信州はOSSを武器にどのように戦うべきか

 2015年4月に、信州オープンビジネスアライアンス(略してSOBA)の設立記念特別講演会にうかがいました。そのときに基調講演の席に立たれていたのが、吉政創成株式会社 代表取締役の吉政 忠志氏でした。一般社団法人PHP技術者認定機構の代表理事やRails技術者認定試験運営委員会の委員長も努めていらっしゃり、OSSに造詣の深いビジネスコンサルタントです。

 そんな吉政氏の基調講演のタイトルはずばり、「事業コンサルが語るOSSと収益の関係 成功するビジネスとは」でした。OSSを活用する一般的なメリットはもちろんですが、信州という地域でビジネスを成功させるための具体的な方策まで含めた、示唆に富んだ講演でした。

そもそもOSSビジネスのメリットとは

 根本的なことですが、これは重要なポイントです。吉政氏は講演の序盤できちんとメリットを整理してくれました。

OSSはライセンスコストが不要
 これは誰でも思いつく部分でしょう。ただ、「OSSって結局高くつくよね」という声も聞いたことがありませんか? 吉政氏は「OSSへの理解が浅いと、結局色々なことに手間がかかり、時間やコストを浪費してしまう。きちんと知って使えば、適正なコストでビジネスができる」と語っています。

OSSは先行している企業に追いつきやすい
 OSSではソースが公開されているので、そこに独自のノウハウを追加することで新しいソリューションを作り出せます。しかも、OSSで公開されている技術には先行しているエンジニアや企業のノウハウが詰まっているので、共通部分に最初から高機能なものを組み込めます。

技術力の面でも先行企業に追いつきやすい
 特定のベンダによる技術の場合、エンジニアのトレーニングもそのベンダに頼らざるを得ません。一方OSSは独学でも学べます。「とはいえ、専門家のトレーニングの方が効率的に技術が身につくのは確かです。そこで効率的に学びたい部分だけに外部のトレーニングを活用し、応用部分はOJTなど独学で身につけるなど、学び方にも自由度があるのがOSSのいいところです」と吉政氏。しかも、これは先の話とつながるのですが、OSSには先輩たちのノウハウが詰まっています。それらを活用しつつ読み解いていくことで、自社エンジニアの技術力も短時間で先行企業に追いつけるのです。

信州はどんな武器を持ちどんな市場で戦うべきか

 では、SOBA率いる信州のIT企業は、OSSの力をどのように活かしてビジネスにつなげていけばいいのでしょうか。SOBAはITの地産地消を掲げ、信州のITは信州で作れるようになろうという目標を掲げています。吉政氏はその方針に賛同しながらも、そのさらに先に東京市場への進出を見据えるべきと語ります。いわゆるニアショア開発の市場です。

 かつてはやったオフショア開発は、発注企業と受託企業との間に大きな距離や言語、文化の違いなどが横たわり、易しい物ではありませんでした。それに対して、東京などの関東圏から地方へ発注するニアショアであれば、言語や文化の問題はクリアされます。「しかも信州の場合は東京から近いという利点がある」と吉政氏は語り、東京発注のニアショア市場において信州には強みがあると言います。

 とはいえ、ニアショア市場で成功することだって、そう簡単ではありません。吉政氏はその理由を次のように述べました。

「ニアショア開発市場のほとんどは、東京の企業の下請けや孫請けです。下請けではエンジニアやプロジェクトマネージャや経験を積めないし、そもそも発注企業との直接のパイプができないので、市場における自社の認知度を高めるのは困難です」

 つまり、発注企業から直接受注できるようになるべきだというのが吉政氏の考えですが、そのためには大きなハードルがあります。吉政氏はその中でも「最大のハードルは、地方の企業が東京で名前を知られていないこと」だと言います。ニアショア市場で成功するためには、名前を知ってもらうこと、何かあったときにすぐに対応できる技術力があることを、東京の企業に知ってもらう必要があるのです。

ニアショア市場で戦うために行なうべきふたつの取り組み

 東京の企業から直接受注できるようになれば、ニアショア開発市場で成功できると吉政氏は言いました。そして、そのために必要な取り組みをふたつに絞って説明してくれました。

 ひとつは、東京にオフィスを持ち、ブリッジSEを常駐させること。これは地方の一企業が取り組むにはハードルの高いことですが、幸いSOBAという支援団体が生まれたことですし、その力を借りて信州のIT企業が東京に進出する足がかりとなるオフィスを持つといいだろうと吉政氏は提案しました。そうなれば、東京や近郊の企業と同様の対応ができるようになり、なおかつ信州のコストで東京の案件を受注できるようになるので、競争力は高まるでしょう。

 もうひとつは、開発企業としての実力を知ってもらうための情報発信を行なうこと。たとえばWebサイトに技術者の数や認定試験取得者の数、開発事例や実績を掲載します。「事例や実績は定期的に発表することが重要です。1ヵ月に1度程度発信を続けることで、企業が動いていることが伝わる」とのこと。導入事例の掲載は顧客の協力を得なければならないので容易ではありませんが、その分、いい仕事をし、顧客の信頼を得ている証にもなります。

 「自社Webサイトだけでなく、ニュースに取り上げてもらいメディアに掲載されることも重要」だと吉政氏は続けました。これは自社のWebサイトに掲載するのとは段違いのハードルですが、「社名を検索してニュース記事がヒットすれば、その企業への信頼感は大きく変わる」ということで、取り組む意義は大きいでしょう。しかし筆者もライターなのでわかりますが、ニュースリリースは毎日膨大な数寄せられてきます。その中からピックアップして掲載してもらうのは本当に至難の業、というか偶然の産物に近い話です。吉政氏もその現状hじゃ理解しており「最初は掲載されないでしょう。それでも定期的に、最低1年間はニュースリリースを出し続けましょう。今は地方創世で地方ネタに注目が集まっているとき。この時期を逃さず取り組み始めるべきです」と聴衆に語りかけました。

 吉政氏は自社Webサイトとニュース記事掲載で大きく躍進した企業の例なども挙げ、「知名度を上げ、直接発注してもらえる立場になることが重要」と繰り返しました。

 そのほかにも、ITソリューション販売で成功する方法の具体例など、面白い話が多く飛び出した吉政氏の基調講演でした。

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