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ポカリスウェット新CMの世界観に吸い込まれた。そんな広告(業界)の変化

寝起きで、ぼんやりしたままyoutubeを再生したのだけど、一気に目が覚めた。
公開当日から一気にネットで話題になった2021年の新しいポカリスウェットのCM。各界のクリエイターをTwitterでフォローしているので、御多分に洩れず私のもとにも公開初日にネットで流れてきたのだった。

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画像引用:ポカリスウェット公式サイト


毎年話題になるポカリスウェットCM、2021年は映画のような世界観

もはや何を言っても野暮でしかないので、内容については動画を見てくれとしか言えない。

映画みたいな空気感、色合い。

シーンは学校の廊下、誰にも経験があるような、とてもリアリティのある風景。それが、ひとたび主人公が走り出した途端に、一気に周囲が躍動し、さながらファンタジー映画のような演出がされている。

で、なにがすごいって、セットがすごい。

一見しただけでは気づかないかもしれない。このちょっと時空がねじれたような不思議な世界観を実現するために、作り込んだセットがすごい。

うねうねと動く床や天井、揺れる壁はCGではなく、すべてリアルに作り込んでいる実写。85mの廊下のセットを作ったんだそうだ。すごいの一言。

監督曰く「最初はCGを想定していたが、ポカリらしさはフィジカルだからという話になってCGをやめて動く舞台セットを作った」と言っている。うーむ、何もかもが規格外。

メイキング動画でセットがどんなものかがよくわかります。


宮沢りえ、綾瀬はるかをスターにした、ポカリのCMは若手女優の登竜門

ポカリスウェットのCMでは、これまでも多くの人気女優を排出してきた。どれも出演タレントの華々しいメジャーデビュー作となり、彼女たちは確実に人気を獲得して行く。それゆえ、ポカリのCMは新人女優の登竜門と言われているわけです。

宮沢りえ(1988~1990)
一色紗英(1991~1994)
綾瀬はるか(2005~2006)
中条あやみ(2015)

ごく一部を抜粋しただけでも、この顔ぶれ。

ここで選ばれれば未来の成功を約束されていると言っても過言ではない。ポカリガールと呼ばれるそうで、上記以外にも、時代の顔となった女性たちが名を連ねています。

ものすごいセットと、ブレイク間違いなしの若い女性タレントの組み合わせ。それは話題にならないわけがない。

テレビCMの製作費、タレントの契約料って?

このポカリスウェットのCM製作費ですが、正確な数字は確認できませんでしたが、一説には1億円。

でも、有名タレントがたくさん出ているCMは多い。携帯3社のCMを始め、近頃は洗濯洗剤のCMのタレントさんもやたら豪華だな?と感じることも少なくない。冷静に考えると、商品単価に比べて相当な額をかけているはず…。そう考えると、洗剤ってほとんど広告費?という気持ちになる。。

それに比べたら、出演者自体はほぼ無名に近いので、タレント料はさほどかかっていないと想像できる。

契約料だけで3,000万クラスのタレント3人使えば、あっという間に1億。それよりも、セットに同じくらいお金かけてる方がよりクリエイティブじゃないか!と立場的には思うけど、テレビCMは人に見られていない前提で作り流すもの。少しでも視聴者の目に留めるためには有名人の起用は欠かせない。

しかしここ数年、タレントに何千万も払ったのに不祥事一発でぶっ飛んだりしてるケースも多々。誰をブッキングするかで社運が左右されてしまうので、広告主も広告代理店も気が抜けない。

CMといえばお金がかかるのは製作費だけでなく放映料も、です。というより、むしろこっちが相当額。ポカリともなれば、オンエア回数も半端じゃない。だからこそ、ここまでの認知度があるわけなので。

テレビCMは基本、人が積極的に観ていないという前提で流されているもの。「そんなCM観たことない」と言われてしまうくらいなものでも、全国放送なら相当額の放映料を払っていたりする。
キー局のゴールデンタイムなら、15秒CM1回流して100万円とかの世界。だから、世間の人の無意識に刷り込まれているほどのCMっていうのは、そりゃもう何十億とかかっていると、簡単に想像がつきます。

