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「それでも生きなくちゃ」(26)
君のLINEにメッセージを送った。
『アタシね、クズで最低なオンナなの、だから軽蔑して、嫌いになって』
メールの最初の文章を今も覚えてる。
アタシが君へのLINEに込めた想いが伝わるだろうか……
『いきなり何?どういう意味?』
アタシは震える指先で君にアタシの過去の仕事が、なんだったのかLINEで送った。
『カラダ売って生きて来たの、アタシ風俗あがりなんだよ。汚れてんのアタシ、君に出逢うずっと前から……』
『別に風俗やってたから、汚れてるとは思わないけど?俺だって、風俗で遊んだ事くらいあるし』
汚れてる、汚れてるの、風俗嬢だったからぢゃない、もっと前にアタシは汚れたカラダで生きてきたの……
まだ、主治医しか知らないアタシの秘密……
『アタシね、子供の時にね、性的虐待受けてたんだよ』
送信ボタンを押す指が涙で滲んだ。
『誰に?』
アタシは文字にする事ができず、君のLINEの通話ボタンを押していた。
君が通話はあまり好きぢゃない事アタシ、知ってたのに。
泣きじゃくるアタシの声を君は黙って聞いていたね。
アタシ、自分がこんなに泣き虫だなんて知らなかった。
君に打ち明けた秘密は重すぎて、もうアタシ1人では抱えきれなくなってたんだ。
だけど、君だってこんな秘密を打ち明けられたって、どうしていいかわかんないよね……
君の『誰に?』に対してのアタシの答え。
「××××××」
主治医にだけ話したアタシの忘れてしまいたい過去を、何故君にも打ち明けてしまったんだろう……
君にアタシの全てを知って欲しかっただけ?
違う。
アタシは狡い。
君が簡単にアタシを見放す事ができないようにしたかっただけだ。
軽蔑して嫌いになって欲しいなんて1ミリも思ってない。
「嫌いになって」なんて君がアタシの事を本当は「好き」で言葉にしてくれないだけなんだって、アタシ心のどこかで期待してたんだね。
馬鹿なオンナだよね。
アタシは汚い。
君に愛される資格なんかないのに、君の1番になりたかった。
君だけの女の子でいたかった。
君の隣で、君と手を繋いで……
君と同じ苗字になりたかった。
君はアタシに「好きだよ」なんて最後まで言ってくれやしなかったけど……
「会いたい……」
「俺、明日も仕事だよ」
「最後にするから、君と最後にセックスしたい」
君とのセックスで、何もかもを上書きしたかった。
君の体温を感じたかった。
誰も居ないこの家で、今一人きりでいたらアタシはきっと全てを投げ出して「りりこ」に人格を引き渡してしまう。
あの子は全てを憎んでいる。
アタシを含め全てを……
「ぢゃあ、俺が逢いたくなるようなアピールして?」
「アピールって?」
「それを貴女が、考えてってこと」
さっきまでの重たい空気が和らぐのを感じた。
「どうせ、セクシーショット見たいだけでしょ?」
「んー?見たらその気になるかもしれないよ?」
アタシは何枚かの写真を君に送った。
君はその写真を見て、相変わらず綺麗なカタチの胸だな。なんて言うから、アタシはそれから自分のカラダを好きだと思えるようになったんだよ?
しばらくLINEで君とメッセージのやり取りをした。
アタシは君がこのくだらないLINEのやり取りを楽しんでいるだけで、来る気なんかないんだなって諦めがついた。
君に最後のLINEのメッセージを送って携帯をベッドに放り投げた。
『来る気ないでしょ?もういいよ』
君からのLINEの返信を知らせる音が鳴って、君のメッセージを見た瞬間アタシは急いで玄関の鍵を開けた。
『玄関開けてみな?』
君は車の中から、アタシが出てきたのを確認すると、そのまま駐車場に車を停めた。
今、何が起こっているのか理解できないままのアタシは、ただ呆然と目の前にいる君が、幻ぢゃないかどうか確かめるように君の指先に触れた。
君の体温……
少し冷えた君の指先……
「寒いから、中に入れてくれない?」
アタシは溢れ出る涙をとめることができなかった……
今も、覚えてるよ。
あの日は「さめざめ」さんの「裏SHIBUYA」がリリースされた日。
あの日、何もかも君に話して、最後のセックスをして、君にさよならしたのに……
さよならしたのに……
アタシが君に足枷をつけてしまったから?
アタシの秘密を知ってしまったから?
でも、君はあの日もアタシを「好きだ」と言ってはくれなかったね。
アタシはあの日のキスが君との最後のキスだと思ってたんだ。
君が「これで最後だよ」って言ったから……
なのに、君はどうしてアタシへメッセージをまた、送って来たの?
アタシが君からのメッセージを拒まない事知ってるくせに……
アタシも狡いけど……
君もちょっと狡くない?
そういう君を嫌いになれないアタシが1番馬鹿なんだけど……
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