信州に新しい「SOBA」が誕生! OSSを使い地域のITビジネス活性化を目指す

 2013年に長野県塩尻市主導で「信州OSS推進協議会」がスタートしました。システム開発にOSSを使うというだけではなく、地元エンジニアの力を活かすためのこの取り組みは軌道に乗り、自治体主導から民間の手へと移されることとなりましたた。こうして誕生したのが、一般社団法人信州オープンビジネスアライアンス、略称「SOBA」です。

 2015年4月に塩尻市で行なわれた設立記念特別講演会を取材する機会を得たので、塩尻市における地元エンジニア活用の取り組みについて、SOBA代表である鈴木氏の講演を借りて紹介したいと思います。

母体となった信州OSS推進協議会とは

 長野県はセイコーエプソンのお膝元であり、古くから時計など精密機器の製造が盛んな土地です。メカニカルコンポーネントからITへと時代は移り変わりましたが、ものづくりに携わる中小企業が多いのは今も変わりません。これらの力をもっと活かせないかと塩尻市が取り組んだのが、信州OSS推進協議会でした。会長であり、一般財団法人塩尻市振興公社の理事長も務める高木 仁樹氏は、冒頭の挨拶で信州OSS推進協議会に託した思いを次のように語りましたた。

「ICTを重要な産業分野と位置づけており、雇用の創出、就労機会の構築等多くの効果をもたらすと考えています。できる限りの支援をしていくつもりです」

 この、信州OSS推進協議会のビジネス部会から派生して誕生したのが、SOBAです。その経緯については、信州OSS推進協議会の副会長であり塩尻インキュベーションプラザ所長でもある池田 弘通氏が説明してくれました。

「2013年9月に約60団体の参加を得て設立されたのが、信州OSS推進協議会。目指したのは、ソフトウェアの地産地消でした。ミッションとして掲げられたのは、スピーディで柔軟性のある開発手法の獲得、新たなビジネスの創出、イノベーション創発の牽引という3つのミッションが掲げられました」

 こうした目的の実現に向けて、信州OSS推進協議会にはビジネス部会、オープンデータ活用部会、CMS活用部会の3つの専門部会が設けられました。それぞれの部会で勉強会や国内各地の類似団体との交流を深めながら、個々の企業や個人では対応困難な新製品、ソリューション開発や共同受注の仕組み作りによる新たなビジネス創出活動を行なってきたそうです。

 地域に根ざしたIT企業は小回りが利く反面、広い範囲に向けた営業活動や、大規模開発における信頼度という点に置いては大企業に分があります。そこでこうした地場IT企業のアライアンスを作り、協力しあうことで開発力や人員規模という弱点をカバー、地元の中小IT企業の力を結集、協業してシステムの地産地消を目指しました。信州OSS推進協議会が営業活動を引き受ければ、これまでよりも広いエリアに向けて大規模な開発案件も提案できるようになります。こうした共同受注の仕組み作りとその運営を受け継ぐ形で設立されたのが、新法人SOBAという訳です。

1年半の活動で見えた課題と、次のステージへ進むための方策

 なぜSOBAは、自治体主導の信州OSS推進協議会から独立し、法人化しなければならなかったのでしょうか。SOBA代表理事である鈴木 純二氏はその理由について語る前に、1年半にわたる信州OSS推進協議会の活動を通じてわかったことが4つあったと述べました。

 1つは、会員同士のアライアンスの場の不足。地域で協力しあえるパートナーシップのために、会員同士の結びつきを強める場が必要だと言います。2つめは、独自ソリューションの必要性。パッケージ化された独自ソリューションを持つことができれば、継続的な営業コミュニケーションも行ないやすくなります。3つめは悪い面ばかりではありませんが、塩尻市振興公社のブランドが前面に出ていること。自治体へのアピール力という点ではプラス要素にもなりますが、塩尻から離れた場所での商談においては地産地消という目的を理解しにくくします。そして最後が、技術者の不足。塩尻市やその周辺に限らず、信州を中心により広く会員企業、エンジニアを求め、それぞれに交流を深めることで開発力を高め合ってもらわなければなりません。

「これらの課題を解決するためには塩尻市依存から巣立ち、あくまでもビジネス主導で、会員企業のビジネス活性化に最優先で取り組んでいくべきだと私たちは考えました。そのための新しい組織が信州オープンビジネスアライアンス、SOBAです」

 ではSOBAはこれらの課題をどのようにして解決していこうとしているのでしょうか。その事業目的は、会員のビジネスを活性化する為の「サービス提供」と謳われています。技術者を育成する教育事業と、技術者同士の結びつきを強めるアライアンスの場の運営。こうして培った開発力を活かしたOSSベースの受託開発事業、地域に根ざしたソリューション企画開発事業。そして、これらをビジネスにつなげていく協業型営業活動です。

営業形態や開発形態に柔軟性を持たせ会員企業のビジネスを活性化

 営業活動の形態も、より柔軟にしていきたいと鈴木氏は言います。その違いをわかりやすくするため、鈴木氏はまず信州OSS推進協議会における受注と開発の流れを紹介しました。

 信州OSS推進協議会では図1のように塩尻市振興公社が窓口となり、顧客に営業活動を行ない、受注後は案件ごとにチームを構成して開発を行なう協業スキームを作り上げてきました。ユニークなのは、開発チームは最低でも2つの企業と1人の個人を含むというルールを設けている点です。塩尻市には在宅で業務にあたる個人ワーカーを結ぶクラウドソーシングの仕組みがあり、個人エンジニアや、育児中で働きに出られない主婦の力を活かすプラットフォームとなっています。これを活かして、企業と個人を混在させたチームを構成して開発に当たる仕組みを作っていました。

 しかしこれでは、営業活動の主体は塩尻市振興公社のみ。顧客からは、塩尻市に事業を発注しているかのようにも見えてしまいます。そこで今後はSOBAが営業を支援することになるのですが、その形態はひとつではありません。

 従来信州OSS推進協議会が担ってきたように、フロント営業としてSOBAが活動することはもちろんあります。それが図2に示した、SOBAが受注する場合の営業形態です。しかしこれだけでは、会員同士のアライアンスを今以上に活かしていくことはできません。

 そこで考えられたのが図3に示すような、SOBAがコーディネートのみを行なう受注形態です。会員企業が既に顧客と接点を持っている場合などが想定されています。自社のみで受注できない規模の案件を打診された際などにSOBAが間に入り、会員企業間で開発負担を調整してビジネスとして結実させていきます。

 さらに独自ソリューション開発を視野に入れているため、図4のようなソリューション企画の開発、営業スキームも考えられています。これらを柔軟に使い分けることで、SOBA会員企業のビジネスを活性化させていきたいと、鈴木氏らは考えています。

 その後は初年度の活動目標などが広く語られ、「信州のシステムは信州で作れるようにしよう」というスローガンで、鈴木氏の会見は締めくくられました。蕎麦の地である長野に、ITのSOBAが芽吹き根付くかどうか。これからの活動に注目していきたいと思います。

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