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「それでも生きなくちゃ」(4)

   

仕事終わりにM君からS上司にも一応話しておいてって言われたから、アタシは苦手なS上司に事の経緯を説明する羽目になった。
アタシの話を聞いてS上司の反応もだいたい予想通りだった。
「それはストーカーなの?ストーカーなら、警察の仕事でしょ?」
(でたよ。責任逃れしたいの丸わかりなんですけど)
なんて事を思ってアタシは心の中でため息をついた。
「ストーカーって言うほどぢゃないですけど……」
「帰り道を変えるとか、自転車で帰るとかは?」
(駅まで他のルートなんてないし、相手が自転車なのに、なんでアタシも自転車で帰るのよ?仲良く並んで帰れってこと?)
結局、なんの対応もしたくない態度が丸わかりのS上司とM君も送るとも送らないとも言わない態度に段々アタシは腹がたってきた。
「タクシーで帰るから、もういいです」
(バカバカしい、最初から期待なんてしちゃダメなのは、わかってたけどさ)
心の中でモヤモヤする感情を抑えきれなくなりそうになってアタシは自分のデスクから、バックを乱暴に取って外にでた。

就業時間から30分以上遅れたから、今日は会わないで済むかもしれない。
一応タクシーを呼んでみたが30分以上待つと言われたので、とぼとぼと駅までの道を歩きはじめた。
しばらく歩いて、君が携帯番号を教えてくれていた事をアタシは思い出した。
(また、仕事してるかな?……一応連絡してみる?)
部署が違う君の仕事のスケジュールを知らないから、あまり期待はしないでアタシは君に初めて電話をかけた。

3回ほどコールして、アタシは電話を切った。
(結局、どいつもこいつも口だけなんだよ)
アタシはなんだかとても虚しい気持ちになって泣きたくなるのを必死に堪えていた。
その時、君の番号から着信がきたんだ。
「電話、出れなくてごめんね。どうなった?」
君はやっぱり女の子の扱いが上手い人なんだね。

誰よりも、アタシを心配しているのが君の声でわかった。

アタシは君の優しい声を聞いて、涙が溢れ出すのを止められなかった。

あの時、君が泣き出したアタシにびっくりして、慌てて仕事も放り出して迎えに来てくれたこと、多分アタシは一生忘れないって思ったんだよ。


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