っていたけど思い切って海外に行こうと決めた。
60まであと数年。いつまで頑張れるかな?今のうちに、1人で海外に行けるように慣れておかなきゃ。
そうして、12月半ば前の少し静かな時期に休みを取って、私は1週間の海外旅行に出掛けた。
1人もなかなかいい。誰に気を使うこともなく、人のスケジュールに合わせることもない。行きたい所も自分で自由に決められる。
この自由が、きっと手放せなくなるのかも。面倒くさいことが苦手な年齢になったな。
(男性)
60歳を迎え、定年だがまだ会社にはいられる。
そうゆう良い時代がやってきた。
定年の記念にというか…
これまで仕事が忙しすぎてどこにも行ってない。自分に休暇をあげることにした。
今回は、サンクス・ギビング後の落ち着いた頃に休みを長く取り、海外旅行に行くことにした。
出張で海外はあるけれど、プライベートでは初めてだ。どこに行こうか?
仕事で訪れて、気に入った都市に行くことにした。
ノープランなのも、一人旅のいいところ。
まずは、ホテルで少し休んでそれから散歩に出かけるか。
クリスマスのイルミネーションが光る夜。街の灯(あかり)が美しい季節…石畳の路地から冷たい風が吹いている。
ここは日本人が割と少ない。
1人でぶらぶらしていると、日本人の女性を見かけた。珍しいな。
最近は、女性も1人で旅をするんだ。時代は変わったな。
カジュアルなレストランを見つけた。
今は生ガキがおいしいことだろう。メインはスズキの香草焼きにするか。これならもたれることはない。ハウスワインの白がほどよく酸味を効かせている。香りもぶつからない。隣のテーブルのキャロットケーキが目についた。クリスマスらしいアイシングをしている。久しぶりだし、ちょっともらうか。よい店を見つけたな。
気分よく食事を終えた。外の風に当たれば少し酔いが醒めるだろう。コートの襟を立ててショーウィンドーを眺めながら石畳を歩いて帰った。
ホテルの窓から見える景色は最高だった。
古い町並み、見ているだけで日常から離れ癒される。仕事の時には、この景色の美しさには気が付かなかった。日本に帰るのが嫌になってしまう。
(今日は)時差もあってか、ベッドの上に横になったら、いつの間にか眠ってしまった。
(女性)
次の日の朝。時差で早く目が覚めてしまうが、寒そうだし、ゆっくりとベッドにとどまった。そして朝食に。あぁ、やはり、こちらの食事は大きいな。フルーツとヨーグルトで軽く済ませた。少し陽(ひ)が高くなって、暖かかみがでてきた街並みを散歩する。クリスマス飾りのウィンドウがおしゃれ。クリスマスを一人で過ごすのも悪くないように思えるようになってきた。
この街は日本人が少ない。
ちょっとドキドキするけれど、でも日本人が少ないほうがいい。
ぶらぶら歩きながら、タイミングよく来たケーブルカーに飛び乗ってみた。
車内には日本人と思われる男性が1人座っていた。異国の地だからか、やはりつい目がいってしまうものだ。
男性の隣しか席が空いていなかったので隣に座ることにした。
男性:「こんにちは、ひとり旅ですか?」
女性:「はい、そうなんです。ひとり旅ですか?」
男性:「ええ。いつこちらへ?」
女性:「私は昨日到着して、今日初めて街を散策してます。そちらは?」
男性:「わたしも昨日です。昨日、散歩をされておられるところをお見かけしました。この土地は日本人が少ないので珍しいなと思ったのですが、あなただったのですね」
女性:「え、昨日見られてたんですね。(笑) なんだか海外で日本の方とお話しすると不思議な感じがしますね」
男性:「確かに(笑) あのぉ、お名前伺ってもいいですか?」
女性:「はい。〇〇です」(好きな名前で)
男性:「私は〇〇と申します」「〇〇さんは、今回の旅はどのような目的で?」
女性:「そうですね…旅をすると知らない自分でも見つけられるかもしれない…それも楽しいかなって?・・旅することの素晴らしさって、自分を深く知ることもできますよね」
