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「それでも生きなくちゃ」(番外編)

少しだけ、過去の話をしよう。
アタシのADHDという障害についての話だ。
ADHDの認定が付いたのは、大人になってからだが、発達障害とは、生まれつき脳に異常があり、わかりやすく言えば、健常者の脳が作り出す成分の分泌が少なく、健常者が当たり前に出来ることが、難しかったり、こだわりが異常に強かったり、決められたルーティンが変わると、理解が出来なくなったりする脳の障害の1つ。(人によって、症状が違う為、あくまでも、これから話すことが、全てのADHDに当てはまる訳では無い事は理解して欲しい)

先日、何時ものように、風呂で、浴槽に浸かっていた時に、何故か頭の中に「御使いガブリエル」という曲の歌い出しが、蘇った。遠い、遠い、昔の記憶……

カトリック系の幼稚園にアタシは、通っていた。
そして、小学生の1年生から6年生までの間、ガールスカウトに入団し、6年間ガールスカウトとしての活動をしていた。
アタシは幼稚園児の頃からADHDの症状があったのだと思う。
他の園児とは、少し違うと気づいていたのは、T先生だけだろう。
休み時間に、殆どの園児は外で、遊具遊びをしていたが、アタシは1人黙々とお絵描きノートにクレヨンで、絵を書いていた。
別に絵を描くのが上手かった訳では無いが、1人の世界に入り込りこむことが、アタシにとっては「普通」の事だった。
T先生だけが、教室に1人で絵を描いているアタシに「上手だね?」「これは、何を描いたのかな?」と声をかけてくれていた。
幼い頃から眠る前に、絵本を母に読んでもらっていた影響なのか、ADHDのアタシの特性なのかは、わからないが、アタシは幼稚園児にしては、ハッキリとした言葉で、説明していた。自分の描いた絵を、笑顔で褒めてくれるT先生にだけ、自分の言葉で、喋る事が出来たアタシの言語能力の高さを、多分T先生だけが理解していたのかもしれない。
カトリック系の幼稚園のクリスマス会では、必ず「聖劇」(イエス誕生までのストーリー)を1クラスだけ演じる事が恒例だった。
その年のクリスマス会で、「聖劇」を演じる事に決まったのはアタシがいたクラスだった。
女の子はみんな、マリア役か大天使ガブリエルの役をやりたいと思っていた。
配役は先生が適任と思う生徒を選ぶ。
「公平に決めるから、与えられた役を頑張りましょう」なんて事を言っていた記憶があるが、配役発表の日、マリア役に決まったのは、クラスで1番かわいい女の子だった。
アタシは別にマリア役がやりたかった訳では無いが、世の中の仕組みとはこういうモノなのだなと、既に理解しはじめていたのかもしれなかった。
もともと、同じクラスの園児の誰とも馴染めないアタシに、与えられた役は、「最後の解説」の役だった。多分T先生からの助言があったのだろう、他の園児よりも言語能力がある事にT先生だけが、気付いていたから。
何故なら、「最後の解説」の役は、「聖劇」のストーリーをかいつまんで、最初から最後までの流れを説明する役だった。
他の役のように、他人と台詞をあわせる事が出来ないアタシには、適役だった。
幼稚園児が覚えるには、到底無理だとも思える長い台詞を、アタシは毎日、毎日、繰り返し練習し、そして、クリスマス会当日、その長い台詞を、一言も間違えずに、語り終えた。
1度降りた幕が上がり、それぞれの配役の衣装を着たクラスメイトが最後の挨拶をして、保護者達の拍手に包まれたことを、今もハッキリと覚えている。
解説役には衣装は無く、アタシだけが、いつも着ている制服姿だった事も。

アタシの今までの人生の中で、「聖劇」を演じたのは2回。

幼稚園児の時と、ガールスカウトとして活動した最後の6年目、アタシが小学6年生の時だった。

その時既にアタシには、薄汚れた、記憶から消し去ってしまいたい経験をしていた。

ブラウニー(小1から小3)からジュニア(小4から小6)になった時に、アタシは誓いの言葉の中にある「スカウトは純潔である事を誓います」と言う「純潔」に、アタシが既に、当てはまらない存在である事を理解していたが、その事に後ろめたさを感じながらも、ジュニア時代の3年間を偽りの笑顔で通し抜き、そのまま、シニアに繰り上がる話を断り、ガールスカウトとしての活動を終えた。

ガールスカウトに入団したのはT先生の推薦があったからだ。ADHDでありながら、誰にも気づかれる事無く、集団行動や、礼儀作法を身につける事ができたガールスカウトとしての6年間の活動が無ければ、アタシは中学、高校は特別支援学校に進む事になっていたかもしれない。

ガールスカウト時代に演じた「聖劇」でのアタシの配役は天使だった。

既に、天使の役など演じる資格すらない薄汚れた程遠い人間である事を知りながら、誰にも、その秘密を打ち明ける術を知らなかった。
「御使いガブリエル」の歌が様々な過去をアタシの脳裏に蘇らせた。

全て、全て、あの秘密さえ、無かった事にできれば、何度そう思っただろう。

アタシの左腕に醜い傷跡が、少しずつ増え始めたのは、ガールスカウトとしての活動を終えた、中学生時代。

そして、君と初めてSEXをした日、この醜い傷跡だらけの左腕の理由を、君にだけは、決して知られたくないと、思った。

そんな気持ちになったのは、アタシの君への一方通行の恋が、初めてセックスをするよりもずっと前から、既に始まっていた事をアタシが自覚してしまったからだ……




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