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#10 クリア報酬のないクエストZ

「(病気に)なったことのない人には分からん」
「がんばってる。痛いけど、いっしょうけんめい、トイレとかも行ってるけど、それで精いっぱい」
「(痛いのに)動け動け言われても、どうにもできん」
「(面倒をみてもらって)感謝はしてる。けど、私の(つらい)気持ちも聞いてほしい、わかってほしい」
とうとう爆発した。
義母が堪り兼ねて、私に放った言葉だった。

事の発端は、夫に義母のワクチン接種に連れて行ってもらった時のこと。
この日、もちろん接種予定の病院には車で向かったのだが、病院に着いて、どうにも足の調子がイマイチなので、病院に車椅子があるかを息子に確認してほしいと訴えても、病院に聞いてくれない。病院で医師に病室まで来るよう言われたら、面倒くさいと言わんばかりに、母曰く「腹かいたごたした(怒ったような感じの)」態度で機嫌が悪そうにする。そもそも病院に行く前から、足の調子が悪く動きにくかったことを息子に伝えきれない、伝えたら息子の機嫌が悪くなると思って言えなかった・・・そんな最中、なんとかワクチン接種も済んで、家の駐車場で車を降りるとき、足の動きが悪い義母は、いつもなら少し体を反転させるところをそれが出来なかったので、後ろ手で降車したドアを閉めようとして、バランスを崩してしまい、車にぶつかりつつの転倒。
幸い、車にぶつかることでワンクッションとなり、直接アスファルトに足や腰を打ち付けたわけではなかったので、翌日確認しても青染み一つなかったので、大事には至らなかったのだけれど、この一件が、母子関係の溝を一層深くした。
息子は、乗り降りの介助をしないのに、余計な動きをして!と思い、義母は息子の機嫌が悪くなるのがイヤで、自分の調子をちゃんと伝えずに、出来ないだろうと思われる動きをしてしまった。
この見事なまでの行き違いで、いよいよ、夫は義母の面倒を見ることに限界を感じたようで、義母は義母で積み重ねの鬱憤を冒頭のように私に言い放ってきた・・・ということだった。

実はその前日、義母はポロリと私にこんなことを言っていた。
『(息子が付き添いだと)いじわるされんか、心配』
イジワルって・・・と内心で思いはしたものの、この言葉を私は静かにスルーしていた。
というのも、夫はとにかく義母の面倒をみることに嫌気が差しているだけではなく、元々そういう性質なのか、とにかく他人に対して、他者目線で物事を観るということが出来ない。
一人っ子な上に、高校の頃から下宿していて実家を離れ、以降、独り身で生活してきているせいか、最小限のコミュティーサークルにおける行動能力が欠けていると言っても過言ではないと思う。
そして輪をかけて、義母の物の言い方が、訛りの強い方言で、これまたローカルコミュニティーでのみ生活していた人特有の上から口調なもので、こんな親子の遣り取りが、まあ上手くいくはずもないのだけれど、とにかく、夫は、例えば、ゆっくりしか歩けない義母の前をスタスタと歩き去って行って、振り返りもしない・・・という人で、義母もそれを分かっているので、息子が付き添っても、義母の思う「付き添い」にはならない=「いじわる」される、に繋がるようだった。
夫も夫だとは思う。実母に対して色々と思うことはあるだろうが、今の実母は、自分が子供のころガミガミと口やかましくアレコレ言い募ってきた時とは違う、病に冒され、心身共に弱り切っているただのご老体なのだから、人としての思い遣りを少しは出せばいいのだけれど、実母を前にすると、どうしても優しく出来ないらしい。
義母は義母で、そんな息子のことを「あの子はむずかしい」と、自分のこれまでの有り様は高い棚の上に上げて、確認することもなく、息子の行動原理を息子の性格のせいだと決めつけている。
さすがに、この事についてだけは、基本、口を出さないようにしていたさしもの私も、つい、言葉を発してしまっていた。

「そのこと(息子に対するアレコレ)を私に言われても困ります」

これ以外に、もっとディープな遣り取りもあったのだけれど、書き留めるには私の中でもまだ整理し切れていないものがあるので、また別の機会に書き留めようと思う。
ただ、この時、本当に噛んで含めるように、我が家の状況の説明と息子の言動フォローはしたものの、義母はやはり、途中からまた、「他人事」のような眼の色になって、こちらの言葉を遮断するような雰囲気を見せていた。
本人にその意識はないのだろうけれど、自分にとっては不都合な言葉、理解不能な言葉は、遮断してしまう、高齢者にありがちなその態度は、分かってはいても、受けるこちらのダメージは結構深い。
暖簾に腕押し、糠に釘。
私の介護介助クエストは、こうして、日々、追加ばかりで、一向にクリアできないでいる。

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