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「それでも生きなくちゃ」(15)

女子更衣室裏での、あの出来事が何でもなかったかのように、アタシはその日も仕事を終え、女子更衣室に着替える為に向かった。

見覚えのある君の車が駐車場にとまっていた。
(?こんな時間に、こっちに来るなんて珍しいな)
アタシが、君の車の前を通り過ぎようとすると同時に、君は車のドアをあけた。

「どうしたの?こんな時間にこっちに来るの珍しいね?」
「あ、いや、弁当箱忘れたんだよ」
「そっか、ぢゃあ、また、来週……違うか、再来週だね」
「そうだね。おつかれ」
「うん。バイバイ、またね」
アタシの仕事は2交替だから、1週間昼勤が続くと、翌週は夜勤勤務になる。
でも、君は、昼勤のみの社員だ。

今日、これで顔をあわせたら、後1週間、君に会うことは無い。

女子更衣室裏の喫煙所での、あの「秘密」も、きっと君は忘れてしまうだろう……

アタシの胸の奥でキュッと軋む音が聞こえた気がした。

君に軽く手を振って、女子更衣室に向かう。
制服を脱いで、私服に着替え終わり、歩いて帰ろうとするアタシにNちゃんが、暗いから、駅まで送ってくよと言ってくれた。
アタシはその言葉に甘えて、Nちゃんの車に乗った。駅までの道のり、Nちゃんとたわいもない会話をしていた。

駅に着く途中で、アタシのスマホに1件のメッセージが入った。

君からのメッセージ。

「今日、俺、送らなくてよかったのかな?」

あれから、ストーカーには会ってない事も、Nちゃんが駅まで送ってくれる事も君は知っているのに……

「駅で待ってる。送ってよ」
アタシは電車で帰ることもできるのに、そんなメッセージを君に送っていた。

そのメッセージを送る時には、
君がアタシにナニを求めているのか、既にアタシは理解していた。

「秘密」の続きを期待していたのは、君だけぢゃなかった。
君がアタシとセックスがしたいのはもう、本能で感じ取っていた。
そして、アタシも……きっと同じ……

駅でNちゃんにお礼を言って、またねと手を振った後、アタシは自販機で、コーヒーを1本買った。

君をどれくらい待っていただろうか……
手に持っている缶コーヒーの温度が少し温くなっていった事だけしか覚えていない。

君の車がアタシの前でとまる。
アタシはすぐに車に向かって走った。

君の車のドアを開け助手席に座る。
運転席の君は制服姿ではなく、ラフな私服姿だった。

「家まで送ってね」
アタシは温くなった缶コーヒーを君に手渡した。

君と今夜、アタシはセックスをする。

でも、その日、帰る直前に、半年前止まっていた、生理が始まっていた。

神様が、君とセックスしてはいけないという警告を出していたのかもしれない。

でも、君はあの日、家に着くと、アタシのカラダを不意に抱きしめ、燃えるような激しいキスをした。

想像もしていなかった君のキスに、アタシは何もかも、過去の傷さえ忘れて、絡みつく君の舌に、自分から舌を絡めた瞬間、頭の中で、何かが弾ける音が聞こえた。

もう、誰にも、止められない終わりのないアタシの「恋心」が決して、辿り着けないゴールを目指して、スタートしてしまった……

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