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「それでも生きなくちゃ」(27)


君の腕の中でアタシは初めて「女の子に生まれてきてよかった」と思えた。
これが、君との最後のセックスだとしても……
君の体温、君の情熱的なキス、君の指先に自分の指を絡めて、アタシとのセックスに溺れていく君をアタシは一生忘れはしないだろう……

これから、風俗嬢として生きていく事になっても、君とのセックスを何度でも、何度でも頭の中に思い描くだろうし、もう二度と君に会えなくなっても、アタシはこの日君と過ごした時間を死ぬまで忘れない。

結局最後のセックスでも君はコンドームをつけやしなかった。
アタシももう、君の遺伝子をアタシの中に残す夢は叶わないとわかっていたけど……

帰り支度をする君にアタシは服も着ないまま、両手を伸ばし涙が溢れそうになる顔を君の胸に填めた。

「ごめんね。アタシが勝手に君を好きになっただけ、ずっとアタシの我儘に付き合ってくれてありがとう」
君は黙ったままアタシのカラダを優しく抱きしめた。

「ね?キスして?」
君の顔を見つめてアタシは最後のお願いをした。

君は困った顔をしてダメだよってアタシの頭を撫でた。
アタシの目から涙がこぼれ落ちた。
「最後だから、キスしてくれなきゃ終われない」
君はアタシの頬に手を添えて一瞬唇を重ねた。
(あぁ……これで最後だ)
君が初めて優しい優しいキスをアタシにくれた。

まるで、付き合い始めた恋人同士が初めてするようなキスがアタシと君の最後のキスになるなんて……

セックスから始まったアタシと君だから、こんな終わり方でよかったのかな?

「風邪ひくからここでいいよ」
玄関先で君は軽く手を振る。
「さよなら」
アタシは君に聞こえないくらい小さな声で君に別れの言葉を告げた。
君の後ろ姿をずっと見ていた。
このまま飛び出して君を背中から抱きしめたかった。
伸ばした指先はもう君には届かない。

終わったんだ。
始まってもないのに、終わったなんて意味がわかんないね。

君とアタシは結局なんだったのかな?

セフレでもなくて、恋人でもなくて、でも、アタシが1番苦しくて辛い時、側にいて支えてくれたのは、紛れもなく君だけだった。

君がいつかアタシを忘れてしまっても、アタシは君を死ぬまで忘れない。

「最後だよ」
君はそう言ったのに、どうして、君は風俗嬢に出戻ったアタシに、相変わらず気まぐれにアタシにメッセージを送ってくるの?

ねぇ?やっぱり君アタシの事好きなんぢゃないの?

まだ、君からの本当の気持ち分からないままだけど、君は恋愛がめんどくさいだけで、アタシの事は本当は好きなんぢゃないの?
なんて淡い期待をアタシは胸に描いてしまう……

君と出会ってからもう2年。
相変わらず君は「好きだ」って言葉をくれやしないけど……



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