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「それでも生きなくちゃ」(14)
君は、アタシのお腹から、手を離して胸ポケットの中のタバコを取り出すと、1本抜き取り口に咥え、火をつけた。
沈黙が続く中、アタシは君の横顔をじっと見つめていた。
沈黙を破ったのは君からだった、
「あ、あれから、あのストーカーどうなった?」
もう、誰もが、忘れているであろう事なのに、君だけが、アタシをずっと気にかけていてくれた事が、嬉しかった。
こんな醜い、汚いアタシを……
素直になれない。
素直な、普通の女の子になりたかった。
好きになったら、好きな人に、
「好きだ」
と大声で叫びたいくらい、アタシは素直な女の子でいたかった。
でも、アタシの忘れてしまいたい過去の傷が、それを許してはくれなかった。
アタシはタバコの煙をゆっくり吐き出す。
「あれから、会わないし、たまにNちゃんが、帰り道だからって車で駅まで、送ってくれてるから」
「そっか」
君はタバコを灰皿に捨てると、アタシの腰に手を伸ばし、そのままアタシを抱き寄せた。
アタシは今、自分の身に何が起こっているのか、理解出来ずにいた。
(え?……な、なに?……)
パニック状態のアタシの頭の中。
君はアタシを抱き寄せたまま、アタシの胸に顔を埋めた。
アタシは君を拒まなかった。
拒む理由が、見つからなかった。
でも、何時、誰が来るかもわからないこんな場所なのに、君の腕から逃げ出すことが出来なかった。
「ちょっ、どうしたの?ねぇ?……」
アタシの声が震えているのはわかっていた。
戸惑いながら、君に声を掛けてみたが、君は、アタシの胸に顔を埋めたままで、力強く抱きしめられた君の腕から、アタシは逃れる理由が見つからない自分自身にも戸惑いを感じていた。
君の髪に触れようと、アタシが手を伸ばした瞬間、15分休憩の終わりを告げるチャイムが鳴った。
君が、アタシを抱き寄せたまま離してくれないから、アタシはどうしたらいいのかわからないまま。
「ねぇ、休憩終わっちゃったから、ね?ねぇ!」
君の肩を揺さぶるアタシの手が震えていた。
君は、どうして、こんな場所で、アタシを抱きしめたりしたの??
(今、アタシに何が起こってるの?)
(この人、どうかしちゃったの?)
アタシは頭の中がパニックになりながらも、仕事をサボれる立場ではないから、
苦肉の策として、君の耳元で、囁いた。
「ね?ここ、会社だから、ね?そういう事はプライベートでね?」
アタシは今はスナックのホステスぢゃないけど、客を軽くあしらう時の様に君に接してしまうしか手段が思い浮かばなかった。
緩んだ君の腕を逃れて、アタシは走って自分の工程に急いだ。
君がどんな表情をしているのか、知りたい気持ちもあったけど、振り返って、君の顔を見る勇気はアタシには無かった。
仕事に戻っても、アタシの頭の中はパニック状態で、今、自分の身に起こった事がなんだったのか、理解できないままその日を過ごした。
ねぇ?君はどうしてあの日
アタシを抱きしめたの?
あの時、強引にアタシの腰を抱き寄せた君の腕の温もりを、今も忘れられないないでいる。
本当はわかっていた。
自分でも、気づいていた。
もう、誰にも、止められやしないと……
アタシの恋がスタートラインを超えて、真っ直ぐに君に走り出した。
ゴールなんて、見えやしなかったけど、
アタシの恋が加速していく。
あの日の夜、アタシは初めて君とセックスをした。
愛してるとも、好きだとも言われてやしないのに……
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