CMにも意味を求める視聴者

最近特に、コンプラ・ポリコレ的に発言しやすくなったせいもあってか、案の定というか、以下のような意見がネットで散見された。

「また女子高生なの?」
「ポカリは二日酔いのサラリーマンや病気の人も飲むじゃないか」

まあ、言ってることはわかる。

だが、二日酔いのサラリーマンを、病床に伏せる人を、テレビCMで頻繁に見たいかと言われたらどうか。確かに二日酔いのサラリーマンや病気の人もポカリを飲むし、その使い方はポカリの用途的には大変有効なのだけど(効能を推したければそれは正解だ)、ポカリのターゲットの分母に対して、その人たちの数は決して多くない。何億もかけてそこにアピールする必要があるだろうか。

仮に、ポカリが“ターゲットが明確なニッチな商品”ならばそれでいい。
かなり限定した表現にする方が確実に届くからだ。

例えば『ボラギノール』はポカリに比べてニッチだし、いや、もうちょっと近しい商品で例えても、『OS-1(経口補水液)』とか、もっとその“限定された状況に居る人にバッチリハマる商品”は別にある。そういう表現は、そっちに譲ったらいいと思う。だから『OS-1』は効果目的がわかりやすいCMにしてあるし、『ボラギノール』は逆に直接的な効能よりも改善された後の快適なイメージを表現している。それでいい。ちなみに『OS-1』も大塚製薬でしたね。

ここでなんで例に『ボラギノール』を出したかと言うと、最近TVerでドラマを見ていて挟まるCMが軒並み『ボラギノール』だったから。ちなみに私自身は特別『ボラギノール』にターゲティングされる覚えはないので、TVerはターゲティング広告ではなくランダム表示なのだろう。
同じような動画コンテンツで言えば、Youtubeはユーザーの検索に影響するターゲティング広告だと言われていますが、instagramのそれに比べるとまだそんなに強烈ではない。インスタの広告怖いよ、あれ検索してなくても出てくるし、会話を聞いてるとしか思えない時があるんだけど…。

余談が過ぎたが、要するに、ポカリスウェットとはブランドであって、ポカリスウェットのCMはもはや商品告知の域を超えている。商品の効果効能を謳うよりも、ポカリのある世界観をいかに素敵に印象付けるか。ファッションブランドにも近い。
特に長く続く一貫した世界観のあるCMは、逆に、“これまでのファンを裏切ってはいけない。美しい思い出を壊してはいけない”という制約に縛られているとも言える。ジブリとか、ディズニーとか、なんかそういうものに通ずるものを感じなくもない。

これまでのイメージを壊さずに、さらにブラッシュアップして新しい価値観を取り入れ、時代に沿ったものにしていかねばならないというのは、過去をぶっ壊してリニューアルするよりもよっぽど難しいことのはずだ。

「女子高生を安易に使っている」という見方について

「女子高生消費」
「日本は10代女性に特別な視線を注ぎすぎなのでは」
というフェミニズムに基づいた視点も、まあわかる。よそでの表現では、私も度々気になることはある。地方自治体がすぐ萌キャラを使いたがるところとか閉口する。あれ、誰得?
だが、今はその議論は置いておくとして。

『ポカリスウェット』は、かなり間口の広い商品だ。
二日酔いのサラリーマンも発熱の人もターゲットだけど、メインターゲットはやっぱり活発に活動していて汗をかくシーンが多い人。アスリート、部活の学生、ランニングする普通の人。子供から老人までと幅広い。

でも「だったら、女子高生じゃなくてもいいんじゃないか?」という意見はごもっとも。

これは私の個人的な解釈なのだけど、この「女子高生」というのは、“全人類のいつかの自分アイコン”として使われているのではないかと思う。

陸上部の大学生も、二日酔いのサラリーマンも、子育て中の30代主婦も、親の介護をしている60代も、誰しも“高校生くらいの時期”は必ずあった。もう通り過ぎている人たちには、具体的な記憶があろうとなかろうと、漠然と『見るもの体験するものがすべてが新しかった、若い頃』みたいな“若さの象徴”的な時期ってもんがあるはずだ。

