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新型コロナウイルスとT細胞

 今日はコロナウイルスに対する免疫の少しいい話。抗体は下がっても、新型コロナウイルスをやっつけるT細胞はしっかり反応しているよという内容です。2つの論文を紹介します。少し専門的な内容ですので難しいところがあってもご容赦を。

 メディアではウイルス中和抗体ばかりが取り上げられますが、免疫はそれだけではありません。テレビなどで解説する専門家が「抗体が減るから免疫が低下する」という言い方をすることがあります。必ずしも間違ってはいないのですが、不十分な説明で誤解を生じる可能性があります。

 ウイルスなど病原体には、ヒトの免疫に敵だと認識させる目印となる場所がいくつかあります。それぞれをエピトープと言います。免疫系は通常多数のエピトープを認識できるので、多少の変異があっても、免疫反応がゼロになる確率は極めて低いです。

 エピトープは認識する細胞によっても異なります。抗体はB細胞によって作られますが、抗体が認識する(くっついてブロックする)場所をB細胞エピトープと言います。これに対し、T細胞が認識する部分をT細胞エピトープといいます。T細胞は抗体を作る助けをしたり、ウイルスに感染した細胞を破壊したりして、感染を抑制します。

まずは、こちらの論文です

 この論文では、オミクロン株をT細胞が攻撃する際に、敵と認識する場所(エピトープ)が変異によってどう変化しているかを調べた論文です。主にスパイクタンパク内の224個(たくさんあるんですよ!)のCD8陽性T細胞エピトープと、167個のCD4陽性T細胞エピトープについてチェックしています。

その結果
① CD8陽性T細胞エピトープの86%、CD4陽性T細胞エピトープの72%が、オミクロン株の変異によって変化していないこと、
② 変異を含むエピトープであっても、T細胞による認識を必ず回避できるわけではないこと
③ スパイクタンパク以外のタンパクでは、CD8陽性T細胞エピトープの98%、CD4陽性T細胞エピトープの95%で変異は認められなかったこと
がわかりました。

2つ目の論文です

 こちらではコロナ感染,ワクチン接種,ワクチンブースター接種を受けた人のT細胞応答について検討しています。

その結果
① オミクロン株に対するT細胞応答がほとんどの感染者およびワクチン接種者で維持されていたこと
② スパイクタンパクに対するT細胞の反応が50%以上低下している人がが約21%いること
③反応の低下はデルタ株の場合より多いこと
④ 認識の低下は主にCD8+T細胞で観察されたこと
⑤ ブースター接種はスパイクに対するT細胞応答を増強したこと
がわかりました。

 一部の人でT細胞の反応性が低下することは気になりますが、「人の免疫ってすごい!」と素直に思えるデータですね。ワクチンの効果も頼もしいです。ただ、4回目の接種の効果はいまひとつというデータが出始めていますので、3回目まではいいとしても、短期間にワクチンを繰り返すことはあまり効果的ではない可能性があります。適切な接種間隔の設定(1年に一回程度かな?)、次世代ワクチンの開発が急務です。

(タイトル画像の引用元はこちらです。アップしてから気付きましたが、左のMHC IはMHC IIですね。https://doi.org/10.1155/2017/2680160)

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