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「それでも生きなくちゃ」(25)

アタシはずっと、ずっと、君からのLINEを待ち続けていた。
君のアイコンがいつも1番上に来るように設定して、赤いマークが着くのをずっと待っていた。
「おはよう」と「おやすみ」だけでよかったのに、それすらも来なくなってアタシは、ベッドの中で死んだように眠っていた。
テーブルの上に置いたままのノートには、最後に君から「おはよう」のLINEが来た日から何も書いてない。

生きているのか、死んでいるのかもわからないまま、アタシはベッドの上で布団にくるまっていた。

左手首に残る無数の傷跡を眺める。

アタシは、ベッドから抜け出して、テーブルの上に置いてあるポーチの中から、セラミックのカッターを右手で握った。

左手首はもう傷跡で皮膚が硬くなっていたから、カッターの刃を深く刺して力を入れた。

引き裂かれた左手首の皮膚から、赤い血が流れる。
痛みはあまり感じなかった。
繰り返し、何度も左手首を切り裂いた。
アタシは嗚咽を漏らしながら、涙でぐちゃぐちゃになった顔を両手で覆った。

死にたくなんかないけど……
死にたいわけぢゃないけど……

なんで、アタシ生きてるの?
なんでアタシまだ、生きてるの?

どうしたらいいかわからないんだよ……

誰か教えてよ……

アタシが誰かに愛されたいって思う事は罪なの?
汚い過去を持ってるから?
汚れたカラダで生きてきたから?

アタシが産まれてきた意味がわからない……
アタシは誰にも愛される資格がないの?

左手首が自分の血で真っ赤に染まって、流れ出した血液はそのまま、床を赤く汚した。
頭の中でアタシの中の人格が叫ぶ。
(救急車呼ばなきゃダメ!)
「大丈夫だよ……自分で処置できるよ……」
切り裂いた傷口から、流れ出す自分の血をティッシュで押えた。
真っ白なティッシュが真っ赤に染まっても、左手首から溢れ出す血液は止まらなかった。
(はやく!救急車呼んで!!)

アタシの中の別の人格が叫ぶ……
いつの間にか入れ替わったみたいだ。

アタシは右手に携帯を握りしめていた。

遠くから、サイレンの音が聞こえる……

そのままアタシは目を閉じて、また自分の中の深い場所に落ちていった。

アタシが次に目を覚ました時には、病院のベッドの上で左手首には、白い包帯がキツく巻かれていた。
朝になって、おねーちゃんが迎えに来た。
心配と困惑の混ざった顔を今でも覚えている。

「大丈夫?」
アタシは小さく頷いて、会計を済ませたおねーちゃんの後ろをノロノロと重い足取りで歩いた。
「ねぇ、タバコ吸いたい」
「今?持ってきてないよ?」
「ぢゃあ、コンビニ行く」
おねーちゃんはアタシを車に乗せて1番近いコンビニに向かった。
「ハイライト1個、青い方ください。あとライター1個」
コンビニのレジでタバコとライターを買って、アタシは灰皿のある場所で1本タバコを吸った。
車の中でそんなアタシを見ながら、おねーちゃんが小さくため息をついているのが見えた。

手のかかる妹だと思ってるんだろうな……
悪いなと思う気持ち無いわけではないけど、アタシだって自分をどうしたらいいのかわからなかった。

「しばらく入院する?」
帰りの車で、おねーちゃんからそう提案されたけれど、アタシは首を横に振った。
「大丈夫……もうしないから」
「約束できる?」
アタシはその言葉を聞こえないふりをして目を閉じた。

そして、何度目の救急車騒ぎの後だろう、君からのLINEが来たのは……

いつもの「おはよう」ではなくて、前置きもなく「なんか、疲れたな」って……

アタシが君を気にかけないとでも思ってるの?
君がアタシに気をかけてくれなくなっても、アタシは何時だって君を想っているのに。

アタシはLINEの通話ボタンを押していた。

君が通話には、なかなか出ないのを知っていたのに……

「逢いたいよ……」
アタシは、溢れ出す涙を拭いもせず、君にメッセージを送った。

「逢いたい」

そして、その夜、アタシは君と最後のセックスをして、全てを話し、君にサヨナラしたんだ。

あの日は、君とサヨナラの「キス」もしたのに。

アタシと君の、名前も付けられないヘンテコな関係がそこで終わると思っていた。

終わりになんて、できやしなかった。

どうして、君はアタシの汚い過去も、これからナニをするのかも知ったうえで、アタシを手放してくれなかったの?

君の気持ちだけ、アタシ最後の最後までわからなかったんだよ?

アタシね、きっとアタシが死ぬ前に思い出すのは君なんだって今も思ってる……







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