イノベーションを起こし続ける企業

「御社の新規事業はなぜ失敗するのか?」田所雅之著 光文社新書

において述べられているイノベーションを企業文化とするための組織づくりについて要約・考察する。

1階建組織と3階建組織

1階建組織

従来の組織は各事業ごとに縦割りされていることが多く、各事業ごとに利益責任を負うこととなる。そのため、短期的なP/Lの成果を意識した事業活動となりがちである。そこには、先を見据えたいつ利益があがるかもわからず、スケールするにも相当の時間を要する新規事業を許容する土壌は育たない。
筆者はこれを1階建組織と名付けている。

故クリステンセン氏による「イノベーションのジレンマ」において述べられている、既存技術や機能を改善する持続的イノベーションに捉われている間に、既存の市場の概念を覆すような非連続的な破壊的イノベーション(例えばホテルに対するAirbnb)に対応できずに淘汰されてしまうことも1階建組織がもたらす弊害である。

3階建組織

新規事業やイノベーションを引き起こす動的な組織とするためには、3階建組織の構築が必要である。

1階:コアビジネス
PPM(プロダクトポートフォリオマネジメント)でいえば、金のなる木であり、いかにして負け犬にならないようにするかが重要である。また、すでに事業化はしているため、10→100にすることが求められるのもこの階である。市場に対するアプローチとしては、PPMF(プロダクトパストマーケットフィット)をとり、すでに過去の市場を持続的イノベーションにより維持することで組織の土台として上の2、3階を支えていくことが期待される。

2階:新規事業
1→10へと拡大し、PPMでいえば問題児を花形にすることで事業化させることが求められる。市場へのアプローチとしては、PCMF(プロダクトカレントマーケットフィット)をとり、いま現在の市場にいかにして自社プロダクトを適応させていくかが重要である。

3階:イノベーション
シーズ段階からPPMでいえば問題児となるまでの段階にあたる。何もないところから事業の種を生み出す0→1が求められる。市場へのアプローチとしては、PFMF(プロダクトフューチャーマーケットフィット)をとり、未来の市場を想定し、自社のプロダクトを構築していくことが求められる。イノベーションを創発の成否においては、「Want(内発的動機)」が非常に重要である。Wantの気づきを得るヒントとしては、まず自分自身がそのプロダクトに対して感じるUX(ユーザーエクスペリエンス、使いやすさ)やペイン(不便さや不満などの”不〇”)を起点として考えることで見えてくることが多い。

自社をディスラプトする覚悟はあるか

3階建組織とすることで、1階建組織の問題であった短期思考は改善される。実際に機能させるには、評価・報酬システムを階別に設定することが必要である。既存事業のP/Lの量的な成果を評価するシステムのままであれば、イノベーションを起こしやすい組織に変わったとしても、そこで動く人の考え方や行動への変化は簡単には起きない。

また、現在のトップマネジメント層は、3階建組織でいえば1階部分のコアビジネスで成果を上げてきたことで、出世をしてきた人たちであることが多い。それゆえに、頭では必要性がわかっていても、コアビジネスに負の影響を及ぼしうる新規事業に取り組むことができず、市場に颯爽と現れる新規参入企業に非連続な破壊的なイノベーションを引き起こされて、気づいたときにはもう手遅れとなっていることが様々な市場で度々引き起こされているのだろう。

以上を踏まえて、企業のトップマネジメント層には、自社の新規事業がコアビジネスとのカニバリゼーションを引き起こし、最終的には破壊してしまう可能性があることを覚悟する必要がある。いかにボトムアップでイノベーションを引き起こす活動をしていても、トップの思考が変わらなければ組織は変わらない。トップ自身が自分の成功体験を否定できるかが、イノベーションの鍵を握ると言っても過言ではないだろう。