ほら、『若かったあの頃 なにも怖くなかった』と、南こうせつも神田川で歌っている。あれは作詞家の喜多條忠が、19歳の時の体験を元に30分で書いたのだそうだ。今ググって知りました。

今の高校生とは環境が違えど、30代にとっても60代にとっても”若かったあの頃”を連想できる。ここで使われている女子高生は、決して安っぽく消費されるために安易にあてがわれた像ではなく、見る人すべてのこれまでの半生を語る、永遠のアイコンだ。と思う。もちろん、まだ高校生以下の子供たちにはこんな青春を楽しみにしたらいい。

ここまで言ってもどうしても引っかかる人には『ポカリ飲まなきゃ』シリーズっていう、吉田羊・鈴木梨央出演の親子設定のCMがあってだな、そっちで全方位押さえてるんだよ、ということ言っておきたい。そういうところもポカリは抜かりないのだ。

これまでのような「勝ち組」ではない主人公

また、作中の中島セナさんが恐ろしいほどの透明感で美しいのだが、彼女演じる主人公の女の子は、主役でありながらどこか主役タイプではない。CMに流れるストーリーとしては、脇役にスポットを当てたような構造が見て取れる。きっと学校では物静かなタイプだ。

これまでのCM、ポカリに限らず『シーブリーズ』とかの高校生主役青春ものは、割と学年のアイドル的存在とか文武両道、さらに華やかな雰囲気を醸し、いつも輪の中心にいる目立つ“中心人物的存在”が主役になりがちだった。今っぽく言うなら“スクールカースト上位”な派手なタイプだろう。

再び余談だがこのスクールカーストって恐ろしい言葉だよな、と毎度思う。自分が10代の頃はそんな言葉がない時代でよかった。まあ言葉はなくともなんとなく“そういうの”はどこの時代にも存在したのだけど。

ともあれ、特にポカリは、商品の特徴からいってもスポーツや部活で活動的なタイプを持っていきがち。

で、今回の彼女は、部活は入っていてもたぶん文化系。
最初のシーンで廊下をひとりでとぼとぼ歩いているところは、むしろ周りの学生の方が元気があって華やかである。その中で流れと反対方向に走り出し、ユニフォームの運動部たちをかきわけ、体育館のステージの友達と手を取って緞帳の向こうに走っていく(ここはなんか演劇部っぽい?)。

こういう青春ものというのは大概キラキラしすぎていて「リア充じゃなかった自分を殺しにくる」という非リアの悲鳴が必ず聞こえてくるのだが、これに関していえば、どっちかっていうと多分この主人公は、放課後は仲良しの友達(最後に出てくる子かな)と漫画読んだりして静かに過ごしていそうなタイプと想像できて、まさに物静かな非リア。
だけど、自分らしく世間の流れに逆らって走り出したら、きっと何かが見えてくる。というメッセージと共に、すべての人を応援するものになっているんじゃないかというように見える。

こういう部分は、いかにも現代らしく“Z世代の空気感”をつかんでいるというか、間違いなく昭和にはなかった、非常にニュートラルな価値観だな、と思う。

今回のテーマは「アゲインスト」

監督の柳沢翔さんのインタビューで、CMのコンセプトについて「今の世界の状況に対して、ポカリスウェットのヒロインは『アゲインスト』することをやりたいとクリエイティブチームからオーダーがあった」と明かしている。

『アゲインスト』とは、対する、逆らう、反抗する、反対する…

その表現として、学校の廊下をゾロゾロと一方向に流れるように歩いているところから振り返って逆走する、という演出になっている。

「勇気を出して自分の道を進んだら「逆風」が「追い風」に変わる」というのが今回のCMのメッセージなんだそう。
監督は「『アゲインスト』というテーマを、どうすれば高校生に届くだろうか、と考えた時、すごく些細なこと、例えば『一緒に帰ろう』と友達に伝えるためだけに逆走するのは身近なのでは、と考えた」と言っている。

このコメントからもわかるように、あくまでもポカリは高校生にどう届くかをイメージしているようで、そういえば同じ大塚製薬の『カロリーメイト』も、メインの広告に関しては受験生を描いている。ただ、カロリーメイトの方も、野田洋次郎を起用した「この世界で考えつづける人へ」篇というのがあってこれまた素敵な仕上がりになっている。

今回のポカリの『アゲインスト』も、当然、高校生だけでなくそれ以上の年齢の大人たちの日々にも通ずるもので、だからやっぱり具体的なアイコンとして表立った表現は高校生だけど、すべての世代にメッセージしている。まあ、社会に出たら、逆風ばっかよね。

若い監督が広告業界も変えていく?

