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草見沢繁の1000字小説

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1000字前後の文字数でお話を書きます。
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記事一覧

最果てサイバネティクス

流行ってるサイボーグ。 耳には音楽、網膜には映像。だけじゃなくラジオも本もぜんぶハックして指先でオンオフ。イヤフォンにディスプレイ。デバイスを埋め込んだ身体に直接流れ込む情報の洪水。濁流。足をとられて身動きができなくなるのは、漠然と、なんかイヤだ。流行ってるけど。 バスタブに流れ込む瀑布。どどど、とお湯はとめどない。 情報は清濁合わせていつだってわたしを浸して、全身の感覚器官から染み込んでいく。無意識のうちに、わたしの血流になる。知らないうちに、流行っていることになる。

月が綺麗ですね

異星人の攻撃で月が破壊されることが分かった。 開き直って騒ぎ立てるニュース番組、インターネットを駆け巡る科学的見地からの推論、右往左往する陰謀論。情報は弾けて世界中に霧散した。一言でまとめると、俺が生まれて十四年間で一番の混沌が世界に広がった。 二学期が始まって間もないうちの臨時休校、追って沙汰があるまで、みたいに先生は言うけど、ないよね。母さんも父さんも泣いてるし。こわ。 生まれて初めての完璧な非日常。やっばー、だけが本気の感想。不謹慎とかピンと来ない俺らのグループライン

外村さんのプレイリスト

帰り道で、同じクラスの外村さんを見かけた。 夏休み前の放課後、私は部活の片付けで少し帰りが遅くなっていつもと違う下校時間。赤い夕焼け空の下。外村さんは田舎道の交差点で信号が青に変わるのを待っていた。 マスクを顎まで引き下げて露わになった端正な横顔。切れ長のクールな目もと。後ろで結んだ髪は校則ギリギリの長さ。私は少し離れた位置から見つめる。 外村さんは謎めいた美人だ。いつも「危うさ」のようなものを醸している。私と同じ学年とは思えない、大人びた雰囲気。なんていうか、ミステリアス。