駐車場トラブルとマンションにとってのルールの話
↑この翌週のお話です
先週起こった、花井のラーメン屋号泣事件について、有田から桐生に報告した。
「俺が休みの間にそんなことがあったんだ、有田対応ありがとなー」
「そうなんです!有田さんのおかげでなんとかなったので大丈夫です!本当ありがとうございます、ご迷惑お掛けして本当に申し訳ありません!」
「まあ、誰でも通る道だから、ちゃんと次に生かせばいいんだよ、結果なんとかなったし。課長にはお礼言っておいてね」
「まあたしかに駐車場問題って厄介だよなー」
「…でもわたしからしたら立派なみなさんもミスしてた時代があったって知ってちょっとほっとしました!ちなみに、桐生さんが経験した大変だった駐車場問題って何ですか?」
「俺は、ちょっと毛色が違うんだけどアレだな…あのリース会社のやつ」
「ああ、あれですか、僕が桐生さんに生意気言ったときのやつですよね」
ー数年前ー
とある日の朝、桐生は有田からの電話で目を覚ました。
「桐生さん、大変です、マンションの駐車場に車が止まってます!」
そこは、有田に引き継ぐ予定のとあるマンションだった。
「ん?駐車場?あ、契約日前なのに止めちゃってるやつ?まあ確認取れれば空いてるし前倒しで契約してもいいけど」
「違いますよ!不審な車が止まってるんです!!!桐生さん家近くですよね、来てください!」
???
現場に向かった桐生が目にしたのは、
現場に立ち尽くす有田と、
綺麗に並べられた駐車場の白いラインを無視してはみ出して斜めに駐められている、ボロボロの白い車であった。
「うーん…タイヤも凹んでるし、ところどころ傷だらけだな…とりあえず警察呼ぶか、有田連絡頼む」
「了解っす、お住まいの人の話では、昨日の夜23時くらいまではなかったみたいですね」
「…中で誰か死んでたりして」
「え」
絶句する有田の横で桐生はなんの気なく車のドアを開けた。
ガチャ
「あ、開いたわ」
※よい子のみんなはマネしちゃダメ!
…目を見開く有田の横で中を確認する桐生。
「まあ、さすがに鍵は刺さってないよな…あっ、見ろよ有田、これ」
「…?バナナがありますね」
「猿でも乗ってたのか?」
その後、警察を呼び、違法駐車の手続きをしてもらった。
「この後どうしたらいいんですか?」
「まあ、、多分誰も取りに来ないだろうから、陸運局に行って持ち主探しするしかないな」
マンション内に不当に停められてしまった車があっても、勝手にレッカーで移動することは出来ない。
自力救済の禁止に当たるとされるからである。
(詳しくはググってください)
そのため、有田は陸運局に手続きし、書類(私有地放置車両関係〜とかいうやつ)を作成し、写真を添付して所有者を特定することとなった。
その後、その車はリース車両であることが判明し、リース会社に連絡した結果、レッカー車で撤去されることになったのである。
問題は、その日にち。リース会社の撤去予定の1週間から駐車場を契約している人がいたのである。有田はその方に連絡を取っていたのだ。
「該当のお客様に事情を伝えたんですけど、自分は絶対に譲りたくないなんとかしろ俺はいやだ他のやつが退ければいいって言われて聞かなくて、、」
「ああ、中元さんか契約したの」
「知ってる方なんですか?」
「このマンションだと有名な人だよ、そしたら俺が調整するわ」
数日後、中元が契約する予定の隣の区画を武内さんが譲ってくれた。
「桐生さん、どういうことなんですか?」
「ああ、中元さんがだいたいこうやって文句言ってくるときは、大概何人かの過去の理事長が対応してくれるんだ」
「なんか、それおかしくないですか?文句言ったやつが得するってことですよね?セコくないすか?」
「まあ、そうなるけど、これはお前の気持ちで判断するべきことじゃないと思うぞ」
有田はムッとして聞き返した。
「どういうことですか?」
「これは、このマンションの管理組合がそうするって決めたことなんだよ。中元さんの要望を却下すると、中元さんは、その時の理事長とか役員のとこに怒鳴り込みにいくんだ。それが理由でもう役員やりたくないって人が増えちゃってさ」
「ここ、25世帯だろ?それで過去理事長やった武内さんが中心となって、中元さんを抑えるから、今まで通りみんなで役員やりましょうって、そういうこと」
「この対応が平等か平等じゃないかで言ったら、平等じゃないかもしれない、でも、この組合にとってはこれが正解だってことだ。それを、外部の俺たちがおかしいとかって言っちゃいけないんだよ」
「…納得いかないっすね」
「そのうち分かるよ、どんな歪なルールだったとしても、そのマンション毎になんとか一番傷の浅い方法を選んで前に進んでるんだ、ここに住むしかない人だっている。平等なマンションにした結果、住めなくなる人がいるのは、平等といえるのか?って話だよ」
「…」
「じゃあさ、中元さんが、病気を患ってるんで、近くの駐車場じゃないと困るんです、なんとかなりませんか?って相談されたら、どうする?」
「それなら多少配慮されるべきかと思いますけど…」
「中元さんは癌だ。身寄りもない。」
「だから表向きには、病気の方に優先的に対応してあげようってことになってる。まあ、本人は怒鳴り込むわバルコニーでタバコ吸うわでやりたい放題だけどな」
「優先される対象の人がみんないい人ってわけじゃない。もちろんいい人もたくさんいるけどな。だからあんまり特定の組合のことに自分の評価軸で首突っ込みすぎない方がいいぞ、この仕事」
「ってやつなー、あったなー」
「あの頃、まだ尖ってたんで、なんであんなわがまま言うやつの言いなりにさせてるんだろうとかすげえ違和感あったんすよね」
「まあな…他にもとあるゴミ屋敷部屋の清掃費を毎年組合で持ってるとこもあったなあ、組合費で清掃しないとゴミ屋敷になって周りに迷惑だからって数年前から取り決めてさ」
「これまで学習してきた常識や法令からしたら、個人の部分に組合費使うのなんてあり得ないからびっくりしましたよ」
「まあそういうもんだなー…あ、ちなみに後日談があってさ、、、あのリース車、とある事件で使われた車みたいで、トランクから色々出てきたらしく、警察からあの後すげえ色々聞かれたんだよなーうかつに触るもんじゃないなって学んだわw」
「桐生さん、、、それ聞いてなかったっす」
「あれ?言ってなかったっけ?」
おしまい🐈
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