今回のCMが話題になって、注目されているのが監督(演出)の柳沢翔さん。30代。過去インタビューをいくつか探して読んでみたら、面白い人でした。

今回、ポカリスウェットのCMが注目された一連の報道やネットの書き込みを見て「あれ?」と思ったこと。
それは、今までだったら話題のCMで名前が上がるのは大体、クリエイティブディレクターかアートディレクターでした。広告と言ったら大体そのCD、ADがドヤる(笑)と相場が決まっている。
このCMにももちろんそういう立場の人はいるんだけど、今回は全然そちらが出てこず(電通の方々でした)、社外の動画クリエイターが注目されている。映画も撮ってる監督さんだからフィーチャーされているのかどうか、それともこれも時代かなあと思ったりなど。

私はたぶん広告にワクワクしてきた最後の世代なので、これまで広告業界を牽引し、時にドヤり倒してきたおじさんたちがオリンピック絡みで軒並み撃沈し(時代錯誤な言動ゆえ…)、大いにガッカリさせてくれた。そんな中で、それでも若い世代が広告の世界を更新してくれてるってのはとても元気になる話題でもありました。

柳沢さんは、美大で油絵を先行していたのに映像に鞍替えした上に、大手広告代理店の人ではなく(東北新社に入ったけどすぐやめている)、現場のたたき上げ。おそらくフリーランス的ポジションで複数のプロダクションに所属するというアーティストのような形を取って仕事をしている。

国内外で賞を取っているということで、私が知らなかっただけで、その世界では有名な方なのかもしれない。けど、メイキングで時々映る姿は監督然としてなくて、現場で楽しそうにしている姿を見ると、きっとそのまんまな人なんだろうなと感じられた。

近頃の若い(一概に年齢だけでは括れないけど)勢いのあるクリエイターの特徴として、存在感の軽やかさを感じる。ドヤらない、武勇伝的な自分語りをしない。ジメジメしてない。笑 カラッとして気持ちがいい人が多い。

前時代的な価値観や経験値に胡座をかいているのなら、今すぐ更新しなければ明日はない。自戒を込めて。


CMも脱テレビ。web,youtubeでじっくり味わう構造

動画のメイキングの他に、『CM制作の舞台裏』として、映画のパンフレットのような作りになっているコンテンツがあるのだけど、これは言ってみれば完成フェーズの企画書だ…!と個人的にテンション爆上がりしました。

セットの全景図からスケジュールまで載っている。このページへのリンクは、CMギャラリーページのラストにひっそりとありましたが、これこそお宝では!?!?

公開しちゃっていいの?とも思うが、さすがプロセス・エコノミーの時代。
CM自体は、さすがに出した瞬間のインパクトや解禁ルールがあるため事前露出はできない。そのため、公開後にこうして後からじっくり楽しめるコンテンツを用意しておくというのもwebの時代、動画の時代と痛感する。

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他のページもあります。必見です。

画像引用:ポカリスウェット公式ウェブサイト『CM制作の舞台裏』


実はyoutubeで散々観たあと、テレビでも15秒バージョンをたまたま目にしたのですが、正直、全然よさが伝わりませんでした…そう、これがテレビCM。

今回私がこのポカリのCMを知ったのと同じように、
TwitterやFacebookで話題になる→知った人が検索→webやYoutubeで見る

拡散方法としては、もはやテレビCMが主ではなく、ウェブ展開をメイン接触と設定しているんじゃないかと、実際にwebとテレビでリアルに体験した、いちユーザーとして感じました。

CMも脱テレビ。つくづく、CMもひとつのクオリティの高い動画コンテンツとしてwebや動画で楽しむ時代なのですね。



もしもサポートいただけましたら、私もまた他のどなたかをサポートしてサポートの数珠つなぎをしていく所存です!!