男性:「そうですね。旅先で出会った人たちから学ぶことも多いですよね。よく、土地の人に、教えてもらうんです。見たらよいところ、おすすめのお店、レストラン。文化や歴史とかもですが。」
女性:「ええ。私も全く同じことを考えていました」(クスッと笑う)
男性:「あの、今日、もし、よろしければ、一緒にまわってみませんか?」
女性:「えっつ、ご一緒しても良いんですか?」
男性:「ええ、ご一緒できればもっと楽しく過ごせると思います。良い思い出が出来そうですから」
女性:「嬉しいです。では、是非!」
女性:
ーその日、私が旅先で出会ったのは、60歳の男性だった。最初はただ旅先での話し相手として話をしていたが、数日過ごすうちに互いに惹かれ合っていった。そのうち、ファーストネームで呼び合うようになったー
男性:
私達は旅行中、お互いの趣味や思い出を話した。年齢がさほど離れていないので、共通点が多かった。話していて居心地が良かった。
女性:「〇〇さん、スイーツにも目がないのですね。ワインもお詳しいけど、学ばれたのですか?ソムリエみたいです(笑)?」
男性:「いや、ただ好きで飲んでいて覚えただけですよ」
女性
〇〇さんは、旅先のことにも詳しく、任せていたら毎日色んなところへ連れて行ってくれた。
女性:「土地のことも、歴史にもお詳しいのですね」
男性:「世界史が好きだったので。世界史検定っていうのを持ってます。」
女性:「あら、そうなのですか。すばらしいですわ!」
男性
私達は話が合った。興味のあることが似ていて、食の好みも…一緒だった。話が途切れても心が通じているのを感じた。
女性
わからないことを沢山教えてくれる。聞いていて楽しい。いや、いっしょにいるだけで楽しい。
男性
ワインのグラスを何杯あけただろうか。久しぶりにいっぱい笑った。
日本に帰国する前日。夜の湖畔でくつろいでいたとき、ふと、私は彼女に向き直った。目と目が合った。が、彼女はすぐに目を伏せた。
男性:「本当に素敵な旅でした。ありがとうございました」
女性:「こちらこそ、私も楽しかったです。ありがとうございました」
男性
旅先での恋愛は、ストレートで面倒なことが省かれる。相手の気持ちを確認したり、探りを入れる必要もない。フィーリングが合えば一緒にいればいい
合わなければそれまでだ。
女性
会話や、空間、時間を楽しめればいい。心地よさ、それが大事。
男性:「本当に、〇〇さんありがとうございました。あなたに出会えたことで、とても思い出が深い旅ができました。どうぞ、お気をつけてお帰り下さい。お元気で」
女性:「ええ、私も今回の旅で、〇〇さんに出会えたことが、私にとってのプレゼントかなって思います。どうぞ、お体に気をつけて…」
男性
明るい挨拶だった。イルミネーションが柔らかく彼女を照らす。ほんのり赤くなっているようだ。なんとなく別れのハグを交わした。初めて体温を感じた。離れがたくなった。ほのかに香る髪に唇を近づけた。
女性
吐息を感じる。鼓動が早まった。彼の体温が私を包みこんできた。
このままでいたい。
しかし、私たちはオトナのさよならをした。
離れなければ、そのまま流されてしまいそうだった。
そうすれば、この先の人生は違う景色が見えるだろう。
でも、一瞬の思いに身を任せられるほど若くはない。
自分を変える勇気もない。
男性
ふたりは、背を向けてそれぞれの場所へ歩きだした。振り向いてはいけない。
「サンタクロースが街にやってくる」が聴こえてきた。俺のところにもサンタクロースは来てくれるだろうか。
そうだ、出会う運命の人ならば、またいつかどこかで出会うだろう…。きっと。
(f i n)
クラブハウスでのリプレイ
2023年8月24日
原作に若干の加筆をさせていただき、鈴木順子さん、関成孝で朗読。
2023年12月14日 十二月の街バージョンをおもにゃん、しげたかコンビで。
2023年12月27日 鈴蘭さんによる朗読
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?