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「それでも生きなくちゃ」(18)

君とベッドでセックスをした。
「イきそう?」
「ん…………薬……飲んでるから……イきにくい…………」
安定剤の副作用で、セックスでの感度が鈍くなっていたけど、君のカラダに触れているだけで、アタシは満たされていた。
「あっ……待っ……て……」
不意に、忘れていたあの感覚が蘇る。
子宮の奥が苦しくなる、あの感じ。
君のカラダも気がついていたね?
「どうした?」
君はわかっていたクセに、悪戯をしたくてたまらない子供みたいな顔してワタシを見た。
君が、両手で支えていたアタシの腰を激しく揺さぶった瞬間、アタシは、快楽に落ちる自分を見ていた。

あれは、アタシ?
君の上で、君に腰を抱かれているのは……
君のカラダに力なく、もたれるようにカラダを預けているのは……

(あぁ……あの子だ……)

セックスをしていて、乖離症状に陥った事は今回が初めてではなかった。

オーガズムに達する事が、引き金なのかは、わからないけれどアタシは時折、自分の性行為のクライマックスの瞬間、アタシとあの子が分離して、アタシのカラダから自分が離れていく事を何度も経験していた。

(やっぱり……ダメなのかな……)

ぼんやりと君とハダカで抱き合うアタシ……いや、違う……あの子を見下ろしていた。

不意に指先に君の体温を感じた。
いつの間にか、アタシはまたアタシの中に戻っていた。
「今何時?」
アタシは時計を確認して、君に時間を告げた。
アタシの髪を撫でて、そろそろ帰らなきゃなんて君は言う。
「?……まだイってないでしょ?」
「イきにくいのよ、おじさんだからね」
「何それ?イかなくていいの?」
君の言葉に思わず笑みがこぼれた。
(変な人)
ただ、性欲処理したくてアタシとセックスした訳ではないのかな?
ほんの少しだけ、卑屈に物事を考える自分の悪い癖。

でも、心の何処かで、君に期待している自分もいた。

「待って、多分……汚れちゃってる……」
自分の子宮から剥がれ落ちたモノがキミを赤く染めていた。
「シャワー浴びる?」
「いや、時間無いな」
そのままには出来ないから、アタシは、新しいタオルで君のカラダを拭いた。
「帰ってから、ちゃんと洗ってね?」
君はわかったとでもいう風に頷くと、脱ぎ散らかした、自分の服に手を伸ばした。

結局、君がどういうつもりでアタシとセックスしたのかは聞けなかった。

君を玄関で見送る時、アタシは君にキスを強請った。

君はちょっとだけ照れくさそうな顔をして、アタシの唇に君の唇が重なった。

「おやすみなさい」
「うん。おやすみ」
「気をつけて帰ってね?」
「うん」
君が軽く手を振る。
アタシも笑って手を振り、君の後ろ姿を見つめていた。

あれから、何度同じ場面を繰り返しただろう。

君に会えない1週間の間に、君と初めての大喧嘩をして、顔も見たくないなんて思ったのに、結局アタシと君は今でも、名前の付けられない、ヘンテコな関係を続けている。

ねぇ?君は気がついてるのかな?

「恋愛はめんどくさいんだよ」
なんて言ったくせに、いつまでも、アタシを手放してくれないのは何で?

最後にしようってさよならもしたよね?もう連絡しないよって言ったのは君なのに、次の日から毎日メッセージを送ってくる君の気持ちが、愛でも、恋でもないなら、なんなの?

アタシ、君がしわくちゃのおじいさんになっても、ずっとずっと隣に居たいんだよ?

アタシが君を好きな事に気付かないふりをいつまで続けるの?

そろそろ、君の本当の気持ち……
教えてくれないかな?










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